捨てる神あれば
目を覚ますとミシュパハーは、見知らぬベッドの上にいた。
薬品のにおいがツンと鼻を掠める。
「やっと目が覚めたか。」
声がするほうに顔を向けると、ガスマスクの男が立っていた。
いつものガスマスクをしておらず、ずっと隠していた口元は、痛々しいやけど痕のようなものがあった。
「ここは・・・。」
「廃病院だ。もともと俺が経営していた病院だったんだがな・・・。」
ガスマスクの男はもともと医者であり、治療は少々荒いが、評判がいい医者だった。
「まだしばらくは安静にしているといい。なんせお前は兄にあれだけ体を、めった刺しにされたんだ。最期に兄はお前に何かをしたのだが、それが命を繋ぎ止めていたのかもな。複雑な気持ちだと思うが、兄に感謝するんだな。」
兄という単語が出てミシュパハーは気を失う前のことを思い出す。
「ホシェフ・・・。兄は最期に、俺たちの父親はホシェフだと言っていました。」
その事を聞いてガスマスクの男は血相を変えてミシュパハーに問い詰める。
「その話は本当か?!」
「兄が、そう言っていました・・・。」
「そうか・・・。」
それだけ言うと、ガスマスクの男は黙り込んでしまった。その表情はとても悲しそうだった。
「・・・あの。」
ミシュパハーがガスマスクの男に問いかける。
「貴方のことは、何て呼んだらいいんですか?それと、貴方と兄の関係は・・・?」
「あぁ、そういえばずっと敵だったからな・・・。俺の名はノーランだ。そういう俺も君のことをなんて呼べばいいかな。ミシュパハー君?それともクロ―フ君?」
ガスマスクの男はノーランといった。
「僕のことはクロ―フで良いです。ラズファさんには申し訳ないですけどあの名前は仮の名前です。僕は本当の名前を知ることができたので。」
「そうか、じゃあこれからよろしく。クロ―フ君。」
ノーランとクロ―フは軽く握手を交わした。
「レイダ君は、かつて、私の教え子だったんだ。まだ彼が小さいときに、急に私のもとへと訪れてね・・・。『俺に魔法を教えてくれ』と言ってきたんだ。勿論。最初は断った。だが諦めが悪くてね。私が折れてしまったんだ。まさか、お前の家族を殺すために学んだとは思わなくてね・・・。クロ―フの両親を死なせてしまったのは私にも責任がある。すまない。」
ノーランは拳を強く握りしめ、歯を食いしばった。その姿を見て、クロ―フはノーランを宥めた。
「あの、こんな状況で聞くのはアレなんですが、兄の死体はどこに・・・?」
「君の兄は安置所に置いてある。兄だけに限らず、ラズファ君、リウ君のもある。」
「後で、見に行っても・・・いいですか。」
「別に構わないがあまり気分のいいものではないぞ。」
「それでもかまいません。」
返事はどこか覇気がなかった。
これ以上言っても言うことを聞くことがないとわかったノーランは諦めて、クロ―フの質問を受け入れた。
「いいだろう。その前に準備をしてくるからここで待っていろ。」
ノーランは部屋から出ていった。




