人間性
解散した後、ミシュパハーはラズファと共に家へと帰っているところだった。
「どうしたミシュパハー。さっきから一言も喋らないが。」
ラズファがミシュパハーの顔を覗き込む。
「いえ・・・いろいろと情報が多くて・・・どういう気持ちになれば・・・。」
ミシュパハーは心の整理ができなかった。それもそうだ。
急にいろいろなメンバーが出てきて、さらに仕事の内容ができなかったら待っているのは ”死”
改めてやばいところに就いてしまったんだなと実感する。
「なぁに。簡単な話だ。一日に一人殺せばいいんだ。」
そうやってすぐ答えが出てくる彼も改めてみればやばい人。
そんなやばい人のもとで育ったミシュパハーも傍から見たらやばいやつの一人なのかもしれない。
「いいかミシュパハー。一ついいこと教えておいてやる。今後は躊躇ったり迷うといった感情を殺すことだ。迷えばお前の前に待つのはどのみち ”死” これはもう避けられない。ならそんな邪魔な感情なんか捨ててしまえ。そうすれば少しは気も楽に殺る事ができるだろう。」
真剣な顔つきに代わるラズファにミシュパハーは当時の恐怖心を思い出す。
「迷いは即ち ”死” を意味する この世界では 殺すか殺されるかの二択 だ。それを忘れるな。」
ー殺すか、殺されるー
「俺もお前くらいの年の時に同じ感情を持ったことがあった。だけどその邪念がなければ、 ”救える命” があった。俺は躊躇ったせいで、大事な人を見殺しにしてしまったんだ。」
ラズファは胸元にあるペンダントに手を触れる。
あの時話していたことを思い出す。
いつも殺しを快楽とみている彼とは打って変わって今まで見たことのないほど殺意の執念をまとっていた。
空気がどんよりと重くなる 彼も最後は結局人間だと言うことだ。
「だがもう過去の話だ。そんな感情もとうになくなったよ。もうあいつも生きていない 今は殺しとお前の兄を探すことに専念するって決めたからな。さぁ この話は終いだ。明日からちゃんと頑張れよ。」
肩にそっと手を置いた。
仮面越しにラズファはこの一瞬だけ作り笑いをしていた。
家に着き、二人で少しゆったり時間を過ごしていた時だった。
「そういえばミシュパハー。家はどうする。このままいても良いが、居場所がばれないなんてこともない。」
「そうですね・・・。 そろそろ自分でボロ小屋かなんか探そうと思ってます。最低限生活できればいいと思っているので。」
「そうか。寂しくなるな・・・。」
ラズファは悲しげにミシュパハーのことを見つめる。
数年間共に過ごしたラズファはミシュパハーのことを完全に息子のように見ていた。時がたつのはとても速い。
「ラズファさん。今まで本当にありがとうございました。」
「おいおい。もう二度と会えないみたいな言い方やめてくれよ。まぁでも、辛くなったらいつでも来い。離れていても殺しながらお前の兄を探してやる。」
ラズファは立ち上がり、無言でミシュパハーのことを抱きしめた。
「俺の子も生まれていたらこれくらい大きくなっていたのかな・・・。」
またあの時みたいな悲しげな表情をする。微かにラズファの肩が震えていた。
腕をほどき、ラズファは過去を打ち解けた。
「俺の大事な人は、目の前で殺されたんだ。もうすぐ生まれる予定だった俺のガキと一緒にな。俺が家に着いた頃にはもう手遅れだった。腹を切られ、中のガキもよくわからないくらいにめった刺しにされてな・・・。俺はあの日、すべてを失った。そのあと殺したやつは気が済むまで何回も刺したさ。でもそんなことしたって大事な人は帰ってこない。俺は自殺しようとした。その時にボスが現れてな、俺のことを心を救ってくれた。それから俺の人生はすべて変わった。」
ミシュパハーは黙り込んでしまった。
「だから余計にお前のことがかわいく見えてしまってな。ははっすまないな」
ミシュパハーの頭を乱雑に撫でる。
「いえ、話してくれてうれしいです。気持ちは分かります。僕も取り残された身なので。」
「そういえばそうだったな。俺も少しだけ救われた気がしたよ。俺の方こそありがとうなミシュパハー。」
別れの挨拶をし、ミシュパハーは軽く荷物をまとめてラズファの家から出ていった。
窓越しにラズファはミシュパハーを見えなくなるまで見つめる。
「まぁ・・・。殺された時に少しだけ興奮したってことは黙っておくか・・・。」
ラズファは喉をククっと鳴らした。




