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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第二章 フロル、氷竜と出会う
6/44

6:仕様かもしれない


 『竜』というものは特殊な立ち位置を持つ生き物で、フロルの故郷である人竜国の宝石竜のように信仰されている場合が多い。

 神の代理人とも呼ばれており、良くも悪くもこの世界に強い影響力を持っている。


 その中で氷竜というのは、その名の通り氷のように冷たい鱗を持つ竜種だ。

 生息地は北――寒さが厳しく雪の多い土地を好んでいるのだが……それが何故か比較的暖かな地方の海にぷかぷかと浮かんでいる。


「あらまぁ、本当に氷竜だね。ずいぶん珍しい場所にいるもんだ」

「綺麗ですね、キラキラしてる。私、初めて見ましたよ。まぁ何もかも初めて見るものばかりですけれど」


 船縁でアイルと並んで海を覗き込んだフロルは、感動しながら件の氷竜を見ていた。

 ほんのりと青い巨躯が、鱗が、太陽の光を受けて輝いているのだ。

 宝石竜も美しいが、この氷竜も何て綺麗なんだろうとフロルが思っていると、


「暑いのよぅ……死んじゃうのよぅ……」


 氷竜の口からそんな声が漏れた。


「暑がってますね。かわいそう。蒸し焼き?」

「蒸し焼きとか言わない。うーん、ま、雪国に住んでるからな。ちょっと冷やしてあげようか」


 そう言ってアイルは右の手のひらを氷竜に向けた。

 たぶんこれから魔法を使うのだろう。


「あ、では、こちらをどうぞ」


 それを見てフロルは先ほど剥がした宝石鱗の一枚をアイルに差し出した。

 魔法を使うならば、自分の宝石鱗が役に立つと考えたからである。


「いいのかい? それじゃあ、ありがたく」

「まだ何枚かありますので、足りなかったらお気軽にお声かけください。発注と同時に納品させていただきます」

「仕事っぽいな」

「生業にしたいなぁと思っておりますので」


 胸を張って答えると、アイルは小さく笑って「じゃ、その時は頼むわ」と言った。

 そして彼はフロルの宝石鱗を口の中に入れて、魔力を右手に集中させていく。

 すると、アイルの魔力がしゅうしゅうと、彼の右手から肘の辺りにかけて可視化し始めた。


「んっ?」


 それを見てアイルが一瞬、怪訝そうな顔になる。


「何か妙に威力が……まぁ、大丈夫か……?」


 それから若干心配そうな様子でそう呟いていた。

 うーん、とほんの数秒思案していたが、とりあえず魔法を使うことにしたらしい。


「《氷結(フリージング)》」


 呪文を唱えた瞬間、

 キィンッ、

 と硬質で澄んだ音が響いて。


「は?」

「え?」


 ――氷竜の体を中心に、巨大な氷の結晶が生まれたのである。

 まるで氷の群生(クラスター)だ。

 周囲の海面までパキパキと薄く氷が張っている。


「ま、ま、魔王様ー⁉ 今の巨大な魔力反応は何ですかっ⁉」


 フロルたちがポカンと口を開けて目の前の氷の山を見ていると、船内からトーが血相を変えて飛び出してきた。

 そして彼もまたそれ(・・)を見てあんぐりと口を開ける。


「ナニゴト……」


 やっと絞り出せたというような声でトーは言い、アイルへと困惑の眼差しを向けた。


「いや、何か……出ちゃったって言うか……」

「出ちゃったってレベルじゃないんですけど」

「いやぁ、フロルの鱗すごいなぁ」

「えっ、あれそんな感じになるんです? それは実に面白いですね。私も後で試してみましょ」

「トーはこういうのには乗り気だよな」


 アイルとトーはそんな会話をしている。

 どうやらこの魔法の異様な威力は、フロルの宝石鱗を食べたことが理由らしい。

 おお……と思いながら、フロルは残りの鱗へ目を落とした。


「ねぇねぇ、私の宝石鱗ってすごくないですか? お高く売れますか? 相場ってどのくらいです?」

「とんでもなく現実的なことを言っていますよ、魔王様」

「地に足がついていていいじゃないか。今は船の上だけど」


 そんなやり取りをしていると、

 ピシッ、

 と氷の山の方からそんな音が聞こえた。

 顔を向けるとあちこちに亀裂が入っている。

 その起点はどうやら中央の氷竜のようだ。


「……これ、生きています?」

「生きているんじゃない?」

「呼吸は止まっていそうですけど……」


 ひそひそと、何となく小声で会話をする三人。

 そうしている間に亀裂はどんどん深く、大きくなり。


 ――やがて、ガシャッ、と大きな音を立てて、ものの見事に割れた。


 氷の破片がキラキラと宙を舞う。


「わあ、綺麗」


 フロルが呑気に感想を口にしていると、


「何してくれてんのよぉーっ!!」


 大きく翼を広げた氷竜の叫び声が、辺りに響き渡ったのだった。


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