裏の顔
あれから何事もない日々が過ぎていった。
いつも通り、ラズファは日が沈むころに家を出る。
その日の夜中、ミシュパハーは寝付けず少し外の風に当たって寝ようと、自分の部屋から出た時だった。
(な・・なんだこれは・・・!?)
ドアを開けると、床には血や臓物の破片のようなものなどを引きずった跡が残っていた。
鉄臭いにおいが充満していて全身に鋭い衝撃が走り、嫌な汗が頬を伝って顎から床に落ちる。
恐る恐る血の引きずられた方向へ向かう。
足に生暖かい血や柔らかい肉片がべっとりと足に絡みついていたが、今はそんなこと気にもならなかった。
一歩一歩、血の温度は少しずつ高くなっていく。場所が近い。
ドアの前で立ち止まる。
(こんなとこで・・・一体何が・・・!?)
鼓動がだんだん早くなる。震える手でドアノブに手をかける。普段気にもならなかったドアノブだが今日に限っては触れるだけで全身が凍りそうな冷たさを放っていた。
意を決して目をつぶりながらドアをゆっくり開ける。よどんだ空気が全身で感じた。
鼓動が嫌というほど大きく耳に伝わる。
中は暗くてよく見えない。目を凝らしてみるとそこには惨殺された人らしきものと、いつも面倒を見てくれている家族のような存在のラズファの後ろ姿だった。
あまりの悲惨な光景を見て、呼吸の仕方を忘れたのかというくらいに息がつまる。
「あ、見つかっちゃったか。」
彼が振り返ると、顔には見慣れない独特な模様をした、鼻から上までの仮面のようなものを付けていた。
(ま・・・。まずい・!!殺される・・・・!!!!)
逃げようとするが体が硬直して動かない。彼はゆっくりと近づいてくる。足音がだんだん近くなり、ミシュパハーの呼吸も荒くなっていく。
(ラズファさん・・。どうして・・・!)
―殺される!―
ミシュパハーは反射的に目を瞑る。頭に手がのっかり、自分も殺されるとそう思い込んでいた。
だが痛みは一向に来ない。恐る恐る目を開ける。
「何やってんだこんな時間に・・・。足もこんなに汚れて。風呂に入って早く寝な。」
彼はミシュパハーの頭をなでた。
「ラ、ラズファさん・・・なんですよね?」
「何変なこと言ってるんだ。俺に決まってるだろう。悪いものでも食べたか?」
平然と会話を続けるラズファに恐怖心を抱いたミシュパハーだった。
「さっさと風呂に入って寝るんだな。俺もこれを片付けたら寝る。」
そう冷たく言葉を放ち、遺体の方へ戻っていった。
ミシュパハーは理解が追い付かず、言われた言葉に従って風呂場へ向かったのだった。
風呂の湯で綺麗に血を落としていく。
べっとりと血がついていたせいか、洗っても洗っても感触は消えず、微かに鉄臭いにおいが残っていた。
それと同時に当時の光景が脳裏に焼き付く。頭が割れるような頭痛に思わず床に倒れこんだ。
そこでミシュパハーは意識を手放してしまった。




