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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第四章 フロル、毛玉と出会う
17/44

17:あなたもたまにそうですよ


 朝食の席についたフロルはげっそりとした顔をしていた。

 しかしそんな顔色とは裏腹に、肌はツヤツヤピカピカだし、服装も髪型もかわいらしくなっている。

 フロルの後ろではメリエラが満足げな表情を浮かべて頷いていた。


「洗礼を浴びたな」

「浴びたみたいですね」


 そんなフロルを見てアイルと、その後ろに立つトーはしみじみと呟いていた。

 フロルは半眼になってじとっと二人を見る。


「守ってくれると言ったのに誰も来てくれない……」

「命の危険じゃなかっただろう?」

「身の危険は感じました!」

「そうか。皆が通って来た道だ、諦めろ」


 酷いと訴えてみたら、アイルにさらっと流されてしまった。

 えっと思ってトーを見れば、彼も「ええ、その通りです」と頷いている。


「もしやツヤツヤでピカピカに……?」

「された」

「されました」

「そしてかわいく……?」

『…………』


 二人はサッと目を逸らした。かわいくされたことがあるらしい。

 それを聞いて先ほどまフロルの中にあった恨みがましい気持ちは消えて、代わりにシンパシーが生まれる。

 なら、いいか。フロルはそう思った。


「でも本当にかわいいな。良く似合っているよ」

「そうでしょう、そうでしょう。フロル様はかわいいでしょう。明日も明後日も、とってもかわいくしますからね!」

「わあ、毎日」


 気合いの入ったメリエラの言葉を聞いて、フロルは顔を引きつらせる。

 ただ彼女は悪気があって言っているわけじゃないのは分かるし、かわいい衣装はフロルも好きだ。


「えっと……そう! 魔法の訓練の時は違う感じでお願いしたいです」

「まあ! オーダー入りました、頑張りますわ!」


 フロルが頼むとメリエラは両手を合わせて声を弾ませた。

 どうやら希望があれば聞いてくれるらしい。なるほど、とフロルは頷いた。


「あの子、順応するのが早いな」

「そうですね。船の中でもあっと言う間に皆と仲良くなっていましたから」

「そう言えばゼッテルの場合もそうか」

「ゼッテル?」


 アイルの呟きを聞いたメリエラの声が、ワントーン下がる。

 えっと思ってフロルが振り返ると、笑顔のままで何やら紫のオーラを発するメリエラがいた。

 フロルはごしごしと目をこする。


「幻覚……?」

「魔力ですよ。メリエラさんの」

「魔力の豊富な種族は、喜怒哀楽が大きくなると魔力が漏れるんだ。紫だから闇属性……ま、怒りの魔力だな」

「あらまぁ」


 それはまた面白いなぁとフロルが見ていると、


「あの男……私のかわいいかわいい後輩を補佐官に引き抜いていっただけではなく、フロル様にも不埒な真似をしたですってぇ……?」

「されていないです。誤解です」

「大丈夫ですよ、フロル様。あの陰険眼鏡を庇わずともよろしいのです」

「すごい、話が通じない! アイル! トー! ゼッテルさんの評判が無実の罪でダダ下がり!」

「話が通じないに関しては、たまにフロルさんもそうですよ」

「俺たちの気持ちが分かったか?」


 どうしましょ、とアイルたちに助けを求めたら、予想外の攻撃を受けてしまった。

 ガーン、とフロルは軽くショックを受けて項垂れる。

 そんなフロルの後ろではメリエラが相変わらずヒートアップしていた。


「もういっそ、私の根っこでキュッとしてやろうかしら」

「待ちなさい、メリエラ。それは駄目だ。それからゼッテルはフロルに不埒な真似をしていないから安心しろ」

「ですが魔王様、悪事の可能性の芽は早めに摘んでおいた方が安全ですわ」

「疑わしきは罰せずですよ、メリエラさん。何か起こってからキュッとしてください」

「……分かりましたわ」


 アイルとトーに二人がかりで説得されて、メリエラはしぶしぶと納得した様子だった。

 何だかんだでアイルとトーの言うことはちゃんと聞くらしい。

 どうしても困った時はこの二人にお願いしようとフロルは心に固く誓った。


 さて、ちょっとした騒動がひと段落すると、フロルとアイルは朝食を食べ始めた。

 トーとメリエラはすでに済ませているらしい。一緒に食べればいいのにとは思ったものの、どれだけ気軽に接していても、こういう部分には『肩書き』が影響してくる。

 自分だけではなくトーたちが悪く言われないためにも、公私は分けて考えなければならないのだ。


(それにしても美味しいですねぇ)


 食事を進めながらフロルは心の中でしみじみとそう独り言ちた。

 ふわふわのパンに、炙られて溶けたチーズ。目玉焼きに、コーンポタージュ。パンはほのかな甘さがあるし、チーズも風味が良く、目玉焼きは黄身が素敵に半熟で、コーンポタージュはとろりと甘い。

 どれも美味しいが、特にコーンポタージュが一番好みだった。


「♪」


 甘くて美味しい。ご機嫌になったフロルがスプーンで丁寧にスープを口に運んでいると、ふと視線を感じた。

 顔を上げるとアイル、トー、メリエラの三人から、微笑ましいものを見るような目を向けられている。


「いかがしました?」

「……いいや。フロルは素直だなと思ってね。おかわりしてもいいからな」

「えっ、本当に……? それじゃあ一杯だけ……」


 嬉しいお言葉に、フロルが控えめな様子で言えば、三人は「ふは」と噴き出すように笑って、


「うん、たくさんお食べ」

「ええ、存分に」

「子供はたくさん食べるのが一番ですよ」


 なんて、楽しそうに言ったのだった。

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