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宝石鱗の生贄姫  作者: 石動なつめ
第三章 フロル、結婚相手(仮)になる
12/44

12:中身はアレ


 入って来たのは白髪に痩躯の男だった。

 見た目は二十代半ばくらいだろうか。爬虫類のような白銀色の立派な尻尾が生えているところから察するに、恐らくドラゴニュート種だろう。


 ドラゴニュート種は竜種に近い種族だ。リザードマン種よりも人間の容姿に近い。

 魔力が強く体も頑丈なのが特徴の長命種で、地域にとっては竜種のように崇められることもある。

 しかし、彼らは総じてプライドが高く、また少々厄介な気質を持ち合わせていた。

 竜種への劣等感と、ドラゴニュート種以外の種族を劣等種として見下すことだ。


「失礼いたします、魔王様。先ほどの件を確認させていただきたいのですが」

「どうしたんだ、ゼッテル。そんなに難しい顔をして」


 入って来た男に向かって、アイルはしれっとそう尋ねた。何も分かりませんよという顔を敢えてしている。嫌味に聞こえないのがすごいなとフロルは思った。

 ゼッテルはフロルをちらりと見遣り、


「嫁、とはどういうことですか?」


 と質問してきた。

 なかなかストレートな性分のようだ。


「どうもこうも、嫁は嫁だよ。人竜国との交流会で紹介されて、話をしている内に意気投合してな。それで嫁に来てもらったんだ」

「…………」


 ゼッテルは目を細めた。これは疑っている顔だなとフロルは察する。

 悪意の混ざった眼差しや表情は、人竜国にいる間何度も見ていた。だからそちら方面を察するのは、フロルにとっては比較的容易である。

 ベール越しにゼッテルの様子を見ていると、


「人間種が魔王の嫁?」


 彼は、ハッ、と鼻で笑った。


「魔王様にはプライドというものがないのですか?」

「プライドならほどほどにはあるけどねぇ」

「そうであれば人間種を嫁になどしませんよ。人間種なんて脆弱で、寿命だってあっと言う間で、何をしても死ぬのではないかとハラハラするだけではありませんか」


 くいっ、と眼鏡を押し上げてゼッテルは言った。


(何だかペットに対する表現をされている気がする)


 フロルはお口にしっかりチャックをしながら、そんなことを思った。

 するとゼッテルが「あなた」と呼んで、フロルの方へ顔を向ける。


「お名前をお伺いしても?」


 おや、とフロルは思った。これは答えて良いのかなと少し迷う。

 アイルやトーの方を見ると、彼らは軽く頷いていたので、それならばとフロルは口を開いた。


「初めまして、こんにちは。雪原のように輝く美しい鱗のドラゴニュートの方。人竜国の王の三十五番目の子、フロルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 そして浮かんだ誉め言葉をプラスして挨拶した。

 人竜国で嫌味を言われた時にフロルが良く取っている手段だ。

 とりあえず下手に出て褒めておけば相手の機嫌が良くなり、早めに話を切り上げて去って行くので楽なのである。それが魔王国でも使えるか、実験がてら試してみたのだ。

 するとゼッテルは、何故かぴしりと固まってフロルを凝視している。

 少しして、尻尾がゆらゆらと揺れ出し、口元もぐにぐにと複雑な動きをし始めた。


「な……なかなか見る目のある人間ではありませんか……」


 そして頬を赤らめて、せわしなく眼鏡を押し上げながらそんなことを言った。


(意外とちょろい)


 フロルとアイル、トーはまったく同じことを心の中で呟いた。

 誉め言葉に弱いのかもしれない。

 良く覚えておこうとフロルは思いつつ、


「あの……ゼッテルさん、とお呼びしても?」


 人間に対して脆弱なんて印象を持っているならば、儚げな雰囲気の方が受けが良いかもしれない。

 そう考えたフロルは、自分が覚えている中で一番それっぽい振る舞いをしていた親族を思い浮かべながらそう言った。

 何せフロルには三十五人以上の性格の見本が存在するのだ。


(あの人たち、思ったより役に立つんだな~)


 身も蓋もない感想を抱きつつ、フロルはベール越しにじっとゼッテルを見上げる。

 ゼッテルはひくっ、と頬を引きつらせた後、


「~~っ、いっ、いい……でしょう……! と、特別に許可します」


 挙動不審になりながらも、尊大な態度をギリギリ崩さずに頷いた。

 効いている。とっても効いている。

 フロルは何だか楽しくなって来て、


「ありがとうございます……!」


 自分が出来る最大限の笑顔で――まぁ、顔は隠れているので口元しか見えないが――お礼を言ってみた。


「~~~~⁉」


 とたんにゼッテルは雷にでも打たれたかのように硬直し、胸を押さえて数歩後ずさる。

 顔はもう耳まで真っ赤である。

 それから彼はぶるぶると震えた後、


「しっ……失礼しますっ!」


 逃げるように大慌てで執務室を出て行った。


「フロル……ウィン!」


 フロルは右手で拳を作り、天高く突き上げる。

 アイルとトーはぱちぱちと拍手をしながら、


「落ちたな。中身はアレだけど」

「落ちましたね。中身はアレなんですけど」


 なんて少々失礼なことを言っていたのだった。


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