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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第二章 フロル、氷竜と出会う
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8:それでも責任はありますゆえ


 魔力というものは、この世にあるものすべてに宿っている。

 生き物の体に、大地や植物に。その量こそ違いがあるものの、魔力を持たないものは世の中には存在しない。


 さて、そんな魔力だが、自然界には持続的にその魔力を作り出す『根源結晶』というものが存在する。

 前述の通り、魔力を保有できる量には個体差があるのだが、それが少なすぎると土地が枯れてしまうのだ。


 だからこそ竜種――特に守護竜と称されるほどの者たちは、自分の魂の一部を切り離して、それを素に根源結晶を作り出す。

 竜種は膨大な魔力量を有しており回復も早い。作り出した根源結晶も、その性質を持っているため、持続的に魔力を生み出せるのだ。

 そして根源結晶を設置することで土地を魔力で満たし、枯れないように保っているのである。


「ネーヴェ様は守護竜だったのですね」

「そーよ。分かるでしょう? この高貴さと美に満ち溢れた姿……存分に褒め称えて良いわよ」


 しゃららん、とウィンドチャイムの音が聞こえそうなくらい、優美なポーズを取るネーヴェ。

 フロルは目を輝かせて熱心に拍手をする。

 そして「ちょっとだけ」静かにしていたので大丈夫だろうと口を開いた。


「これが高貴! 初めて見ました、素晴らしいです!」

「初めて……? フロルさんは王族ですよね? お知り合いには、そういう方が多いのでは?」

「連中にあるのは高貴さではなく高慢さです」

「普段の緩い雰囲気を一瞬で消されてしまうと、心臓がキュッとなりますので勘弁してください」


 フロルが真顔で答えると、トーがひいっと軽い悲鳴を上げた。

 その反応を見て、フロルはハッとある事に気が付く。


「もしやこれがギャップ萌えの神髄……!」

「違うよ」

「違います」

「違うわよ」


 すると三人からツッコミが返って来た。実に勢いが良い。

 フロルは「違うのか……」と呟いた。


「だいぶ脱線したから話を戻すわよ。うちの山、土地の魔力が急激に減少しているの」

「どの辺りにある山なんですかね?」

「魔王国の王都からだいぶ北の方にある山ですね。一応、魔王国の領土内ではあります」

「一応?」

「あの辺りは竜の聖域が絡んでいるので、干渉を禁じられているのです」


 フロルの疑問にトーがサッと答えてくれた。

 竜の聖域とは竜種の産卵場所のことだ。

 この世界を創生した始原の竜が生まれた場所と言われており、どんな体質を持った竜種にも合うような土地となっている。

 そこで竜種は卵を産み、育てる。そうして一定まで育つと、親と共に本来の生息地へと戻って行くのだ。


「だからネーヴェ様の姿を見たのも今が初めてだね」

「なるほどー、だいぶシークレット&ミステリアスな存在だったんですねぇ」


 ふんふんとフロルは頷く。


「あらっ、あんた、今のは良い表現よ。褒めてあげる」

「これは嫌味ですか?」

「褒めだよ」

「褒めですね」

「褒めてるのよ」


 先ほどのことがあったので、ちょっと慎重になったら、今回は言葉のまま受け取っても良かったようだ。

 言葉とは難しい……とフロルは渋い顔になる。フロルは人付き合いをさほどしてこなかったので、どうにもこういう部分が他人とズレてしまうのだ。

 何だかんだで王城の部屋から出るなと言われていた頃は、他人と会話する機会も少なかったのでボロが出にくかったな、とフロルは思った。


(経験値があまりにも少ないなぁ)


 そんなことをぼんやり考えていると、


「それで魔力減少の話だけど、根源結晶に悪さをしている奴がいるみたいでね。魔力をごっそり持っていかれたの」


 ネーヴェはそう続けた。

 根源結晶はネーヴェの魂の一部――つまり守護竜の一部である。だからこそ、どんなに悪名高い犯罪者だって、根源結晶にだけは手を出さないと言われている。

 それに手を出した不届き者がいるらしい。


「実に罰当たりですねぇ」

「そうなのよ、本当に罰当たりなのよ。見つけたらタダじゃおかないんだから」

「犯人の目星はついていないのかい?」

「一応、あるわ。使われた魔法の痕跡に、宝石竜の気配を薄っすらと感じたから」


 えっ、とフロルは目を瞬く。

 宝石竜の気配というのは先ほどフロル自身もネーヴェから言われた言葉だ。

 つまり加護持ちか、その宝石鱗を持った人竜国の関係者が、ネーヴェの根源結晶に手を出した可能性があるということである。

 フロルはバッとその場に座り、両手を前について頭を垂れた。


「それは大変ご迷惑をおかけしました!」

「ちょ、ちょっと、あんた何してんのよ。別にあんたがやったんじゃないでしょ」

「いえ、どうにも身内の犯行っぽいゆえ……!」

「んん~……!」


 頭上でネーヴェが唸る声が聞こえる。

 その次の瞬間、ひょいとフロルの身体が宙に浮いた。ネーヴェに持ち上げられたのである。

 ネーヴェは「仕方ないわね」と言うような、慈愛の籠った優しい眼差しをフロルに向ける。


「……真面目な子ね。いいから顔を上げなさいな。あんたに怒ってんじゃないんだから」

「私の宝石鱗で魔力の補完ってできますか? もし可能でしたら、剥がしますので必要枚数をお教えてください。剥がします」

「聞いて⁉」


 せっせと提案するおフロルに、ネーヴェは目を剥いた。

 そのやり取りを見ていたアイルとトーは、


「あの子、意外と人の話を聞かないよな……」

「面白い人がきちゃいましたね……」


 と言って、何とも言えない顔を浮かべたのだった。


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