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26_異世界からの少年 大きな杖を持つヒーラー

 冒険者活動をはじめて数日、嫌なヤツに絡まれたりすることもなく順調な冒険者業をしていた。特定のモンスターの間引き、指定された植物の採取、依頼を請け負っていた。町からあまり離れずエナとノインが戻ってくるまでは、依頼の堅実にこの世界の事を知っていこうとしていた。

 

 今日も朝から冒険者ギルドに行き、町の周辺でやれそうな定常的な依頼があるか、目新しい依頼があるか依頼書が張られている掲示板を眺めていた。

 他の冒険者も多く存在し、見知った者が多く、互いに会釈するくらいの顔もい知りになっていた。ガラの悪い冒険者も存在するが、そういうのとは関わりはなかった。エナとノインの仲間、という事で線を引かれていた。

 

 依頼書を眺めていると冒険者ギルドの建物に身なりがいい子どもが大きな杖をシャンシャンとならしながら入って来た。その音はディープにとって、どこか懐かしいような感じがし、入口の方を見るには充分な理由だった。

 

 ディープがその子どもを見た時の第一印象は、生意気そうだった。背伸びをしているのか身の丈にあってない大きな杖と白を基調とした黒のラインが入ったロングコートが場違い感を出していた。歳は十四歳くらいだろうか、と思いながら眺めていた。

 

「おい、坊主。おめぇのガキが来るような場所じゃねぇぜ。けぇんな」

 

 ガラの悪い冒険者の一人に、その子どもは絡まれていた。

 そう言われるのも彼がとった対応がよくなかった、というのもある。

 こういったギルドの受付というのは、最低限のやり取りが可能な相手じゃないと依頼をする側から信頼と信用に関わってくる。信頼と信用が損なわれるとギルドに依頼が来なくなる。依頼さえ達成すればいい、と考えている冒険者は少なからずいる。金を持ってる子どもが装備だけ固めて冒険者ギルドに来た、あるいは貴族の子どもが来た、というあたりだとしても、ガラの悪い冒険者が脅すのだ。

 

 ガラが悪い冒険者がいるのは、勘違いしたヤツを追い払っているからだ。彼らは冒険者ギルドから正式に依頼を請け、追い払っている。理由としては盗賊などを相手にした場合、物怖じしないでいられるかどうかというものだ。

 

 またこういった初心者のような冒険者は一度絡まれて、そこから先輩冒険者が間に入り、仲を取り持ち面倒を見るといった事があるのだった。

 

 だが、今回ばかりは違う。

 

 最低限を知らないガキがここに来るのはまだ早い、だから諭されていた。

「ふん、うるさい」

「なんだと、クソガキ」

「やるのか? 死ぬぞ」

「あぁん!?」

 険悪な雰囲気になり、諭そうとした冒険者は立ち上がりその子どもに威嚇する。殺気地味なものが互いに流れていた。

 シャンシャンとなる大きな杖を構えると何か嫌な予感がディープは感じ取り、二人の冒険者の合間に立って両手を広げながら止めに入っていた。

 

「ま、ま、ここだとちょっと、ボクが言い聞かせます。先輩が出るまでもないですって」

 毒気を抜かれたのか、その冒険者は舌打ちしながら座っていた席に戻り、パーティメンバーから小突かれたり、軽口を叩かれていた。

 ディープはその小さな子どもと目線を合わせるようにしゃがみ、なんと言うか迷いながらも声をかけた。

「君はどこから来たんだ?」

「あんな奴、瞬殺だったけど」

 生意気な口調で、自身の力を誇示していた。

 

「そうかもしれないね、それでどうしたかったんだ?」

「え、別に」

「だったら、そう短気になることはないよ」

「うるさいな、説教?」

 シャンと大きな杖が鳴る。

「ははっ、まあ、お節介だったな。ところで君はどこから来たんだ?」


 ディープは目の前にいる子どもが持っている大きな杖、着ている装備はどことなく聖界で見かける、少なくともこの世界では見ないデザインだった。

(そうだ思い出した、|錫杖<しゃくじょう>と呼ばれる杖で、僧侶が持つ武具だ。この地域では僧侶は見かけたことがない。寺院のようなものはあるが、この杖のようなものは見た事はない)


「……わからない」

 

 ディープはまさかの答えに、既視感を持たざるを得なかった。

 

(まさか、この子どもも異世界から転移してきたのか……?)

