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27. 暴走・勘違い令嬢は追い詰められる




イリーナ様の狙いは、明らかに私の顔を傷つける事だった。

同じ女性としてそういう考えに至る事が私は本当に許せない──……


「アリーチェ!」

「エド様!?」


エドワード様は、イリーナ様が私に向けて来た攻撃から咄嗟に庇った。


ザクッ

そんな音が聞こえた。


「……くっ!」

「!!」


そのせいでイリーナ様が私にめがけて振りかざしたグラスの破片は、ちょうどまさに私を庇ったエドワード様の肩を傷付けた。


「エド様、エド様!!」

「……大丈夫。アリーチェこそ……怪我は無いか?」

「エド様が庇ってくれたから、私は何ともありません、でもエド様が! 血が!」

「大丈夫だって。アリーチェが何ともないなら、良かった、よ」


エドワード様はそう言って笑うけれど、こんなの笑っている場合では無い。

見た感じはそんなに深そうな傷には見えないけれど血だって出ている!

傷跡から変な菌が入り込む事だってあるかもしれない。このままにはしておけない!


「誰か! ……エドワード様の手当を! お願いします、誰か!」


私の声でようやくこの事態を呆然と見ていた人達が動き出す。

慌ててエドワード様を手当の為に会場の隅に連れて行こうとし、駆け付けた衛兵はイリーナ様を拘束しようとする。

しかし、イリーナ様は抵抗し暴れた。


「離しなさいよ! それよりどうして! どうしてそんな女を庇ったのですか? 何故! エドワード様!!」


エドワード様を傷付けた事に動揺しているのかイリーナ様は半狂乱になってそう叫んだ。


「アリーチェをそんな女と呼ぶな! お前なんかとは比べ物にならないくらいの素晴らしい人だ!」


エドワード様は支えられながら手当に向かう途中だった足を止めると、イリーナ様に向かって言った。


「素晴らしいですって!? 嘘よ! 嘘、嘘!! 私の方が……私の方が何もかも優れていますわ!」

「どこがだ! 今、自分のした事をよく振り返ってみろ!」

「!?」


イリーナ様が少しだけたじろぐ。


「謹慎中の身の上で、許可もなくこの場にやって来ては言いがかりをつけた挙句、令嬢(アリーチェ)を襲おうとしたお前のいったいどこの何が優れていると言うんだ!」

「わ、私は何も悪くないですわ……邪魔者を排除しようとしただけですもの……」

「邪魔者だと!?」


エドワード様がますます怒りの表情になる。


「それに! そもそも今日ここに来たのは殿下に謹慎を解いて貰おうと直談判するためでしたのよ。なのにエドワード様がその女と親密になさるから……!」

「勝手な事を言うな! 大人しく謹慎してれば良かったんだ! 身勝手な事をして殿下のパーティーをめちゃくちゃにした罪は重い。君にその覚悟はあるのか?」

「え?」


本当にイリーナ様には周りが見えていなかったらしい。

自分が暴れたこの場が何の為に開かれた場だったのか。完全に頭の中から飛んでいた。

もし、本当に謹慎を解いてもらいたかったのなら、こんな事をしなくても別の方向からだって働きかける事はきっと出来たはずなのに。


「殿下とリスティ様はこれから会場入りだった。当然、この騒ぎも聞こえている事だろう。二人は今頃何を思っているだろうな」

「……え」


イリーナ様の目が大きく見開く。


「───そんなもの、当然怒っているに決まっているだろう」


エドワード様のその言葉を受けて、王太子殿下が登場した。その隣にはリスティ様。

リスティ様の肩を抱いて現れた王太子殿下のその顔は……もちろん怒っていた。誰がどう見ても怒っていた……


(こ、怖い……)


「ルー……ルフェルウス様」


リスティ様が怒り顔の殿下に向けて心配そうに声をかける。そんなリスティ様の顔色も実は良くない。

殿下はリスティ様の頭を優しく撫でながら言った。

さっきまでの怒りな嘘のようにこの時だけは優しい笑みを浮かべる。


「大丈夫だ、リスティ。しかし三年前を思い出すな。あの時は君が糾弾されていたな」

「ええ……」


リスティ様が辛そうに目を伏せる。

どこかの男爵令嬢とやらがやらかした件を言っているのだと分かった。

殿下はリスティ様にだけ向けた優しい笑みを消すと一転して冷たい声で言い放つ。


「毎回毎回どこにでもいるものなのだな。愚かな奴と言うのは」

「っ! …………愚、か」


そう言ってイリーナ様を睨みつけた殿下の迫力にさすがのイリーナ様も震えた。


「まぁ、過去の事もあるしな。まさか……とは思ったとも。思ったが……なぜこのパーティーなんだろうな」

「……っ」

「わざわざ、謹慎にしておいて公にならない所で話をするつもりだったのに……反省の一つもせず、自らそれを壊すとは」

「わ、私はただエドワード様を! あの女から救おうと……」

「エドワードのあの告白を聞いていたならなぜ分からない? エドワードは君を全く愛してなどいないじゃないか! それどころか君から婚約者を庇って怪我まで負ったんだぞ!?」


殿下は会場の隅に移動して手当を受けているエドワード様を見ながら怒鳴る。


「さっき、どうして婚約者を庇ったかエドワードに聞いていたな? そんなの簡単な事だ。エドワードが婚約者を愛してるからだ。愛する人がどんな形だろうと傷つく所を見たい奴がいるわけないだろう!」

「……なっ」

「ケルニウス侯爵令嬢。周りを見てみろ」


殿下はそう言ってイリーナ様に周りを見渡すように言う。


「今、この状態に置かれているお前を誰一人として庇う者はいないようだぞ──そう。家族でさえも」

「……え?」

「どうやら、お前を愛してくれる奴はいないようだな」

「!?」


イリーナ様の顔が引き攣った。

そして、キョロキョロと辺りを見回す。自分に向けられているのは周囲からの軽蔑と白けた様な目。そこには憐れみも同情も一切無い。


「……お、お父様、お兄様! 私、」


そんな中で、ケルニウス侯爵家の面々を見つけたのか、イリーナ様は救いを求めるような声を出し手を伸ばしたけれど、当主の侯爵様はその場から一歩も動かずに言った。


「イリーナ。先程、殿下に願い出させてもらったよ」

「……何を、です?」

「イリーナ・ケルニウスを我が家から勘当する事だ」

「………………え?」

「これまでもお前は目に余る行動が多く、散々困らされて来た。いつかは改心すると信じて庇ってもいた……だが、もう無理だ」

「!?」


侯爵様のその言葉にイリーナ様の伸ばした手は、行き場を失い虚しく空中を彷徨う。


「お、お父様? 嘘でしょう?」

「お父様と呼ぶな。お前はもう娘では無い」

「お兄様……」

「私に妹はいない」


ケルニウス侯爵家の二人は容赦なくイリーナ様を切り捨てた。


「嘘……」


味方だと思っていた二人の言葉にイリーナ様が力なくその場に崩れ、その隙を衛兵が取り押さえる。

イリーナ様はさすがに今度はもう抵抗する様子を見せなかった。



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