27_お節介焼き 冒険者として
この堕界に来てから知ったことをシユウに説明していくことにした。冒険者の依頼の事、クレジット、結界石、遺跡と遺物、盗賊がやたら多いという事。
「まるでゲームのような感じですね」
「ゲーム、か……シユウがいた世界ではどういうゲームがあるんだ?」
ディープがいた聖界でもゲームは存在していた。電子端末機器から出力された疑似映像に写る仮想現実世界で遊ぶものだった。それがはたしてシユウと同一のものか、あるいは類似したものなのか、気になった。だが、同じ異世界から飛ばされた来たとは考えにくかった。
着ている服が見慣れないものであるのと、持っている大きな杖は確かに知っている錫杖に似ているものの、どこか別世界の物のように感じたからだった。
「うーん、ボクが好きなのはアクションRPGとかサードパーソンでやれるゲームとかですね」
ディープは彼が言っている内容はどことなく想像がつくような言葉だった。もしかしたら、同じ技術水準の異世界かもしれないと思うのだった。
「よし、それじゃ冒険者として登録して、簡単な依頼をまずは請けてみよう。チュートリアルだ、わかるだろ?」
シユウは頷き、席を立った。ディープもそれに付き添うように立ち、冒険者ギルドのカウンターへ向かった。
「この玉に手をかざせばいいんですか?」
「ああ、それで冒険者登録ができる」
受付の人に説明を聞いて、シユウは球体型の端末に手をかざし登録を済ませた。冒険者カードが発行され、手渡されたのだった。それを感動した様子でシユウは眺めていた。ディープは依頼書が張られている掲示板にシユウを連れて行き、そこに貼られている依頼書から一枚剥がした。
「まずはこれをやろう。この町からそんなに離れていない村を回って、物品を届ける依頼だ」
シユウは地味な依頼だなという顔をしていた。
「ボヤくなよ? ネズミ退治の方がよかったか?」
「いや、それでいい」
町からそんなに離れていない村といっても、歩くと数日かかる。そのため、乗り合いのジャクダが引く荷車に乗せてもらい移動する。依頼物は書類であり、その村の長宛の書類が大半だ。どれも盗まれるような価値はなく、冒険者による巡回が目的だったりする。
村に冒険者が足を運ぶ事で盗賊のけん制に繋がり、治安を維持できるという依頼でもある。依頼料も駆け出し冒険者にとっては程よいクレジットになる。また、村で追加の依頼が発生することもあり、駆け出しには顔も売れるし、丁度いい依頼である。
ディープはこのあたり、エナとノインが緊急依頼に行っている間に学んだのだった。
一通りちょっとした旅の準備をし、乗り合いの時間にシユウと共に向かい、荷車に乗り込む。
「なぁ、どのくらいで着くんだ?」
「半日くらい」
「まじか」
「とはいえ、移動中にモンスターが襲ってきたりするかもしれないから、その時は着くのが遅くなる」
「モンスターか、ワクワクする」
シユウの言葉に、ディープはこの世界に転移させられた時の事を思い出し、あの時のビレッジキラーベアはモンスターとしてあっけなかった。この前戦ったジャッカルナイフも集団で襲ってきたとはいえ対処できていた。
(この世界のモンスターはそこまで強くない? いや、単純に自分がこの堕界では強くなっている、という事なのか?)
ディープは自分の実力というものを正しく理解していなかった。エナとノインも同じような実力であるため、麻痺をしていた事に気づいたのだ。シユウはどうなのだろうか、という疑問もあった。
「シユウは今までモンスターと戦った事はあるのか?」
「あるよ。たくさんの蟻のモンスター」
「へぇ、どのくらい大きいんだ? この荷車くらいかなぁ……」
「本当か?」
「まじ、でも一人じゃないよ。一緒に戦って狩りつくした、って感じかな」
「ふぅ~ん」
蟻型のモンスターはこの地域では聞いた事がなかったので、どういうものかいまいち想像ができないディープだった。
+
順調に村に到着したが、様子がおかしくモンスターが村の中で興奮していた。村の周りにある柵をぶち破って入ってきたのか、それともどこか隙間から入ったのか、多数のジャッカルナイフがうろついていたり、建物のドアを前足でがりがりとひっかいていた。
「シユウ、いけるか?」
ディープはシユウの実力を知らない。だが、荷車の大きさくらいの蟻のモンスターと戦った事があるのなら、いけるだろうと思った。
ジャクダを操っている御者は、荷車を止めディープたちにモンスターの退治を促した。
「もちろん、いけます」
ディープとシユウは荷車から降り、ジャッカルナイフがいる村へ向かった。
外からの侵入者に気づいたジャッカルナイフらが、ディープとシユウに襲い掛かる。ディープはすでに抜剣しており、襲ってくるジャッカルナイフを剣で薙ぎ払う。キャインという鳴き声と共に一匹屠られる。
シユウが持つ大きな杖によって、飛び掛かってきたジャッカルナイフをそのまま地面に叩きつけ、モンスターをぺしゃんこにした。見た目以上の怪力さがあり、ディープは子どもと同じ扱いではいけないと感じたのだった。
ジャッカルナイフたちの討滅は半刻もしない内に完了し、ディープはシユウの強さについて驚きを感じていた。まるでモンスター退治を今までしてきたかのような動きだったからだ。
(蟻のモンスターをどのくらい相手にしていたかわからないが、優秀な異世界人というわけか)
「よくやったなシユウ。さすがだ」
「ふん、楽勝だよ。あ、ケガしている人がいたら回復させてくる」
シユウはその場から走って、誰かケガしている人はいないか聞きまわっていた。
ディープはシユウの行動が模範的な冒険者であることに、すごいなと思うのだった。




