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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第四章 フロル、毛玉と出会う
16/44

16:ツヤツヤでピカピカ


 魔王城で初めての朝を迎えたフロルは、スッキリとした気持ちで目を覚ました。


「揺れない床……最高……」


 頬に手を当てて、ほう、と息を吐く。

 船旅の間ずっと船酔いと戦っていたフロルにとって、足元が揺れないというのは最高の気分である。

 さらにベッドもふかふかでシーツも肌触りが素敵だ。自分が歩んできた人生の中で一番の寝心地だったかもしれない。


「ん~~……!」


 大きく伸びをしながらフロルがそんなことを考えていると、部屋のドアがコンコンと控えめにノックされた。


「フロル様、お目覚めでらっしゃいますか? お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「はい! フロルは起きております。おはようございます! どうぞどうぞ!」


 フロルが元気に返事をすると、ドアが静かに開いて、頭に大きな白色の花を咲かせた女性が入ってきた。腰より長い緑色の髪に同じ色の瞳をした、同性でも見惚れるくらいの美人さんだ。

 彼女の名前はメリエラ。精霊種の一種であるドライアド種の女性で、魔王城ではメイド長を勤めている。

 精霊種とは、植物や土、水や溶岩など、自然界のものに大量の魔力が宿ることで生まれる種族だ。本体が枯れたり、砕かれたりしない限りは、寿命はほぼ無いと言われている。


 フロルはアイルから、昨日の夕食が終わった後で彼女を紹介された。これからしばらくの間、メリエラがフロルのお世話をしてくれるらしい。

 人竜国にいた頃に、メリエラのような存在がいなかったので、フロルは少しワクワクしていた。もしかしたら普通のおしゃべりもしてくれる相手かもしれないと、友達もいなかったフロルは期待に胸を膨らませている。


「おはようございます、フロル様」

「おはようございます、メリエラさ……メリエラ!」


 うっかり「さん」付けで呼びそうになって、フロルは慌てて言い直した。

 紹介された際に「呼び捨てで頑張れ」とアイルに言われたからである。

 アイルやトーの時も思ったが、知り合ったばかりの人の名前を呼び捨てにするのは、やはり少々緊張する。

 そうしているとメリエラは、ふふっと楽しげに微笑んだ。


「その調子でございますよ、フロル様。それではお召し替えをいたしましょう」

「あっ、お気になさらず。着替えでしたら自分で出来ますので、お手を煩わせることは……」

「…………っ!」


 フロルがそう言った瞬間、メリエラは口を手で覆って、ピシャーンと雷に打たれたかのように固まった。


 ――その瞬間、メリエラの頭に想像が駆け巡る。


「フロル様……周囲から虐げられ、信頼する侍女まで奪われて、ずっとお一人で生きて……! 子供がそんな……そんな辛い目に合って……! 私がその場にいたら全員をぶちのめしてやるところでしたのに……! 子供の敵! 滅ぶべし!」

「メ、メリエラ……?」


 妙なことを口走るメリエラに、フロルはぎょっと目を剥いた。

 彼女の言葉はふわっとは合っているが細部がだいぶ違う。

 フロルにはもともと侍女がいないので信頼するも何もないし、虐げられていたというよりは疎まれていた方だ。

 フロルの親族は意外と意気地がない。口で嫌味は言えても、我が子を分け隔てなく愛する父王の怒りに触れるのが怖いから、堂々と虐げるような度胸はなかったのである。


 ――まぁ、マシだったというだけで、良かったかどうかというのは別のお話ではあるのだが。


 嫌味を言われたらストレスはたまるし、言い返しても結局は数で負ける。

 だからこれまでフロルはそれとなくやり過ごすだけで、スッキリすることはなかった。


(やはり拳……拳を強化せねば……)


 暴力で解決するのは良くないが、力があるぞと見せることで抑制にはなる。

 何なら目の前でパワーを見せれば、悲鳴付きで退散するかもしれない。

 そんなことをフロルが考えていると、


「私が……私がツヤツヤのピカピカにしなくちゃ……!」


 メリエラは相変わらずぶつぶつと呟き続けていた。

 不穏。

 その言葉が相応しいくらいの雰囲気だ。


「あの、ツヤツヤとは……? そしてピカピカとは……?」

「大丈夫ですよ、フロル様。私にお任せくださいませ。日々、最高の生活をお約束いたしますわ! ええ、ええ! そのために……」


 ギラリ、とメリエラの目に剣呑な光が宿る。


「お着替えですわーっ!」


 ――直後、メリエラが自分に飛びかかってきた。


「ひぃえぇえぇぇぇぇっ⁉」

「おほほほほ、かわいくしましょうね! かわいくしましょうね!」

「アイルー! トー! 助けてぇーっ!」


 敵意はない。害意もない。しかし何だか怖い。

 フロルは悲鳴を上げて助けを求めたが悲しいことに、救援に駆けつけて来てくれる者は誰一人いなかった。


(魔王城の日常ってハード……!)


 鬼気迫る様子のメリエラに、言葉通りツヤツヤのピカピカでかわいくされながら、フロルは遠い目をしたのだった。


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