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18. 脅迫




「お前……エドワードは私に二つの頼み事を持って来た」

「「二つ?」」


私とエドワード様の驚きの声が重なる。

まさか、王太子殿下相手に二つも頼み事をしているとは!


そうだ。と王太子殿下は頷く。


「まぁ、それは構わない。私はエドワードに借りがあるからな。それで、その頼みごとのまず一つ目なんだが……」


そこまで言いかけて殿下は私の方をチラッと見る。

そして、少し躊躇いがちに口を開いた。


「エドワードが君に説明していなかったようなのに、私が話をしてもいいものか……と思うが……記憶が無いなら仕方がない。まず一つ目は君だ……オプラス伯爵令嬢」

「わ、私ですか?」


突然の名指しに驚いた私は声がひっくり返る。


「エドワードの頼み事は、オプラス伯爵令嬢……君を守りたいから暫くの間、護衛を数人用意して欲しい、というものだった」

「……護衛ですか!?」


思わずエドワード様の顔を見る。

当たり前だけど、記憶の無いエドワード様も驚いたのか目を見開いたまま固まっている。


「エドワード様は……な、ぜ、私に、護衛……を?」


自分の声が震えているのが分かる。

だって、たかが伯爵令嬢の私が護衛をつけるだなんて尋常ではない。


「……“婚約者が付け狙われている可能性がある。自分一人ではどうしても守りきる事が出来ない”エドワードはそう言っていたが?」

「!」


あの手紙だ。イリーナ様がエドワード様に送り付けていた私の行動を監視していたような数々の記録。


(きっと、あの推測は間違ってない……)


「エドワード様は私が危害を与えられる事を心配して護衛をお願いした……という事でしょうか?」

「まぁ、そういう事だろうな」


(エドワード様……)


心配してそんな遠回しな事をするくらいなら、どうして言ってくれなかったの?

私が怖がると思ったから?


「オプラス伯爵令嬢。君は今、こう思っている。“どうして言ってくれなかったのか”と」

「……はい、その通りでございます」


私がそう答えると、王太子殿下はフッと笑った。


「全く同じ質問を私もしたよ。そんな影からこっそり守ろうとするより、本人や周囲に相談してもっと助けや協力を乞うべきだろう? と」


まさに今思った事をそのまま言われた。


「エドワード様は何と……?」

「……そう出来るのが一番良い事は分かっている。でも……出来ない。そう言っていた」

「え?」


(それは、相談したくても出来なかった……という事?)


どうやら、殿下もその具体的な理由を知らなそう──そう思った時だった。


「…………警告」

「え……?」

「エドワード!?」


エドワード様が突然、どこか虚ろな目でそう呟き始めた。

頭痛がするのか頭をおさえている。


「“ずっと待っていたのに……私を選ばなかった事が許せない……それならば、あなたの大切な人……大事な物……全てを奪ってあげますわ”…………」

「……? エドワード様何を? 大丈夫ですか?」


私は心配になってエドワード様に声をかけるけれど、エドワード様はさらに苦しそうにしながら言葉を続ける。


「──……そ、そうして孤独、に……なれば、あなた、は最後に私を選んでくれるで、しょう?」

「!?」

「こっちはいつでも、あなたの婚約者、を傷付けること……が出来ますわよ───」

「え? え? エドワード……さま?」


どうしよう。物凄く物騒な話になって来た。


「単なる脅しに過ぎない、そう思った、のに……その後、本当、にアリーチェ、が………………うっ」

「……! エドワード様!!」


言葉が弱々しくなったと思ったらエドワード様がさっきよりも痛そうに頭を抱えていた。


「……っ」

「エドワード様、もういいですから! お願いです……無理に思い出そうとなんてしないで!!」

「……アリーチェ」


私がそう言って抱き着くと、エドワード様が弱々しく私を抱き締め返す。

過去二回みたいに意識こそ失ってはいないようだけれど……かなり辛そうだ。


「オプラス伯爵令嬢! とりあえずエドワードを横にして休ませよう」

「は、はい! エドワード様、休んでください、ね?」

「……」


そう言って私達はエドワード様を無理やり寝かせた。





「……アリーチェ」

「私ならここにいますよ」


手をそっと握り安心して欲しくて微笑みかける。


「いつも……ごめん、アリーチェ」


エドワード様は弱々しく笑った。

元気はないけれど、少しは落ち着いたのかもしれない。先程よりは顔色が良くなっている。


「エドワードはよく倒れるのか?」


王太子殿下が心配そうに訊ねてくる。


「記憶喪失になってからは、三度目です。おそらくですが、記憶を取り戻そうとすると頭痛が酷くなるみたいです」

「そうなのか……もしかしたらエドワードは記憶を取り戻すのをどこか無意識で怖がっているのかもしれないな」

「……え?」


私は驚いて王太子殿下を見上げる。


「……俺が?」


エドワード様自身もその言葉に驚いたのかそう口にした。


「私の憶測でしかないがな」


王太子殿下は肩を竦めてそう言った。


「アリーチェ……」

「どうしました? エドワード様」

「記憶喪失前の俺は…………いや、何でもない」

「エドワード様……?」


何かを言いかけてやめてしまった。

気にはなるけれど、今は聞いても答えてくれない気がした。


(護衛をつけてまで私を守ろうとしていたエドワード様……)


さっきの言葉通りなら、自分の方こそ脅されていたのでしょうに。


──単なる脅しに過ぎない、そう思った、のに……その後、本当、にアリーチェ、が………………


エドワード様は先程、うなされながらそう言った。

そう言われて、時期的にも一つだけ思い当たる事がある。


(ただ、偶然に巻き込まれた事故だと思っていたのに)


いつぞやかのパーティーで令嬢同士が何やら喧嘩をしていた。激昂した片方の令嬢が喧嘩相手の令嬢を突き飛ばして階段から落下させようとした……たまたま近くにいた私はそれに巻き込まれ、一緒に落下した……なんて事があった。

私も突き落とされた令嬢も軽傷だったし、加害者令嬢は罪を問われて社交界から姿を消す事になった……


(あぁ……そう言えば、あの時お見舞いに来たエドワード様の様子はおかしかった)


その時はてっきり、怪我に動揺しているのだとばかり思っていたわ。

「軽傷ですよ」と笑って言ったのにずっと青白い顔をしていた。

そして、よくよく考えればその後だ。

怪我の治りと共にエドワード様の態度がおかしくなっていったのは……


(それとは引き換えにその後は、この間のイリーナ様の突撃を除けば危険な事には巻き込まれていない)


──それはエドワード様が付けてくれた護衛がいたから?


「そう言えば……何故、王太子殿下はエドワード様一個人の頼みを聞いて、私への護衛を用意してくれたのですか?」

「ん?」


もう一つの頼み事も気になるけれど、妙にそれが気になった。

何故、そんな肩入れするような事を?

エドワード様も気になったのか「確かに……」と小さく呟いた。


「あぁ、それは手紙にも書いたしさっきも言っただろう? 私はエドワードには借りがあるんだよ」

「「借りですか?」」


驚いた私とエドワード様の声がまた、重なった。



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