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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第三章 フロル、結婚相手(仮)になる
13/44

13:拳があれば何でも出来る


「というわけでアレが目星をつけている奴の一人だ。あんなだが、実務面では優秀な奴なんだよ」

「ええ、あんな奴ですが、仕事は出来るんですよ」

「アイルとトーの言葉で性格面に難があることは理解しました」


 こくり、とフロルは頷く。

 まぁ、先ほどのやり取りをちょっと聞いただけでも、そうだろうなぁとはフロルですら思う。


「でもあの人、結構ちょろいですよ」

「ちょろかったね。俺もびっくりだわ」

「ゼッテルの場合は、褒められることに慣れていないからじゃないですかね。普段が普段だから……」

「かわいそう……。でも性格のせいなら自業自得ですね。かわいそうじゃないです」

「上げて落とすまでそんなに早いことある?」


 フロルが同情しかけて直ぐに思い直すと、アイルは真顔でツッコミを入れられてしまった。なかなかのキレの良さだ。きっと彼はこれまでに、たくさんツッコミの経験をして来たのだろう。この国はもしかしたらボケが多いのかもしれない。


「アイル……お疲れ様です」

「俺は何故労われたんだろうな……。とりあえず、ありがとう」


 そんな話をしていると、


「まぁ、それはともかくです。たぶん、ゼッテルからフロルさんへの第一印象はなかなか良い感じだったと思いますよ」


 脱線しそうになっている会話を、トーが元の路線へと戻してくれた。


「ああ、そうだな。とりあえずフロルに、致死レベルの攻撃を仕掛ける可能性が減ったので良し」

「何かとんでもない発言が聞こえたんですが」

「安心しろフロル。大丈夫じゃなくても俺たちが死なないように守るつもりだからさ」

「生贄を回避したと思ったら別の意味での生贄……!」


 爽やかに笑うフロルを見て、ほっぺたを横に思いっきり引っ張ってやろうかしらとフロルは思った。

 一難去ってまた一難、世の中には死の罠(デストラップ)が多すぎる。

 とは言え、今回の場合は生贄というよりは、安全網(セーフティーネット)が張られた上での囮なのだけれど。

 アイルとトーがどれだけ強いのかフロルはまだ知らないが、魔法は上手そうだなという印象はある。

 守ってくれると言うのならば、それでもいいか……そう思いかけたフロルだったが、直ぐにハッとした。


(いえ、ダメですよ! 自分の身は自分で守れるようにならなければ!)


 自分の身を守る手段の習得を疎かにしていた結果が、魔王国への生贄事件である。

 箱に詰められた時、フロルは何の抵抗もできなかった。

 コンチクショウと振り上げた拳で箱の蓋を叩いても、びくともしなかったのである。


(あの時、私に力があれば……そう、クローゼットを持ち上げられるくらいのパワーがあれば……)


 やや思考が、力こそパワーな方面に寄っている感は否めないが、フロルはそう思った。

 だからこそ学ばなければならない。

 フロルはアイルとトーに向かって頭を下げた。


「アイル、トー。私に魔法を教えてください」

「ん? それは構わないけれど、急にどうした?」

「自分の無力さを痛感しておりました。私の価値は宝石鱗だけ……これではいけません。すべての困難を、自分の拳で解決できる力を身につけなければと思ったのです」

「フロルさん……」


 フロルの言葉にトーは感動した様子で胸に手を当てた。

 そしてその直後「ん?」と首を傾げる。


「拳で解決?」

「拳です。拳があれば何でも出来ます。物を作るのにも、誰かと手を繋ぐのにも、城の壁をよじ登るのにも、うちの国の親族を地に沈めるのにも」

「本音が漏れていますよフロルさん。後半はそっと胸の中に秘めていてほしかった」

「何分、正直なもので……えへ……」


 ちょっと照れながらフロルは言う。


「拳で実現可能なことは横に置いておいて……。単純に自衛手段が欲しいなと思いまして。私は自分の足でちゃんと立って生きたいのです。誰かにお膳立てしてもらった人生を歩くつもりはありません」

『…………』

「どうしました?」

「……いや。フロルは案外、魔王国向きの考え方だなと思ってね」


 アイルは小さく笑ってそう言うと、トーの方へ顔を向ける。


「トー、フロルの魔法の先生役を頼めるかい?」

「はい、もちろんです魔王様」


 にっこり笑って請け負うトー。どうやら彼が教えてくれるらしい。

 フロルはびしっと背筋を正すと、


「よろしくお願いします、トー! いえ、教官!」


 綺麗な角度で頭を下げた。

 トーは目をぱちぱちと瞬いた後、ふは、と噴き出すように笑って、


「トーで構いませんよ。魔王様の嫁に教官なんて呼ばれたら、変な顔をされてしまいますから」


 なんて、いつぞやと似た台詞を、ちょっとお道化た様子で言ったのだった。


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