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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第六章 フロル、宝石竜と再会する
29/44

29:過激であり、極端


「まぁルーナの場合、宝石鱗を渡すことに、特に意味を感じてはいないと思うよ。あの子はそんなにロマンチストじゃないからね」

「あら、そうなの? 何だ、残念」

「そうそう。それにあの子は、魔王国へ行ってみたいとずっと言っていたから、単純に親しみを感じたんじゃないかな。それにアイルも魔人種の血がちょっと混ざっているでしょう? そういう匂いがする。だから気になったんだろうね」


 落ち着いた後、宝石竜はルーナについてそう言った。

 アイルは「なるほどねぇ」と呟いた後で、何を思ったか、自分の腕の匂いを嗅ぎ出した。合わせて猫のような尻尾がゆらりと揺れる。


「匂うかな……そうでもないと思うけど……。香水でもつけるかな……」


 そして若干複雑そうな顔でそう呟いていた。


(あ、匂い関係の指摘は、あまり好きじゃないんだ)


 アイルは獣人種の血も引いているから、より気になるのかもしれない。

 なるほどなぁとフロルは軽く頷いた。


「……だけど、それなら疑問が増えたな。親しみを感じている国にちょっかいを出そうとするか? ネーヴェ様の根源結晶にまで手を出すなんて」

「それはですね、アイル。ルーナはわりと過激なので」

「過激?」


 アイルは怪訝そうな顔になる。フロルは大きく頷くと、胸に手を当てて、すうと息を吸ってルーナの真似をし始めた。


「魔王国が好き! なら人竜国も全部魔王国になってしまえばいいわ! という感じです」

「あっ、似てる~。よく見ているねぇ、えらい、えらい」


 宝石竜がキャッキャッと楽しそうに拍手をしてくれた。褒められてフロルはご機嫌に胸を張る。

 それを見たアイルとネーヴェは、そっと顔を見合わせて、


「……大変じゃない?」

「……分かってくれて嬉しいわ」


 そんな会話をしていた。


「まぁ、そんな感じで、わりと様子がおかしい子です」

「あんたに言われるなんてよっぽどね」


 自分のことを棚に上げて言うフロルに、ネーヴェからの鋭いツッコミが入った。

 フロルはガーン、と軽くショックを受けてよろける。


「様子が……おかしいフロル……意外と語呂が良い……」

「あんた、意外と余裕があるわね……」


 ネーヴェから今度は本気で呆れた目を向けられてしまった。


「まぁ、様子云々は横に置いておいて……。本当にそれだけの理由で、こんなことをしでかすか?」

「それはあたしも同感ね。根源結晶に手を出す計画を練るにしては、ちょっとリスクが大き過ぎると思うわ」


 アイルとネーヴェは、理解はできても納得はできないという様子だった。

 確かにそれはそうだろうなぁとフロルも思う。

 そんな理由で争いの火種を作られたら、たまったものではないからだ。


(でも本当に、それだけでやりそうなんですよね)


 何度か会話をしたり、両親から聞いた彼女の話も総合して考えると、フロルはそう思うのだ。


「フロルから見て、ルーナは本当にそれだけで動くと思うかい?」


 どう説明したものかと考えていると、アイルからそう訊かれた。


「そうですねぇ……。私は親しくないので、その視点で良ければ」


 推測も入るのでフロルが断りを入れると、アイルは「それで構わないよ」と頷いてくれた。

 それならばとフロル彼の質問に答える。


「ルーナは人竜国が嫌いなんじゃないかと思います」

「えっ」


 すると今度は宝石竜がショックを受けた顔になった。あまりにも衝撃が大きかったようで、彼はそのままふらふらと数歩後ずさる。

 フロルは申し訳ない気持ちになりつつも、まだ質問に答えている最中だったため、心の中で謝るだけに留めておいた。


「先ほども言った通りルーナは過激なところがあります。言い換えれば極端なんです。なので少しでも好ましいと思っているならば、それが行動に出るんです。アイルに宝石鱗を渡したのもそれが理由だと思いますよ。求婚に関しては宝石竜様が言った通りなんだろうなと思いますけれど」


 もしかしたら政略結婚の相手には良いと思っているかもしれないけれど。

 そんなことを考えながらフロルは話を続ける。


「だからルーナが今回の件の犯人だったとして、人竜国を好ましいと思っていれば、不利な状況へ持って行くことはしないはずです」

「だから嫌いってことか」

「もしかしたら無関心の方かもしれませんけれど、どちらにせよ、そんなに差はないですね」


 好きの反対は無関心。以前読んだ本にそんなことが書いてあったなと、フロルは思い出した。

 そうしているとネーヴェの視線を感じた。彼は何となく同情めいた目をフロルに向けている。


「…………。あんたにはどうだったの?」

「よく視線は感じましたけど、そこまで話しかけられたりしたことがないので分からないですねぇ。嫌われているのではないでしょうか?」

「そう」


 フロルが答えると、ネーヴェは短くそう言った。そしてカツカツと靴音を響かせてフロルへ近付いてきたと思ったら、ぎゅむ、と抱きしめられる。それから親が子にするように、そっと頭を撫でられた。

 意外な行動にフロルは目を丸くした。何だか宝石竜と似ている。竜種は行動が似るのだろうかと思いながらネーヴェの顔を見上げると、彼はとても優しい目をしていた。


「ネーヴェ様……」

「なぁに?」

「見た目と違って意外と堅い胸板……」

「あんたは情緒ってもんがないわね……」


 フロルの言葉にネーヴェは半眼になってため息を吐いた。そして「仕方ないわね」というような、苦笑交じりの顔でフロルから手を離す。

 その時のネーヴェの声や笑みはやっぱり優しくて、フロルは嬉しくなった。


「そうすると、フロルを生贄にしようと画策したのも、そのルーナが関係しているのか……?」

「どうだろうね。ジェスが目を付けていた子たちの中には、入ってはいなかったけれど……」

「なるほど、つまり謎の生贄フロル……!」

「あんたは本のタイトルみたいなことを呟かないの」


 ちょっと語呂が良い……なんて思っていたら、ネーヴェからしっかりツッコミを入れられてしまった。

 ここにトーがいたら「お口にチャックしましょうね」と言われていたかもしれない。

 フロルがハッとして両手で口を塞いで「静かにしますポーズ」を取ると、アイルたちはきょとんとした顔をした後で、


「フロルは本当に……」

「かわいいでしょ、うちの子」

「この子のいた環境下で、どうしてこんな風に育ったのか気になるわよ」


 なんて話していたのだった。


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