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死後、魂は宇宙へ……

作者: 雉白書屋

『おとーさん! あの星、きれーだね!』

『ああ、あれは金星だよ。一番星とも言うんだ……いや、あれはきっと、おじいちゃ――』


『ん、母さん。なにニコニコしてるの?』

『ふふっ、昨日ね、おばあちゃんの夢を見たの。今頃きっと天国、いや――』


 星になった。死後、人は、その魂は天国でも地獄でもなく空へ昇り、宇宙を旅するのだ……なんて話は生きている間何度か聞いたことがあったけど、まさか本当だったなんて……。

 そう、生きている間。事故。思ったより早く死んじゃったけど、こうして風船みたいにゆっくりと空を昇れるのは思いのほか悪い気はしない。ああ、住んでいた町がもうあんなに小さく――


「君、きみ、きみ!」


「え、あ、は、はい。あ、あなたも幽霊……ですか?」


「そうだよ! 決まってるじゃん!」


「人の形してるけど、ただただ白い、あれ、ピクトグラムみたいな……あ、まさかこっちも、死ぬとみんなそんな姿に……?」


「魂っていうのはそういうもんなの! そんなこといいから! ほら、早く空に昇った方がいいよ!」


「え?」


「ああ、やっぱり君、一周目かぁ。ほーんと、私に感謝しなよぉ?」


「い、一周目?」


 死後、人の魂は空を昇り宇宙へ。……そして、始まるのだ! 転生先を決めるレースが!

 宇宙に発生する気流に乗り、まるで鮭の川昇りのように魂たちは連なり、押し合いへし合い、宇宙空間を行き、望んだ惑星へと降り、その星の生き物へと転生するのである!


「……って、なんなんですか!? 気流!?」


「今、説明した通り。そういうことなんだよ。私もかつて、地球に来る前は別の星でその天寿を全うしたんだ。プラヒリトアウデクススだったかな。まあ、トカゲみたいなものだ。その一つ前はああ、あれは最高だったなぁ。射精がもう、人間の二百倍の気持ち良さで――」


「あ、あの、でも転生しても記憶を引き継げるわけではないんですよね?」


「そりゃね。でも今、私が話したように、こうして魂だけになると色々と思い出せるのさ。そうなると君だっていい思い出が欲しくなってきただろう?」


「まあ、確かに……でもそれなら地球の生き物でいいんじゃないですか? ああ、鮫とかいいなぁ。カッコいいし強いし、海を自由に……」


「ふっー、ごらんよ。あの流れを」


「え? ああ、地球に向かって白い線が蠢いて……」


「あれが外から来る連中さ。あれが言わば、気流。いや、さっき君に説明した通り、川と言おうか。あの流れに乗らないと輪廻転生できないってわけさ」


「なるほど……三途の川、死者の川。天の川とかもこれと関係あるのかな……」


「さあ、それは知らないけどあ、ほら、流れが発生したよ! さあほら、乗って乗って!」


「あ、はい! ……と、乗りましたけど、でも、どこを目指せば」


「うーん、ここから近いとこだと、プルタニャン星かなぁ。私はまだ転生したことないんだけど、聞いた話じゃ、あそこの生物のポパリって地球のイソギンチャクに似た生き物が全身性感帯で」


「いや、なんかそういうのばっかりなんですね……快感とか……」


「快楽がなきゃ人生とは言えないでしょ。ま、人とは限らないか、あははははは!」

「どけ!」

「クソがよぉ!」

「ふははははは!」


「……なんか、みなさんハイだったり荒っぽかったり、安らかではないんですね」

 

「はははっ! そういうものさ! なんせ競争だからね! お、さっそく第一候補の星が見えてきたよ!」


「あそこは……なんか赤茶けた星というか、あまりよくは……あ、でも分岐が。向かっていく人がいるんですね」


「うん。地球じゃなく、他の惑星から出発した人も当然いるからね。あまり長く旅しすぎると魂はやがて霧散してしまうんだ」


「あまり選り好みしてもいられないってことですね」


「そういうこと。個人差はあるけどね。はぁ……ここからだとまだグエペロ星は無理かなぁ。そこのバスクムって地球でいうカエル。それに似た巨大な生物はね、糞をする時にものすごい快感があるらしんだよぉ」


「もういいですからそういうの……」


「いやぁ人間の時は一度もできなかったからさぁ……セックス……」


「あ、そうなんですか……」


「まあ、君は初めてなんだし、じっくりと決めて、あ、あれ? 君」


「え、あ、あ、指が、か、欠けて……な、なんで!?」


「君……まさか、自殺したんじゃ」


「え、いや、あれは、じ、事故……車に……事故で……」


「……当てようか。道路に飛び出したんだろ?」


「……はい。好きな女の子に告白して、でも駄目で……それで……」


「魂っていうのはね、心なんだよ。傷つけばそうやって脆くなる。自殺なんて特にね。まるで――」


「罰、ですね……。なるほど、自殺した人は地獄へ行くなんて話がありますけど、こういうことを言っていたのかもしれませんね」


「そうだね……転生先、その選択肢を狭めるのだからね。もう少し頑張れるかい? この先に良い星があるんだよ」


「多分……無理そうです。ほら、もう腕が」


「……しょうがない。ならあそこの星にするといい。穏やかなところだよ」


「ああ、あそこなら、なんとか……」


「一人だと怖いかい?」


「……少し、不安です」


「しょうがない。途中下車だ!」


「え?」


「私も付き合うよ。気にすることはない。向こう、転生後でも会おう」


「で、でも、おじさんはまだ……ん? あれ? 欠けてる! いや、すごい勢いで欠けてる!」


「いやー、私も限界でね。モテなすぎて殺人とかやっちゃったもんだから、ははははは!」


「最低じゃないですか! 一緒のとこ来ないでくださいよ!」


「他に選択肢がないから仕方がないじゃないかぁ。もう流れに乗っちゃったしね。あと君、女の子だろ? その姿でもわかる。ビンビン感じるよぉ。絶対探し出すからねぇ」


「いや! いやだ!」


「ほーら、もうすぐ星に着くよ。ああ、こうして考えると私たちは精子であれは――」


「変態! 変態! あああああぁぁぁぁぁ」



 


 穏やかな空の下。草木茂るその地で雄鳥が果実をついばむ……と、そこへ雌鳥が。

 どういうわけか、やたら付き纏ってくるその雌鳥を、繁殖期にもかかわらずこれまたどういうわけか雄鳥は突っぱね、二羽は空を駆ける。

 横並びになり、ふとその心に何か浮かびかけるが、浴びる風その心地良さに流され、唄うたう。存外、悪い気はなし。

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