 

+

 

 椅子を促し、互いにテーブル越しに改めて自己紹介をした。

「シユウ、一応ヒーラーだ。ほかにもいろいろ出来る」

 シユウと名乗った少年は自分の事をヒーラーだというが……ヒーラーらしさはディープには感じ取れなかった。そもそもヒーラーという言葉がどこか現実離れを感じていた。

 どこか懐かしいような服装に感じた。

 同じ異世界なのではないか、いやわからないから聞いてみようとディープは思った。

「ボクはディープ、冒険者で剣を使ってる。それでシユウはどこから来たかわからないっておいうのは……?」

「さっきまでいた場所は、こういう建物とかなかったんだ」

「えーっと、その前は?」

「普通に家に居たけど?」

 話が通じない。

「気が付いたらここにいたんだよ」


 堕界、それは様々な異世界人が堕ちてくる世界。だから堕界ということを改めてディープは実感する。

 

「まあ、どこだっていい。大丈夫だし」

「もしかして、いろんな異世界に転々としてるのか?」

 まさかそんなはずはないだろうと思いたかった言葉をディープは口にした。どこか場慣れしている、そう感じさせる落ち着きだったからだ。

「うん、そうだと思う。元いた世界はこんな世界はファンタジーやSFだとかの世界だし、夢か何かだと思って楽しんでるけど」

「な、なるほど」

 ディープはあっけらかんと今の状況にも留めないのを見て驚いた。

(ファンタジーやエスエフ……言葉の意味がわからないが、あり得ない場所に一人でいる、という事には違いないか)

 どうやらこの子どもは迷子らしい。気が付いたらここにいた、というわけだった。元の世界のことを聞いても要領を得ない。

 

 ディープは自分とは違い帰る当てがない子どもを見て気の毒に思った。ただ、着ている服や持っている装備からその世界も危険じゃないのかと思い、聞いてみる事にした。

 

「その杖と服は随分高価そうだけど、どうしたんだ?」

「ここに来た時には持っていたけれど、なんか変なのか?」

 本人曰く、この世界に来た時に持っていたというのだった。


 そして、どうやら異世界を満喫しているように見えた。


「親は心配しないのか?」

「しないね、仕事で忙しいから気にも留めてない」

 ディープは自分がこの世界に来た時とは正反対な思考回路がどこか苦手で、距離を置いた方がいいかと感じてしまう。

「そういうディープさんは、この世界の人ですか? 見た感じそうは見えないけど」

「いや、ボクもこの世界にちょっと前に来たばかりだよ」

「え、それじゃあボクと一緒だ! でもそうしたら、ボクよりも先に着ていたから先輩ってことになるか……ディープ先輩、いろいろ教えてくれますよね?」


 途端にグイグイと来るようになり、少しだけ面倒だなと思ってしまうのだった。

 ディープはエナとノインに助けてもらった手前、自分は他の人を助けないという選択肢がなく、しぶしぶではあったが、面倒を見るという事にしたのだった。競合しない場合、冒険者同士は基本助け合うと思っていたからだ。


「わかった、その代わり実力見せてもらうよ」

「任せてください、先輩」

「ところで異世界についてどれくらい知識ある?」


 ディープはシユウに基本的な異世界について話を聞くことにした。自身の異世界についての知識もエナとノインからしてみればズレがあったのを思い出し、早めにその認識のズレを知っておいた方がよかったからだ。

 ちょっとの間だけなら、面倒を見るのはいいだろうと思った。それに先輩と呼ばれて悪くない気持ちだった。


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