終末の日 ♯6
2050年 12月30日 19:15
変異した動物の襲撃から十日後、隊員達の必死の抵抗も虚しく防衛ラインは天照の外周まで下げざるを得なくなっていた。
天照へ通ずる複数の建物を拠点とし、各小隊は終わりのない防衛戦を日夜続けていた。
「ちくしょう、とうとう弾薬が尽きてきたよ。俺の小便でもあいつらにかけてやろうか。」
レンメルは冗談混じりに笑いながら話すも、その笑顔に力はなかった。
窓を覗く目線の先には建物を包囲する多数の猫型、犬型、鳥型が天照を囲んでいた。
「へいレンメル、爆薬もだ。薄っぺらいチキン野郎共には銃は効くが、犬猫共に止めを指すには爆弾しかない。ていうか日に日に化け物共の数が増えてないか。」
イーターの顔色も決して良くはないが、動物達を侮蔑することで何とか平常心を保とうとしているようであった。
「そんなのクリスマス頃から感じてたよ。サンタからのプレゼントにしては悪趣味すぎるぜ。あ、サンタもトナカイにやられたか。」
レンメルの冗談にイーター、カルフは苦笑していた。
「拙者は今頃天照で嫁達(抱き枕)と出発の準備をしてたはずなのに、予定が崩れたでござるよ。」
マイペースなハルマーは天照よりも嫁達(抱き枕)を心配しているようであった。
「俺も今頃、ジャパニーズレディと過ごしているはずだったのに。おい、ムカミ大丈夫か。」
場の空気を少しでも和ませようとするイーターの視線の先には、ムカミがいる。
ムカミは警戒を解くこともなく銃口を動物達に向けている。
「ムカミ、今はあっちも襲ってこなそうだから私と交代して少し休んできたらいいよ。あなた、ずっと寝てないじゃない。」
心配そうにムカミに話しかけるエマであったが、ムカミはまる反応しなかった。
「…ムカミ。」
再び話しかけるエマに、ムカミは急に反応しエマの方を振り返る。
「あいつらは逃げてきたパパとママを私の目の前で八つ裂きにした。パパとママだけじゃない。私達の仲間も大勢殺された。次は私達が殺されるのよ。…私はまだ死にたくない。」
いつもの明るいムカミからは想像もできない、悲観的な態度ににたじろぐエマ。
これ以上ムカミにかける言葉は見つからず伏目がちにムカミの隣に座ることしかできなかった。
「隊長、隊員達がもう限界です。何も情報がなく、新たな指示も下りてこないこの状況では無理もありません。何か指示は下りてきていないんですか。」
ナラは碧狼の傷を治療しながら、他の隊員に聞こえないよう小声で話しかける。
気丈に振舞っているようだが、その顔は他の隊員と同様に憔悴している。
「ふっ、ナラ顔色が悪いぞ。まるでナラがいつも見ているゾンビドラマのゾンビそのものだ。」
「…なぜそれを。そしてレディに対して失礼ですよ。セクハラ、モラハラです。」
「いや、この前脇目もふらずゾンビドラマのDVDを小脇に抱えたナラが見えたからな。」
「ハラスメント確定ですね。」
ナラは笑いながら冗談混じりに話す。
少し元気の出たナラの顔を見て、安堵する碧狼。
「ナラが言ったように先の見えない戦いはただ消耗するだけだ。実際この数日の戦いで部下は何人も死んだ。だが悲しむ暇を与えないくらい敵は襲ってくる。」
「だけど司令が話したように、天照は人類の希望だ。だから俺たちは希望を捨てずに戦うしかない。俺たちにできることは天照を守る、それだけだ。」
「そうですね。天照は人類の希望。そして私達は希望を守る為に選ばれたんですもんね。よしそうと決まったら天照にうんと寄りかかって戦いますか。」
そう話すナラの目には少しずつ活力が戻ってきているようであった。