29_盗賊 油断が招いた結果
村を一泊し、早朝にその村の村長に冒険者ギルドの依頼物を村長に渡す。御者の方も次の村に向かう兼ね合いもあり、ディープたちはすぐに荷車に乗った。村の人たちに感謝されながら、その村から次の村へと向かった。
ジャクダに引かれた荷車で、ディープとシユウは特段話もせず、流れゆく景色を眺めていた。警戒をしながらも昨日の出来事に少しばかり心に堪えていたというのもあった。
あたりは木々が次第に生い茂り、今までいた殺風景な荒野のような景色とは変わっていった。また段々と山を登っていき、振り返ると遠くに村や町が見えた。御者からあと少しで着く予定だ、と二人は声を掛けられ、何事もなければいいと思うのだった。
だが、それは御者から行く先の所から妙な煙が上がってると言われ状況は変わった。
ディープとシユウは先行することにし、村へ向かった。盗賊に襲われているのが遠目でもわかり、村から逃げようとしている人を後ろから斬りかかる者や強奪したものを一か所に集めていたリとしているのが見えてきたのだった。
「シユウ、蹴散らすぞ」
ディープは盗賊という存在に対し、嫌悪感を強めていたのもあり、口調も強めだった。
村に接近していくにつれ、盗賊たちはディープとシユウの事に気づいていった。ディープの方が早く着き、武器を構えていた盗賊を武器もろとも両断する。切っ先は綺麗に首を切断し、振り向いた後に剣を構えなおす。
舌打ちをする盗賊や助けてという声の村の人の声が入り混じる中で、ディープは冷静になれなかった。目につく盗賊に向かい、剣を振るうのだった。どの相手もディープにとっては弱く、村を襲っている盗賊たちを退けるのには時間がかからなかった。
シユウも盗賊と戦っており、ディープは少しばかり冷静になり彼が人を殺せるのか、という疑問を持っていた。
元より彼が持っている錫杖は殺傷武器ではない、そのため打撃による殴殺になる。だが、あの子どもの身体で可能なのか、というのを思い出し、彼の方を見た。
するとそれは杞憂であり、シユウの周りにはくの字で倒れている盗賊が多く散乱していた。どれもまるで息をしていないように見え、持っている武器も砕けていたリしていた。
相手は二人だけと高を括っていた盗賊も次第に挑まなくなり、村から逃げていった。村に残っている盗賊がいないかディープとシユウは身回りながら、その惨状が目に焼き付いていった。
「くそ……」
ディープは焼けただれた家、斬り殺された村の人、破壊された様々な物を見てつぶやいた。異世界に来てからはじめて見る惨状だった。横たわってる死体には農具をもって戦ったと思われる形跡や子どもを守ろうとし、身を挺したが諸共殺された死体もあった。
「先輩……大丈夫ですか?」
シユウに声をかけられ、ディープ自身が嫌な感情の中に引き込まれている事に気づき、心を落ち着かせようとした。
「シユウは大丈夫か」
「ボクは強いので、大丈夫です。先輩」
「いやそうだとしても、何が起きるかわからないだろう」
「心配無用です」
いさめようと思って口に出したが言っても聞かずで、ディープはその前向きさに仕方ないかと諦めたのだった。
何名か死者が出ている中で、村の人たちでケガしてる人を回復する事にしたシユウ。その回復の術を見たディープは、その回復の術に疑問を抱くようになった。
(まるで元通りになっている……どういう術なんだ?)
「シユウ、その回復の術ってどういう術なんだ?」
「さぁ、これが普通なんじゃないですか?」
シユウに聞いても比較対象がないため、ディープに対しての回答は臨んだものとは違った返答だった。
一通り、村の中で助けられる人を回復させたシユウはぐったりと疲れていた。村の人に部屋を借り、シユウをそこで休ませるとディープは村の人たちに何があったのか改めて聞くことにした。
彼らの話を聞くとディープは予想した通り、突然襲い略奪してきたという事だった。
(だが、どうしてこの村なんだ……? 定期連絡がある村に盗賊たちが襲う事はほとんどない。町から兵が派遣されるはず……)
定期連絡がある村は国と町が資金を投下し、開拓していく為、何かあった場合は兵を率いて対処する。そういった事をするからこそ、盗賊は襲わない。村を一時的に襲った場合、リスクが高いからだ。
ディープは考えてみたが、答えが出なかった。村長はすでに殺されており、代理で村を治める事になった者に依頼書を確認してもらった。
ディープは、今後の動きについて考えていた。残って御者に盗賊が出たことを伝えるように言うか、それとも一緒に戻るか、借りた部屋で寝台に座って考え込んだが答えは出なかった。
気づくと横になって寝ており、きな臭さから目を覚ます。
あたりは業火に包まれ、意識が覚醒し、部屋の外に出る。廊下は火の海となっており、窓を突き破って出るしかなかった。
呼吸がうまく出来ない中で、窓の外に身を投げ出すと倒れている村人たちが目に入った。そして、死体に槍や剣を突き刺し、高らかに笑い声を上げている盗賊たちがいた。
激情に駆られそうになるが、シユウの事が頭によぎった。すぐにシユウがいる部屋に移動し、外側から中を覗くと寝ている状態だった。ディープは窓を壊し、部屋の中にいるシユウの元に駆け寄り、起こそうと揺するもののぐったりとした状態だった。
「くっ……!」
ディープはシユウを背負い、窓の外に放り投げ立てかけてあった錫杖を手にしようとするがすり抜けてしまうのだった。
「な、なに!?」
シユウがいた部屋のドアが爆発し、火の手が部屋に迫り、ディープはやむを得ず窓から外に出た。すると盗賊たちはディープに気づいたのか、ジトリと遠目から観察し、薄ら笑いをしていた。ディープはすぐにでも倒しに掛かろうかと思ったが、シユウを置いてはいけず、歯噛みした。
盗賊たちは満足したのか、ディープから離れていき、村から消えていった。
残ったのは、燃え続ける村の家や畑、死体が焼ける臭いが入り混じった夜闇の静けさだった。




