取引
目が覚めるといつも自分が寝ているベッドの上にいた。
部屋を出てリビングへ向かうと昨晩のことなんて何もなかったかのようにラズファはニコニコしていた。
「やっと起きたか。」
いつもと変わらぬ表情で接してくるのでミシュパハーはラズファに対して恐怖心を覚えた。
「なんで・・・。そんな平気な顔をしていられるんですか・・・?人を殺しているんですよ!?なのになんで!!!」
ミシュパハーは声を荒げた。
「お前は・・・家族が、両親が好きか?」
「・・・え?」
突然の質問に困惑した。
「好きだったか嫌いだったか聞いている。」
あの時の顔をしていた。
「僕は・・・父さんも母さんも大好きだった・・・。」
「なら、いつかわかる時が来る。」
それだけ言い残し外へ出て行ってしまった。
ミシュパハーはその場に立ち尽くしてしまった。
テーブルに置かれている冷めた朝食を口に入れる。味は何もわからなかった。
純粋に理解が出来なかった。平然と人を殺しておいてわかる日が来るなんて急に言われても普通の人なら一生理解できないだろう。
ミシュパハーの中で少しずつ善悪の判断が鈍くなってきていた。
脱走を試みたが、多分彼ならどこにいても見つけてしまうだろう。
そう思い気持ちが踏みとどまってしまった。
あの件からラズファは隠す必要がなくなったのか、朝になると血まみれで帰ってくる。住まわせてもらってる身分だからこれ以上文句なんて言えるはずもなく、ましてや助けを求める人なんて近くにいなかった。
ー自分の身に何が起こるかわからないー
そんな恐怖と独りで葛藤していたのだった
次第にラズファはミシュパハーに死体の処理を手伝うように協力させた。
当然ミシュパハーは受け入れるしかなかった。拒否したら何されるか
独特な鉄の臭いに慣れず最初の頃は嘔吐を繰り返していたが、日が経つうちにだんだんと慣れていってしまった。
ある日、意を決してラズファに問いをかけた。
「あなたは・・・何者なんですか・・・。」
もう殺されてもいい。自分の納得のいく理由が欲しいと。そう思っていた時だった。
「俺は人を殺すのが仕事だ。それも正直者じゃない奴を専門にな。嘘をつくやつはこの世で一番醜い。ゆがんだ顔をしている。でもそういうやつがいざ殺される場面に出くわして必死に相手に涙こぼしてまで命乞いをする奴の顔がもっと醜くてたまらない。そんなやつを殺すのが俺は大好きだ。」
彼の考えはとても歪んでいたが、どこかで一部否定ができなかった。
「どうだ、嫌になったか?今の話を誰にもしないと約束できるならお前をもっと安全なところへ移して俺たちの関係もなかったことにする。決めるのはお前だ。好きにしていい。」
その表情はいつもと変わらなかったが、やはり何を考えているのかわからなかった。
「僕は・・・ここに残ります・・・今更帰る家なんてないですし・・・。」
強く拳を握りしめた。
彼を怖いと思いつつ、離れることができないのはきっと彼が完全なる悪人だからというわけではないのからかもしれない。
「取引成立だ。お前の両親を殺した兄のことも探してやる。」
少しずつ運命の歯車が狂っていくのだった。




