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目覚めの時 ♯8

2200年1月9日


手術から1週間、碧狼は四六時中痛みに耐えていた。

食事は喉も通らず、点滴で命を繋いでいる状況であり、鍛え抜かれた体は見る影もなくなり痩せ細っていた。

だが窪んだ眼窩には鋭い光が点っている。

部屋には手術室にいたメンバーが揃っており、碧狼の経過を見守っていた。


「調子はどうだい脳筋君。文字通り脳だけ筋肉になったな。」

「李広様、セイカク悪すぎます。」

「…痛みは最初に比べ、だいぶ収まってきた。だが体に何も変化はないぞ。本当に取り込めたのか?」

「失礼な事を言うな。そんな小枝のような体で何ができる。体力が回復してから力を試してみるんだな。」

「…あれから1週間経った。早く姿を見せないとみんなが心配する。セレーネー、すまないが何か食事を持ってきてくれないか。」

「君は本当に僕の言うことを聞かないな。…後悔しても知らないぞ。」


自分の言うことに対していつも真逆の行動をする碧狼に苛ついた李広は不服そうにソファーに腰をかける。


数分後、粥のような食べ物を手にセレーネーがやってくる。


「碧狼さん、味は保証しませんが栄養は満点です。急に食べると体に悪いので少しずつ食べてください。」

「ありがとうセレーネー。………栄養がありそうな味だな。」

碧狼は礼を言うと、粥を口に入れてみる。

ほぼ無味な味に野草のような匂いが鼻に充満する。

だが碧狼は、考えることをやめ無心でそれを口に運ぶ。

(碧狼さんはこの料理が好きなんだな。また作ってあげなきゃ。)

セレーネーが不吉な事を考えている間に碧狼はなんとか完食することができた。


「よし、やろうか。」

「おい、脳筋。何をやるつもりだ。まさかその小枝みたいな体でP・C化しようとしているのか?」

「ああ、そうだが?久しぶりに固形物を食べたからか、だいぶ体調は良くなってきたぞ。」

「いや、それは脳筋すぎるだろ。僕もわからないことが多いがP・C化は相当の体力を使うはずだ。今やったら死ぬかもしれないぞ。」

「大丈夫だ。俺の体のことは俺が一番知っている。それとP・C化は言いづらいからこれからは『獣化』にするかな。」

「…僕の研究に勝手に名前をつけるな。…勝手に死んでろ。」


李広は半ば諦め気味に後ろへと下がっていった。

それを確認した碧狼は静かに目を閉じ集中しだす。


(…そうは言ったが実際どうすれば獣化できるんだ。とりあえず瞑想してみるか。)

碧狼の瞑想から5分が経っていた。

その間変化は何もなくただ時が流れていく。


「…ダメだ、何もわからない。李広何かわからないか。」

「それが人に物を頼む態度なのか?」

「頼む、教えてくれ。俺は一刻も早くみんなの力になりたいんだ。」


頭を下げ李広にお願いする碧狼。

これまでで2回目のやり取りだが、李広は飽きずに満足気な表情をしている。


「君が何も聞かずに勝手に先走るのが悪いんだぞ。今君の体はP・Cの細胞が定着したばかりの赤ん坊だ。その赤ん坊はずっと眠っているからどうにかして起こさないといけない。そこで活躍するのがこの薬だ。」


李広の懐から出てきた、バイアルに入った薬は少し黄色がかっているように見える。

李広は注射器でバイアルから薬剤を吸い出し空気が抜けるよう指で衝撃を与えている。

「最後に確認するが本当にやるんだな。」

「ああ、構わない。やってくれ。」

李広は碧狼の言葉を確認すると迷わず静脈に注射をした。


「…よしこれで問題ないはずだ。癪に障るが獣化とやらは自然にできるはずだ。」

李広の言葉が終わるや否や、碧狼の体はみるみると変化していった。

口からは鋭い牙が生え、目の色は碧から金色に変化していた。

痩せ細った体は1週間前の碧狼の体に戻り、健康体そのものになっていた。


「キング司令、昼飯は牛の培養肉ステーキとマッシュポテトですか。」

「…匂うのか。」

「いえ、以前より嗅覚が鋭くなったような気がして。というより色々な感覚が…。」

「それもそうだ。君が選んだ動物は狼だからな。この子達のようにそこまで獣化していなくても十分な力を発揮できるはずだ。体調に変化はないか?」

自らの研究が立証された李広は、興奮気味に話し出す。


「体調は全く問題ない。むしろ調子が良いくらいだ。この効果はどのくらい続くんだ。」

「それを今から調べるんだよ。後は血液検査、脳波、CT…徹底的に調べてやるから覚悟しろよ。」

「リコウ先生が嬉しそうでヨカッタです。」


格好の実験体を見つけた李広の目は興奮で焦点があっていないかのように見えた。

半ば無理やり碧狼の手を引き検査室へと向かっていく李広。

その後を甲斐甲斐しくネレアー、セレーネー、楊貴妃がついて行くのであった。

残されたイーグル艦長、キング司令は実験の成功に安堵し、今後の方針を固める為に動き出すのであった。


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