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14. 再びの異変

 


「エドワード様……」

「アリーチェ、お前も休め。ずっと付きっきりだと疲れるだろ」

「大丈夫です。私はこのままエドワード様が目を覚ますまで絶対にお傍を離れません!」

 

 ベッドで眠るエドワード様の手を握った私は、お父様の休めという言葉にも頑として頷かなかった。


 再び倒れたエドワード様。

 お医者様は、とりあえず安静に。興奮もさせない方が良いでしょう。今はそれしか言えません、とだけ言って帰って行った。


(エドワード様……)

 

「アリーチェ。お前って奴は……その頑固さは誰に似たんだ」

「……」

「なぁ、アリーチェ」


 お父様が少し真剣な表情で、何かを訊ねてくる。


「何でしょう?」

「どうして、アリーチェはそんなにエドワード殿の事が好きなんだ?」

「はい?」

 

 思いもしなかった質問に目を丸くして驚く。


「理由は分からんが、エドワード殿はお前との婚約後から明らかに態度が変わっただろう? お前はそれでもめげずに一途に彼を想っていられる。何故だ?」

「……」


 お父様までそんな事を聞いてくるのね……私は、ふふっと小さく笑う。


「子供の頃の事です。エドワード様はバカだった私を助けてくれたのです。そして私を叱ってくれました」

「は? どういう意味だ?」

「……」


 きっかけなんて些細なこと。

 ほんの些細なその出来事からずっとエドワード様は私のヒーローなの。

 まぁ、エドワード様は私の事なんて、昔から単なる幼馴染としか思っていなかったでしょうけど。


「冷たくされても、素っ気無くされても本当は優しい人だって事も分かっていますし」

「アリーチェ……」


 ねぇ、エドワード様。

 あなたの記憶が戻ったら、きっとこの抱えてるモヤモヤや謎は全て明かされると思う。

 でも、やっぱり怖いの。

 今の私はもう、素っ気無いあなたに耐えられる気がしないのよ。だって昔みたいに優しくしてくれるあなたを知ってしまったから。

 それとも、今、記憶が戻ったなら今度はあなたに何があったのか話をしてくれる──?




「ア……リーチェ……」

「エドワード様!!」


 エドワード様が苦しそうな声……またうわ言のように私の名前を呼んでいる。

 私は更にギュッとその手を強く握る。

 そして薄ら目を開けたエドワード様。だけど、その顔色は……かなり良くない。


「……無事、か?」

「え?」

「アリーチェ、…………に、何も……されていな、い、か?」

「エドワード様?」


 ──何もされていない? 誰に? 何の話?


()()()()、わけ、じゃない、よな? ……大丈夫……なん、だよな?」


 ──脅された? 私が? エドワード様は何を言っているの?

 不吉な言葉の数々に私の心にも不穏が募っていく。


「俺のせい……で口に、しただけ、な、らいい、んだ……」

「っ! エドワード様、大丈夫ですか?」


 これ、もしかしてまた記憶が混乱している!?


「アリーチェの…………危険、俺、は……」

「え!?」


 えぇ!? ちょっと!? とても物騒な言葉が飛び出したわ!?


「…………」

「あ、エドワード様……!」


 エドワード様はそれだけ言ってまた眠ってしまった。


(何だったの今の……)


「アリーチェ」

「!」


 ポンッとお父様が私の肩に手を置く。


「今のエドワード殿の言葉は……」

「おそらく記憶が混乱していたのだと思うんですけど」

「だが、最後はお前が危険だと言っていなかったか?」

「……はい」


 エドワード様はいったい何を……? 危険って今のこの状態の事?

 それとも……?


「……っ!?」


 何だか嫌な予感がして背筋がゾクリとした。

 お父様を振り返ると、何だかすごく真剣な表情をして考え込んでいた。


「お父様……?」

「なぁ、アリーチェ。エドワード殿がお前への態度を変えた頃、何かいつもと変わった事は無かったか?」

「変わった事ですか?」


 そう言われても。

 私はうーんと考える。エドワード様の豹変ぶりにショックを受けていたから……あまり記憶が、無い。


「なら、聞き方を変えよう。エドワード殿はどうしていた?」

「エドワード様が?」

「お前はしょっちゅう彼に会いに行っていたな。どこに彼はいたんだ?」

「あーそれなら……王宮ですね」

「王宮?」


 お父様が怪訝そうな顔をした。


「言われてみれば態度が変わった頃からよく行くようになったかも……最初は何か調べ物をしていたのかよく図書館に行っていましたよ。その後は人と会ったり?」

「調べ物……」


(追いかけて行ったら、こんな所まで来たのか……ってため息つかれたっけ)


 そうそう。差し入れの時、冷たくあしらわれたのも思い出した。

 あれは王宮まで追いかけた時だった。


「なぁ、ところでアリーチェ。記憶している限り、エドワード殿に会いに行った後のお前が一人で帰宅したことは無かったと思うんだが……」

「あれはエドワード様がいつも素っ気無いながらも、ちゃんと送ってくれていたからですよ。私が馬車の中で必死に話しかけても「あぁ……」しか言ってくれませんでしたけど」

「毎回か?」

「自分で送れない時も必ず誰か人をつけてくれました」

「……」


 お父様は更に深刻な表情をして何かを考え込んでいる。

 そこでようやく気付いた。

 もしかして、さっきエドワード様がうわ言で言った“私の危険”と関係ある……?


「……お父様、もしかして私……知らない間に何か危険にさらされていたのかしら?」

「かもしれん」

「エドワード様……それなら、どうして言ってくれなかったの」


 もし、本当に何か危険な事があるなら言ってくれないと。

 何故、黙っていたの?


「アリーチェ。実はさっきお前達が読んでいたエドワード殿が侯爵令嬢から送られた、という手紙の内容を聞いていて一つ思った事がある」

「え?」

「こういうのは意外と当事者(ほんにん)は気付かないものなのかもしれん」

「?」


 お父様は何を言いたいの?


「気付かないか? アリーチェ。あの手紙に書かれていたあの店……カフェのフルーツタルトもチーズケーキもお前はそれらを食べに行った日、“やっと食べれたの”とはしゃいで喜んでいたな」

「え? そう言えば……」

「雑貨屋の髪留め、お前も持っているな?」

「あの雑貨屋にはよく行くから自分でも買ったり、お父様に強請って買って貰ったり……え?」

「イヤリングも買ってくれと強請られた事があるな」

「……」


 ───まさか!

 私はハッとする。


「アリーチェ。あの手紙の内容はエドワード殿と侯爵令嬢のデートの話なんかじゃない。あれは……侯爵令嬢から見たお前の行動記録だったんじゃないか?」

「…………!」


 お父様のその言葉に私はヒュッと息を呑んだ。



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