終末の日 ♯2
天照近郊にある一軒の居酒屋。
そこには多くの隊員達が訪れ大盛況であった。
「やっと終わったよ。隊長は尊敬できる人なんだけど人として大切な所が欠落してるんだよな。お、冷えたビールも美味いな。」
「・・・。」
ドイツ出身のレンメル・フィッシャーは大好きなビールを一気に飲み干す。
久々の休暇に対し上機嫌なのか、隣にいる妹のエマ・フィッシャーに話しかけるが、おとなしい性格のエマは相槌を打つだけでチビチビとビールを飲んでいる。
「さっき訓練室の前通ったんだけど、隊長ギザギザの木の上に座って、膝の上に石と愛犬のチャチャを乗せて瞑想してたよ。」
ケニア出身のムカミ・カマウは無邪気に笑いながら先程見てきた事を陽気にみんなに報告している。
「むむ、それは昔ながらのジャパニーズ拷問、石抱きではないですか。流石隊長。古き良き日本文化を大事にしてらっしゃる。」
ゆうに2メートルを超えるであろう恵まれた体格のカルフ・オルソン。
北欧の出身でありながらシャツには美少女アニメのプリントが施されており、碧狼のトレーニングを日本式拷問に置き換えることができるあたり、カルフの日本文化への造詣の深さが窺える。
「こ、これがHENTAIか。」
普段は陽気なブラジル出身のイーター・ロドリゲスだが、隊長の奇特な行動に少なからず怯えているようであった。
愚痴や文句など各々が隊長の話で盛り上げる中レンメルは出し抜けにみんなに問いかける。
「ところで副隊長(天使)のおかげで予想外の休暇を手に入れたわけだが、みんなはこれからどうするんだ。俺はとりあえずビールでも飲むかな。」
「お兄ちゃんがそうするなら私も付き合うよ。」
「エマは相変わらずお兄さんっ子でござるな。羨ましい。拙者は秋葉原に行き日本のOTAKU文化を満喫してくるでござるよ。」
(拙者?こいつ急に口調が変わって気持ち悪いな。)
今まで聞いたこともないカルフの口調に、レンメルはただただ引いてしまっていた。
「カルフ急にどうしたのその口調。これからそのキャラでやっていくつもりで話しているのなら、私はやめた方が良いと思うけど。なぜなら気持ち悪いから。あ、ちなみに私はパパ、ママと過ごすかな。1等身までは家族連れも許可されてるからね。」
ムカミはあっけらかんとした表情でカルフに対してあけすけに言うのであった。
レンメルが視界の端で捉えたカルフは目に見えて落ち込んでいるようであった。
「イ、イーターは何か予定は決まっているのかい?」
何とも言えない空気を変えようとレンメルはイーターに話を振る。
「クリスマスも間近に迫っていることだし、俺はジャパニーズレディと仲良くなりに行くよ。それにこれから死ぬまで君たちと一緒に過ごすかもしれないし、今のうちに地球に良い思い出を作らなきゃね。」
「それ私達の前で言いますか。」
「前から思ってたけどイーターって色んな意味で薄いよね。」
イーターの軽い発言に女性陣からは辛辣な言葉が飛び交ってしまう。
先程の空気が若干軽くなった状況を見て、レンメルは胸を撫で下ろすのであった。
オルトロス隊を始めとした、天照に関わる人々は各々の夜を過ごしていく。
碧狼は相変わらず訓練を続けている。
水中訓練と称し、水車に自らを縛りつける水責め拷問のような事をやっており、その傍で訓練によって飛び散った水を、愛犬である柴犬のチャチャが美味しそうに飲んでいる。
ナラは自室にてゾンビドラマを観賞していた。
ジャージを身に纏い、右手にはポテチ、左手にコーラという完全装備ではあったが、ドラマを見るその目は死んでいるようであった。
「見てみろ新人。今日はいつにも増して星が綺麗だぞ。お、流れ星だ。さて、週末の競馬に勝てるように願い事しておくか。」
「先輩、そこは嘘でも天照のことを願いましょうよ。僕は天照が無事に次の星を見つけられることを願いますよ。」
「最近の若いやつは真面目だねえ。よし、これで動物達の搬入は終わったぞ。これが終わったら次は物資の搬入だ。」
「はい、今行きます。」
天照の作業員は満点の夜空を見上げ他愛もない話をし、みんなが無事出港する為に再び作業に取り掛かるのであった。