終末の日 ♯5
犬型と会敵後、順調に歩みを進めるオルトロス隊は誰一人欠けることなく無事に天照に到着することができた。
天照周辺ではキング司令指示の元、先に到着していた四つの部隊が天照防衛の準備を進めていた。
「キング司令、オルトロス隊50名無事到着いたしました。」
「碧狼か、道中大変だったな。先に到着した四隊は会敵しなかったとのことだ。…あれが世の中を騒がせている化け物か。」
キング司令の視線の先には、瀕死の犬型がイーターとカルフに担がれている。
抵抗する力もない犬型だが、キング司令を見つめるその目にはまだ力強さが残っていた。
「よし、早速天照内のラボへ連れて行き、検査を始めろ。頭の先からつま先、血液、細胞全てだ。碧狼、ナラを護衛にそこの小さいのも連れていけ。」
「小さいのとはなんだ。私は人類の宝だぞ。」
キング司令の発言に怒りを露わにする李広であったが、キング司令の一睨みにすぐさま碧狼の後ろに隠れるのであった。
「ナラ、李広と猫型は任せたぞ。イーター、カルフ気をつけて行けよ。」
「了。」
ナラ、イーター、カルフは犬型に細心の注意を払いつつ、李広と共に天照内へと進んでいった。
ナラ達を見届けた碧狼とキング司令は、今後の防衛体制について議論しようした矢先、森から散り散りとなっていた隊が慌てる様子で陣営に駆け込んできた。
「司令、遅れて申し訳ございません。オセロメー隊、ルイス・ジャガー始め計16名到着いたしました。」
オセロメー隊隊長であるルイス・ジャガー・カルロス・マリアの顔は憔悴しきっていた。
その全身は誰の血かわからない程赤く染まっており、それは部下達も同様であった。
「…報告を。」
顔を歪め険しい顔で報告を求めるキング司令。
恐らく最悪の報告になるであろうことは、容易に予想できているようであった。
「私の部下は化け物に。いや、順を追って説明します。司令からの無線を確認しオセロメー隊も他の隊同様天照へ向かったのですが、私達の寄宿舎後方の住宅街より多数の犬、猫の化け物が襲いかかってきた為、銃火器、爆弾を使い抵抗しました。しかし化け物どもの数が多く撤退を余儀なくされました。その際負傷した者達はもう助からないからと殿を引き受けてくれて、何とか残りの者達と天照まで辿り着きました。隊長である私がノコノコと生き延びてしまって情けない限りです。彼らの意思を引き継ぎ、命に変えても天照を守り抜きます。」
矢継ぎ早に話すミックの息は荒く、その目はどこか焦点が合っていないようであった。
「…そうか、犠牲になった隊員達に感謝する。」
「諸君、敵は我々人類に対して明確な敵意を持って攻撃してきている。敵が何か、目的は何なのかは全て不明である。だが我々は人類の希望である天照を守り抜くという責務がある。世界中から選ばれた諸君ならそれが可能なはずだ。人類の未来の為にもその命を私に預けてくれ。」
「了。」
キング司令の言葉で士気が上がった隊員達は、再び各所に散り防衛体制を整える。
「ルイス大丈夫か?」
「…碧狼か。見ての通りさ。」
同期のルイスを気遣う碧狼であったが、ルイスは力無く笑いながら配置についていった。
いつもの陽気なルイスの姿はそこになく、配置につく背中は少し小さく見えた。
周囲が慌ただしくなる中、碧狼はふと夜空を見上げる。そこにはいつもと同じように満点の星が夜空を彩っていた。