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16/30

16. 告白



「おはよう、アリーチェ」

「おはようございます、エドワード様」


本日、我が家まで私を迎えにやって来たエドワード様はどこかご機嫌な様子だ。

緊張とかないのかしら?


「今日は付き合わせてごめん」

「いいえ、私もやはり気になりますし……」

「うん、だよね」


エドワード様が少し申し訳なさそうに笑う。


「でも、アリーチェがいてくれて俺は心強い」

「大袈裟ですよ」

「……本当なのになぁ」


エドワード様がそう笑いながらそっと私に手を差し出す。


「アリーチェ、今日はありがとう。それじゃ、行こうか……王太子殿下に会いに」

「えぇ、そうね」


私はにっこり笑って、差し出されたその手を取った。




先日、エドワード様が倒れたあの日。

王太子殿下からエドワード様宛に届いた手紙。


あの時、エドワード様は自分が王太子殿下に“助けを求めた”のかもしれない。

そう言った。

だけど、本当のところは分からない。

だからエドワード様もあの後はそれ以上は何も言わなかった。


(頼み事とは? 護衛って何? 借り? 二人はどんな関係なの!?)


謎は深まるばかり。

とは言っても。

エドワード様が王太子殿下に接触した事は事実。

しかし、頼み事をした当の本人は記憶喪失のままだから、このままここで考えていても何も分からない。

それならいっそ、会いに行ってしまおう!


……そういう結論となった。


すぐに殿下に面会の許可を願い出て、数日待った。

そして本日ようやくその面会の許可が降りたのだった。



────……



「…………アリーチェ。また君を巻き込んでしまうけど、出来れば一緒に来てく」

「もちろん、一緒に行きますよ、私も」

「……!」


エドワード様が最後まで言い切る前に私は食い気味で答える。


「むしろ、連れて行って下さい。そうお願いしようと思っていました」

「アリーチェ……君は」


私はそっと横になったままのエドワード様の頬に手を触れてそっと撫でる。


「ア、アリーチェ!?」


エドワード様が焦った声を出す。

巻き込んでしまう? そんなのもう今更よ。


(だけどあなた何があったか知りたいの)


……婚約してから様子が変わってしまったエドワード様。

それは、時期から言ってもエドワード様の元にイリーナ様からの二度目の手紙……いえ、私の行動を追った記録が届いた頃と一致する。


──アリーチェ…………危険、俺、は……


手紙だけではイリーナ様との間に何があったのか分からない。

エドワード様は私も含めて誰にも何も話していなかった。

もちろん、どうして話してくれなかったの?

その気持ちはある。

……でも、本当は分かっているの。

多分、エドワード様はわざと隠して言わなかったんじゃない。おそらく言えなかったのだと。


(だって、私は見張られていた。そして、エドワード様は私に危険と言った。それはつまり、ただ見張られていただけではない事を指している気がする)


そんな中で今の記憶喪失のエドワード様が言うように、エドワード様はおそらくは秘密裏に王太子殿下に何かしらの助けを求めたのだと思う。

あの頃、頻繁に王宮に通っていたのは王太子殿下に面会を求めていたからなのかもしれない。


「ねぇ、エドワード様」

「うん?」

「エドワード様って大バカ者ですね」

「……え」

「だって何も話してくれなかったんですもの」

「……あ」

「仕方無かったのだろうとは……思いますけど」

「……うっ」


目の前のエドワード様が「大バカ……いや、否定はしないけど……でも」と、ショックを受けている。


でもね、そんな私も大バカ者なの。

こんな重大な隠し事をされても、あんなに素っ気無くされても……あなたを嫌いになれないのだから。



────……



そうして、本日王宮に向かう為の馬車に乗り込んだ───のだけど。



「エドワード様」

「どうしたの? アリーチェ」


えぇい! 何をそんなにきょとんとした顔をしているの!

私が何を言いたいのか分かっているでしょうに!


「……距離が近いです」

「気のせいだよ」


エドワード様がニッコリ笑ってそんな事を言う。


「なぜ、向かい合わせでなく隣に座られているのでしょう?」

「アリーチェを感じていたいから」

「かっ!?」


直球で来たその言葉に驚いて、私は一瞬で真っ赤になる。


「……はは。アリーチェは本当に可愛い」

「!!」


そう言ってエドワード様がそっと優しく私を抱き寄せる。

こうも、優しく扱われると、今は本当に本当に大事にされている、そう思う。


「アリーチェ」

「はい?」


エドワード様がじっと私を見つめる。そして、なぜかそんなエドワード様も頬が赤い。


「ど、どうされました?」

「アリーチェ。俺は君の事が好きだよ」

「!?」


心臓がばっくんと大きく跳ねた。

な、何でこのタイミングでそんな事を言うの?


エドワード様が私の腰に回していた手にグッと力を入れる、


「事故の後、目が覚めてアリーチェの笑顔を最初に見た時から可愛いなと思った」

「え、あ……」

「そんな可愛い子に毎日看病されて惚れないわけがない」

「惚れ……!? い……や、それは、どうですかね?」


何これ、ずるい! 直視出来ない! 恥ずかし過ぎる!!


「アリーチェ。目を逸らさないで?」

「うぅ……」


私はどうにかエドワード様を見ようと頑張って視線を向ける。

エドワード様は深刻な顔をしていた。


「……?」

「あの時、目が覚める前……俺はずっと悪夢を見ていた」

「え?」


また、とんでもない事を言い出した!


「すごくすごく大事なものを失くす夢。夢だからそれが何かはよく分からなかったんだけど」

「……」

「でもね、夢の中の俺は、自分が悪いんだ。だから仕方ないんだって何もかも諦めようとしていて」

「エドワード様……」

「でも、俺は何だかそれが嫌で嫌で」


そこまで言って言葉を切ったエドワード様が私を抱き締める。


「そんな訳のわからない不安を抱えたまま目が覚めて……自分の事も何もかも分からなくて本当に最初は……怖かった」

「……」

「目の前で俺を心配そうに見ていた人達が両親だと言われても、そうか……心配かけて申し訳なかったな……としか思わなかったのに」

「……」

「ただ無意味に日にちだけが過ぎていた中、あの日、アリーチェが目の前に現れた時、俺の世界に色が着いたんだ」

「色……ですか?」


エドワード様の腕に囲まれながらどうにか顔を上げて聞き直す。


「そう。“この子は俺の特別”なんだ。そう思った」

「え?」

「……記憶喪失前の俺の事は、正直、よく分からない。ごめん。でも、俺はアリーチェの事が好きだ」


そう口にしたエドワード様は、私の額にそっとキスをする。

もう、私の心臓は破裂寸前なのでは? というくらいバクバク鳴っていた。



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