23:顔を見せたのは初めてだった
その後、ぬいぐるみと三人を回収したフロルたちは、大急ぎでアイルの執務室へと向かった。
そして今回の件の首謀者と思わしき二人に尋問を始める。
「ゼッテル、ルル。それで、これは一体どういうことか説明していただけますか?」
目の据わったトーが、ゼッテルとルルの首根っこを掴んで、まずはそう尋ねた。
しかし……。
「おのれリザードマン風情が、この私にこんな扱いを! 赦さんぞ!」
「違います~ルルは言われた通りにしただけです~。全部ゼッテル様が悪いんです~」
「ルル、貴様ーッ!」
「何ですかゼッテル様~!」
――ゼッテルとルルは、その状態でぎゃあぎゃあと騒いでいる。
「元気で良いですねぇ」
「キュー」
それを眺めながら、フロルと黒竜は「ねー」とのんびり感想を述べた。
(この様子だと体調に変化はなさそうですねぇ)
身体が小さくなってしまったことは問題だが、具合が悪い等の不調がなさそうなのは何よりである。
二人が無事ならばアイルも大丈夫そうかなと思い、フロルは彼の方へ顔を向ける。
アイルは執務机の上に立って、腕を組んでゼッテルとルルを見上げていた。
「お二人さんなぁ、自分の状況が分かっているのか?」
「分かっている! ……ます! ええ、とても!」
「そうか、なら質問に答えてもらおうか。どうしてこうなった?」
じろり、とアイルが軽く睨むと、ゼッテルとルルはお互いに顔を見合わせて、
「ルルのせいです!」
「ゼッテル様が愚かなせいです~!」
責任をなすりつけあった。
アイルが大きくため息をついてトーが肩をすくめる。
「トー、煮るか」
「そうですね」
そして二人は仕方なさそうにそう言った。
「煮るとは?」
何となく不穏そうな雰囲気は感じたが、好奇心に負けたフロルがそう訊くと、
「本当のことを話したくなる薬があってな。効果が強いから用法容量を守らないといけないんだが、体が小さくなるとその加減が難しくてさ」
「ですので薬と一緒に煮て、肌から染み込ませようかなと思いまして。それだとちょうど良い感じになるのですよ」
二人は悪い笑みを浮かべてそう言い放った。
具材に味を染み込ませるアレではとフロルが思っていると、
「はっ!? き、き、貴様!? 私にそんな真似をするつもりか!?」
「いや~! いやです~! ルルは煮込まれたくないです~! 美味しくないですよ~!」
ゼッテルとルルは、ひいっと青褪めて悲鳴を上げて、じたばたと暴れ始める。
すかさずトーが二人の身体をがしっと手で掴み直した。きゅう、と二人の口から声が漏れる。
(意外と容赦ない……トーは怒らせないように気を付けよう)
うんうん、とフロルが頷いていると、ゼッテルとルルがこちらにバッと顔を向けた。
必死の形相だ。助けてほしいと目で訴えられている気がする。
フロルは「うーん」と唸りながら、先ほどまでの二人の言葉を頭の中に思い浮かべた。
(アイルとトーが何をしたのかと訊いた時も、悪だくみを誤魔化している感じではなかったんですよね)
お互いのせいだとは言っているが、企みがバレたくないという雰囲気はなかった。
――これはもしかして。
そう思ったのでフロルはアイルたちに『待った』をかけた。
「アイル、トー、少々お待ちを」
「どうした?」
「もしかしてゼッテルさんとルルさん、今回の件は何も知らないんじゃないですか?」
フロルがそう言うと、ゼッテルとルルの顔がパァッと明るくなった。
「そう! そう、です! そうです! 何も知りません! 私はただぬいぐるみを……ええと、その、あー……」
「ゼッテル様はぬいぐるみを、魔王様のお嫁さんに歓迎の意味を込めてプレゼントしようとしていただけです~! 普段の振る舞いがどうしようもなさ過ぎて、あまりにも想像できないから疑われているんです~!」
「ルルゥ……貴様ぁ……っ!」
ゼッテルはギリギリと歯ぎしりをしながらルルを睨む。
アイルとトーは目をぱちぱちと瞬いて、
「ゼッテルが……」
「ぬいぐるみをプレゼント……」
ぽつり、とそれぞれそう呟いた。
ゼッテルはわなわなと怒りに震えている。
フロルはそんな彼らを見ながら、あらまぁと思いながらも――そう言えば、今、ベールをしていないなということを思い出して、
「なるほど……。ありがとうございます、ゼッテルさん。フロルです」
出来るだけお淑やかに見えるような微笑みを浮かべてお礼を言った。
とたんにゼッテルはぴしりと固まる。みるみる内にゼッテルの顔が赤く染まっていく。
「え? あ……え……? フロル、さん……?」
「はい、フロルです。かわいいですね、ぬいぐるみ」
「あ……う……は、ぃ……」
ゼッテルはしどろもどろになりながら、こくん、と頷き静かになった。
……これはまたしても勝利と言えるのではないだろうか?
そんなことを考えながらフロルがにこにこ微笑み続ける中、
「一撃で仕留めたね」
「あんなゼッテル初めて見ましたよ」
「ミキュ」
アイルとトー、黒竜がしみじみとそう呟いたのだった。




