偽善
爆発音が院内を轟かせる。
クロ―フは全身傷だらけで歩行することも困難だったのに、脳の警告がその痛みを無視し、飛び上がる。そして、身体を引きずりながら、音の鳴る方へ移動した。
「クロ―フ君。来てはダメだ!」
ノーランの叫びに、クロ―フは足を止める。
「おっと。いるじゃないかミシュパハー君。だめじゃないか。任務を放棄して・・・。」
「ホシェフ!いや・・・。父さん!」
父さん。その言葉にホシェフは反応する。そのことを知っているのはレイダ。ただ一人だけだった。
「・・・レイダ。あの男には本当に失望した。」
自分の長男に対してあそこまで尊敬をしていたホシェフだったが、この一瞬で崩れ去ってしまった。
「いつまでその仮面をしているんだ。ホシェフ。もうバレているのならしなくていいだろう。」
ノーランがそういうと、ホシェフは仮面を外した。
その瞳はクロ―フと同じ、綺麗な翡翠色をしていた。
「ミシュパハー君。任務の時間はもうすぐ終わる。失敗すればどうなるかわかるな?」
_______失敗すれば”死”________
だが、クロ―フにとってもう”死”というものに恐怖は一切なかった。
「俺は。お前を殺す!」
自身の父に向ける目は完全に殺意を持っていた。
「クロ―フ君!戦えるのなら、これを使え!」
ノーランは結晶の剣をもう一本作り出し、クロ―フのほうに投げた。
クロ―フはそれを受け取る。
「おいおい。2対1とは卑怯じゃないか。なら・・・」
そういい、ホシェフは魔法を使い、もう一人自分を生み出した。
「これでちょうどよくなったな。お前たちを始末して、また、新しいメンバーを迎えるとしよう・・・。」
ホシェフによく似たもう一体の偽物がゆっくりと近づいて来る。
「はっ。それが自分の息子に対して言えることが異常でしかないな・・・。」
「それをお前の口から言える立場でいられるのが面白い。」
「もうあの時とは違う。お前の計画もここまでだ。」
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お互いに激しくぶつかり合う。
「それにしても、ここまで君たちが従順だったのは驚きだったな。何も知らず、私の言うことだけに素直に従い、この計画の本当のことを知らず、哀れなものよ。」
ホシェフはニヤける。
「お前だけは、絶対に許さない!」
「はははは!!!!もう既に何人も殺してるお前が、父親に対してそんなことを言うのか貴様は。」
「都合よく、父親面するな!!!」
そう叫ぶクロ―フにホシェフはさらに嘲笑う。
「確かにそうだなぁ!!お前たちをちゃんと一人の子としてみたことがないからなぁ!なら、赤の他人と呼ぶか!」
力で押され、その隙にホシェフに首を掴まれる。
「どうだ!?、憎き父親に痛めつけられる気分は!」
ホシェフは掴んでいる首に力をこめる。ドクドクと脈打つ感触が手に伝わった。
すると背後から、ノーランがホシェフのことを切りつけた。
ホシェフは黒い霧となって消え、数歩前のところでまた復活した。
「クロ―フ君!あまり深く考えるな!今はこいつを殺すことだけを考えろ!でなきゃ死ぬぞ!万全な状態じゃないんだ!気を付け____」
言い終わる前にノーランの体に鋭い剣が突き刺さる。
「よそ見している場合かな?」
ホシェフが笑顔で話しかける。だがノーランは水となって消える。
「悪いけど一度たりとも気を抜いたことはないね。」
ノーランは背後に回り、ホシェフに向かって切りつけた。だがそれもダミーだった。ホシェフは黒い霧となり、消える。
「ははっ。冗談だ。お前はもともと警戒心が強いからな、ノーラン。」
「お前もだ。ホシェフ。」
クロ―フは乱れる呼吸を整え、剣を構えた。
「ほう。まだ動けるか。」
もう一人のホシェフがクロ―フを見つめる。
「まだ・・・。これからだ!」
クロ―フは剣を握る手に力をこめた。




