兄弟
翌日目を覚ましたミシュパハーは記憶があやふやになっていた。
気持ちが晴れないまま今日もノルマに育もうとするが、ナイフを持とうとすると手の震えが止まらなかった。
今まで殺してきた者たちの悲鳴、懇願、命乞い。
すべてが雑音だった。
むせかえるほどの血の臭い。
こびりついた臓器の感触。
全てが鮮明によみがえり、ナイフを落としてしまう。
「そろそろ終わりの時が近づいてきたな。」
ミシュパハーの後ろに現れたのはラズファだった。
「ラズファ・・・さん・・・?」
「お前の行動。全部見させてもらったよ。勿論。お前がこうなることも・・・。」
「あなたが・・・リウさんを・・・?」
「おや?何のことかな?」
ラズファはしらばっくれた。その光のない蒼白の瞳は何を考えているのか分からなかった。
「俺がリウをただ殺した。という考えならそれは、大きな間違いだ。あいつは全てを知った。だから・・・」
ミシュパハーは急に殺意が沸き始め、落としたナイフを拾い、ラズファに向かって切りつけようとした。
だが、
ガキン!と金属のはじける音とともに黒い霧の中からレイダが現れた。
「人の話は最後まで聞くものだぜ。ミシュパハー。俺はそんな反抗する奴に育てた覚えはない。」
「久しぶりだな。”クロ―フ”」
その一言で、ミシュパハーは全てを思い出した。
「兄さん・・・?」
レイダは仮面を外した。
髪の色、目の色は変わっていたが同じ位置にほくろがあったことで自身の兄だと確信した。
「まさかとは思っていたがお前がこの集団に入っていたとはな。俺を追ってか?」
淡々と話すレイダ。その赤い瞳はミシュパハ―のことをしっかりと捉えていた。
「どうして兄さんがここに・・・?」
「簡単な話だ。お前たち家族がただただ憎かったからだ。」
ミシュパハーはそれを聞いて全てに絶望した。
「ラズファさんは、全て・・・知っていたんですか・・・?」
ラズファはニヤつきながら話す。
「話を聞くからに薄々気づいてたさ。俺とレイダはこれでも長い付き合いなんでね。」
重い空気がのしかかる。
「みんな・・・。みんな・・・裏切っていく。」
ミシュパハーに怒りがこみ上げる。
「僕は、お前たちを・・・”殺す!”」
ミシュパハーはナイフを強く握りしめた。もう先程の震えはそこにはなかった。
ラズファは大きな笑い声をあげた。
「お前みたいな弱虫が俺たちを殺す?笑わせてくれるな。」
その時だった。
「ミシュパハー君だけじゃないぞ。」
現れたのはオッドアイのあの男だった。
「ミシュパハー君。俺はラズファをやる 君は兄のレイダ君を殺すんだ!」
ミシュパハーも納得したのか、レイダに向かって殺意を向けた。
「あの時よりどれくらい強くなったか見てやる。」
レイダは黒い霧の中から剣を取った。
刃の音が激しくぶつかり合う。
「どうして兄さんは、僕を裏切った!なぜ家族を殺した!」
そのことについてレイダはだんまりだった。
無言で刃を突き付けてくる。
「何とか言ったらどうだ!!どうして!!!」
悲痛な叫びは虚しく消えていく。
「甘い!」
隙を狙ってレイダがミシュパハーの鳩尾に肘を入れた。
ミシュパハーが態勢を崩し、その場で尻もちをついた。
―しまった―
レイダが馬乗りになる。
「あの頃の楽しかった、二人の時間に戻りたいよ・・・。兄さん・・・。どうして、兄さんは変わってしまったの?」
レイダは無視してとどめを刺そうとした。
だが喉元のところで攻撃は止まった。
ミシュパハーの頬に一粒の雫が落ちた。
「俺は、お前が羨ましかった・・・。」
レイダが泣いていた。
「お前が生まれる前までは、俺は幸せだった。家族に愛されていた。
だがお前が生まれてからは俺は愛されなくなった。
みんな、俺を除け者にしようとした!持って生まれた才を否定されたからだ。
だから俺は殺した。お前が許せなかった。凡人であるお前が!!」
レイダの過去を聞いてミシュパハーはショックを受けた。
「だからこの手でお前のことも殺してやる!あの時、俺がしたことは正しかったということを!」
レイダはもう一度刃を振りかざそうとしたがミシュパハーはそれを手で受け止めた。
ドクドクと手から血が流れる。
「いまここで、僕は死ぬわけにはいかないんだ!!」
ミシュパハーは力ずくで押しのけた。
「これでようやくすべての辻褄があった。もう終わりにしよう兄さん。」
「あぁそうだな、お前が死んで俺が世界を変えるためにもな。」
レイダはあの時ガスマスクの男の前に出したときと同じ大きなバケモノを目の前に召喚した。
「すぐに片付けてやる。クロ―フ。」
ミシュパハーの目の前に大きなバケモノとレイダが立ちはだかった。




