それもまた運命
クロ―フは懐かしい夢を見ていた。
走馬灯のように起きた出来事が次から次へと流れてくる。
「フ…ローフ……クロ―フ…!」
どこかでクロ―フを呼ぶ声が聞こえる。
クロ―フが声がするほうに顔を向けると、そこには緑髪の女性が立っていた。次の瞬間、クロ―フは涙を流した。一度も見たことがない目の前にいる女性が自分の本当の母親ということに気づいたのだ。
「かあ・・さん・・・。」
そういうとクロ―フの母親は両手を広げ、クロ―フを歓迎する。クロ―フは母親の腕の中に入る。母親は優しく息子を抱きしめる。
「いままでこうしてあげれなくて、ごめんなさい。辛かったよね。いっぱい苦しんだよね。」
母親はクロ―フの頭を優しくなでる。クロ―フは今までの苦しみやつらい気持ちが込みあがって、声を押し殺してひたすらに泣いた。
「クロ―フ。あなたはこの先死んでも決して天国になんか行けないわ。もちろんレイダも。だけど死ぬ前にちゃんと最期のやるべきことを全うしてきなさい。そうしたら、私も、あなた達と一緒に地獄に落ちるわ。」
母親はクロ―フにあるものを渡した。赤黒い液体だった。
「これを、あなたに託すわ。これをホシェフの体内に入れるの。あとは彼の親友のノーランが、何とかしてくれるわ。さぁ。そろそろ時間よ。愛してるわ。クロ―フ。」
母親が白い光となって消え、クロ―フは目を覚ました。右手には、あるはずのない、夢の中で渡されたものが握られていた。
”これをホシェフの体内に入れるの”
母親にそういわれた事を思い出し、クロ―フはすぐさまホシェフを探す。
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一方。ノーランは苦戦していた。今まで、ノーランの作成した薬剤に近づきすらしなかったのに、平然とホシェフは前にやってきたからだ。
「なんで俺が効かないのかって顔をしているな?俺だって人間だ。成長くらいする。ただ、別に効いてないわけじゃない。食らったところは瞬時に切り落として再生させている。体力はもちろん消費するさ。だが俺も馬鹿ではない。疲れないようにこれでも鍛えたんでな。さぁ、これでお終いにしよう。」
ノーランは打つ手がないと察し、諦めかけていた時だった。
背後からクロ―フがホシェフに赤黒い液体がついたナイフを刺した。ホシェフは驚いた。
「お前、目が覚めたのか・・・?」
ホシェフは霧になって消えようとしても消えることが出来なかった。ノーランはそれを見て瞬時に理解ができた。
「!・・・そうか。そういうことだったのか。」
ノーランはもう片方の手で特殊な剣を作り、ホシェフにめがけて刺した。
「これで最期だ!ホシェフ!」
ホシェフは咄嗟に逃げようとする。が、
「お前は絶対に逃がさない!」
クロ―フが背後からホシェフに抱きついた。
「なっ!しまった!」
特殊な剣は、クロ―フの腹ごと突き刺さった。二人して口から大量の血を吐く。
ホシェフは刺された直後、いないはずの自分の妻が目の前に見えた。
(そうか・・・。あの女っ!)
ホシェフは、だんだんと黒い塵となって消えていく。
「これで、終わったと、思うなよ・・。!」
「いいや。お前はもう終わりだ。裁きを受けろ。その身で。しっかりとな。」
ホシェフは影も形もなくなり、クロ―フだけが取り残されていた。
クロ―フの腹部にはぽっかりと穴が開いていた。
「これで・・・。すべてが終わった。ノーランさん。ありがとうございます・・・。」
「君まで刺されることはなかっただろ。なぜ!」
「僕は、もう取り返しの・・・つかないことを・・・した。これは、”罰”なんだ・・・」
呼吸がだんだん小さくなっていく。
「急いで治療してやる。待っていろ!」
ノーランは慌てて処置室に運ぼうとするが、クロ―フはノーランの腕を掴み、止める。
「いいんだ・・・これで・・・。もうすぐ、平和が訪れる・・・。辛かったけど、幸せだった。さようなら・・・。ノーラン・・・さん。」
そういい、クロ―フは力尽きた。
「また、俺は独りになってしまうのか・・・。」
ノーランの小さな声だけが虚しく残り、ただそこに一人で立ち尽くしていた。
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あれから数年後。この街では不可解な殺人事件が起こるという話は一切聞かなくなった。
ノーランは新しく病院を建て、医者という職業に復帰した。相変わらず治療は荒いが、よく効くと評判だった。
いつも通り診察時間が終わると、持ち前の魔法と薬剤の知識を生かし新たな開発に取り組んでいた。
「今度は上手くいくと良いがな・・・。」
病院の奥にはノーラン以外入ることができない地下があった。今日もその地下へと向かう。
中に入ると、あの四人がホルマリン漬けにされ、大切に保管されていた。ノーランはそれをじっと見つめる。
「ホシェフ、オール。俺たちが本当に望んでいた世界を俺が作って見せる。」
ノーランは不敵な笑みを浮かべた。




