ノルマ
―君は将来、ここの跡継ぎをするんだ!―
―君は頭がいい。―
―いつか、真実を知って―
最後の女の一声でハッと目を覚ます。今まで自分の記憶で見た内容ではなかった。
(誰の夢・・・?)
その声は、まるで自分に言っているかのように。
嫌な汗が体を伝う。
外は真っ暗だった。風が木々を仰いでいる。その音はまるで呻き声のようだった
(兄は今どこで・・・。何をしているんだろうか・・・。)
ここ数日の出来事で本来の目的を忘れそうになっていた。
一向に兄の影を見つけることすらできない。
今どこで何をしているのか、そもそもなぜ両親を殺したのか、考えれば考えるほど疑問が増え続けていくだけだった。
その時―
「おいお前!こんなところで何している!泥棒!」
声のほうを振り向くと見知らぬ夫婦がこちらを見ていた。
顔を見られた
―絶対に顔は見られてはいけない。もし見られたら殺さなければならない。―
あの集団での暗黙のルールだ。
ミシュパハーは咄嗟にナイフを取り出し、夫婦に刃先を向けた。
心臓がバクバクと鳴る。ラズファが部屋を血濡れにした時以来の鼓動の大きさだった。
夫婦が何かを言っているが、正気じゃないミシュパハーには何も聞こえなかった。
次の瞬間、ミシュパハーは男の心臓を目がけて刺した。生暖かい血が手につうっと伝う。
女は、悲鳴をあげる。倒れた旦那に近づき、体を揺さぶる。
ミシュパハーは血の付いたナイフで次に女を刺した。女はナイフを受け止め、即死にならなかった。
女は泣きながら懇願する。
「せめて・・・。この子だけは・・・・。」
女は血濡れた手で、赤子を庇う。ミシュパハーはハッと冷静さを取り戻す。女は力尽きて倒れた。気づいた時には目の前には夫婦が倒れていて、血の海が広がってき、赤子の泣き声だけが耳に響く。
ミシュパハーは目の前の光景を見て青ざめる。両手についた血を見て、血の気が引いていく。
呼吸がどんどん荒くなる。
時の流れがゆっくりに感じ、自分の心臓の音と、乱れる呼吸しか聞こえなくなっていた。
その時、トンっと肩に重みを感じた。その一瞬だけ周りの音が静寂になった。
「初めてにしては上出来なんじゃないか・・?」
聞き覚えのある声、どこか落ち着く独特な香り。ラズファが後ろに立っていた。
「ラ・・・ラズファ・・・さん・・。」
「悲鳴が聞こえたんでな。聞こえた方向に向かってったらお前を見つけたのさ。」
ラズファは目の前の光景を見る。
「派手にやったねぇ・・・。今日のノルマ達成じゃないか。ゆっくりしようぜ。」
ラズファの言葉が頭に入らなかった。そして彼はミシュパハーからナイフを奪い、赤子を目の前で刺した。
「いいか。ミシュパハー。”慣れ”だ。繰り返しているうちに”慣れる”ぜ。」
赤子の泣き声が消え、風の音だけが耳に残った。
―慣れ―
ミシュパハーがちゃんと聞き取れた言葉はそれだけだった。




