28_駆け出し依頼 連絡係として
シユウがケガをしている人たちを見て回っている中で、脅威が去ったのかディープも念のため村の中を回った。ジャッカルナイフの気配はなく、逃げた個体も存在するのだと村の惨状を見ながら感じていた。
村の人たちによって倒されたジャッカルナイフの死体があったり、戦いで負傷した村の人が座り込んでいたり、来るのが遅かったらとディープは想像してしまっていた。
「お、あんたは通りかかった冒険者か? ありがとうよ、助かったよ」
「あ、ああ」
「おいおい、お前さんが来てくれなかったら全滅だったんだ。誇ってくれよ」
左腕を噛まれ、止血中の村の人が痛みを我慢した表情をしながらディープを気遣っていた。
「ボクの仲間が回復の術を使えるから見てもらったらいい」
「そうかい、そいつは助かる」
ディープは村の中を回りながら、致命的な状態になった人はいないか探すのだった。
そんな時、遠くから叫ぶような声が聞こえた。何事かと思い、ディープは声がする方へと走っていった。もしかしたら自分が気づかなかっただけでまだジャッカルナイフが居たのかと思うのだった。
「なんで、なんでもっと早く来てくれなかったんだよ……なんで!!」
そこには少年が泣きながら、死体となったら身内と思われる者にしがみつきながらシユウと睨みつけていた。
「兄ちゃんが!! どうして!!」
シユウは項垂れていて、口をつぐんでいた。握りしめられた錫》が小刻みに震えていた。
泣き叫ぶ子どもの声が、響き渡り、駆け付けた大人たちが泣いている子をなだめた。
「先輩、ボク……」
「わかってる、何も言うな」
ディープはシユウの肩に手を置き、その場から離れるように誘導した。
泣き声だけが耳に残った二人は、さっきまでの戦っていた高揚はどこかいってしまっていた。
「ボクたち、来るのが遅かったのかな」
シユウは項垂れたまま、ぼそりとつぶやいた。ディープは顔を見なくてもその表情は暗く、何か後悔をしているのだろうと感じていた。今自分が出来ることは、先輩としてなんだろうと思った時に、自然と身体が動いていた。
彼と目線を合わせるように片膝を立ててしゃがみ、目を合わせた。後悔をしている目をしているのが見え、それを見透かされた事に気まずさを覚えている表情をしていた。
「ボクたちはよくやった、ここにジャッカルナイフが襲う計画を阻止する依頼じゃない。たまたま運よく、助けられる人を助けられた、そういうことだ。な?」
「わ、わかった」
シユウは頷くものの、感情的な部分で納得していない、飲み込めていないようにディープは感じ取っていた。だが、それに対して何か言葉をかけた所で、向き合うのは時間が必要だったり、自分自身との対話だと知っていた。そのため、そのあとは何も言葉を出さなかった。
「さ、他にケガしてる人がいないか一緒に回ろう。治せるんだろ?」
「ま、まあな。楽勝さ」
ディープとシユウは一緒に村を周り、ケガをしている人を回復の術で癒していった。ディープはその回復の術が錫杖による力によって発動しているものだと知るのだった。
「なぁその杖、不思議な力でもあるのか?」
シユウはあまり探られるのが嫌なのか、ジトリとディープの方を睨むのだった。
「いや、悪い。言いたくないのならいい。ボクが知ってる回復の術とはちょっと違うような感じがして、それで気になっただけなんだ」
ディープはシユウに対して謝る。冒険者同士は基本的に互いの装備、スキルなどには踏み込まない。パーティを組む間柄だとしても奥の手や切り札は他者には言わないのが普通である。だが、ディープはまだこの堕界に来て間もないのもあり、その感覚がズレていたのだった。
「この武具、八極天剣の力です。ボクにしか使えない、らしいのですがボクもまだよくわかってない事が多くて、その……」
「そうか、いや、ありがとう」
互いに考えていたことがすれ違っていたのだった。
村を周り、ケガしている人を回復の術で癒しているとすっかり日が暮れかけていた。その日はその村に泊まることとなり、夜を明かす事になった。簡素なベッドが二つある部屋で二人は休んだのだった。今日あった出来事の事を思い返しつつ、明日向かう別の村でも同じようなことがない事を祈っていた。




