19_快適な移動の先に
商人たちのキャラバン隊を編成し、冒険者たちがそれに相乗りするような形でディープたちもマザカに向かった。盗賊に襲われない為に商人たちがキャラバン隊を編成している。
冒険者たちにも恩恵があり、移動時に徒歩ではなくジャクダたちが率いる荷車に乗せてもらう事で移動時間の短縮が出来る。国からの兵士が何名か派遣もされているのもあり安全に移動が出来るのもあり、モンスターに襲われたりしないため、相乗りする人も多い。
たとえモンスターが襲ってきたとしても、大抵返り討ちにするので安全なのだ。
ディープたちがいたキングスペイから七日程の距離にあるマザカという町に向かった。道中、キングスペイのような場所があり、そこで野営しながらの行程だった。
キャラバン隊を襲うような盗賊たちは基本的にいない為、何も事件のような事は起きずにマザカに到着したのだった。
マザカには壁があり、まるで城塞町といっても過言ではなかった。立地は山々に囲まれた平坦な土地だが、突起した鋭利な岩山が突き出ていたリする特徴的な土地である。元は商人たちが山越えする際に休憩場所として活用していたが、次第に行きかう人の数が増え、町へと発展していった。昔は盗賊やモンスターに襲われることが多かったため、城壁が築かれていき、城塞町となった経緯があった。
ただ城壁そのものが町全体を覆っているわけでもないため、外よりの場所はそれなりに危険である事には変わりはない。
マザカの町に入ったディープたちは荷車から降りた。
「ここにもあの結界石があるよな?」
「なんだ? ビビッてるのか?」
「慣れれば気にならンだろ」
「ノインは見えてないだろ?」
ディープはノインをじとりと睨む。
「ああ、だから気にならンな」
貿易待合所キングスペイで結界石に触れ、その地域における冒険者としてのランクを確かめたのだった。結界石はギルドにある端末から発行された冒険者カードと連動して、その結界石がある地域の中で貢献度ランクを表示する機能も持っている。
ディープたちが護衛任務で盗賊を倒した事など、どのくらい貢献したのか確かめたのだった。その時にディープはどうにも結界石から凝視されているような感じがし、ビビっていたのだった。青い球体でまるで眼のようにじーっとどの角度からも見つめてくるような結界石だったからだ。
「さて、まずは冒険者ギルドに行って、報告だな」
ノインが話を終わらせると互いに肩をすくめ、エナを先頭に冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの場所は都市の中心部の結界石が設置されている場所と近いところにある。大きな広場になっており、待ち合わせ場所にも使われていたりする。屋台などもあり、昼夜問わずにぎわっている。
それなりに大きい町であるため、ギルド建物は大きく、中は広く昼間であっても冒険者が多くいた。ディープたちは受付に行き、冒険者カードを提示した。特段目立った報告がないものの、冒険者ギルドの宝玉型の端末と交信を行った。活動しているという更新の意味合いもあったのだった。
受付の人から当たり障りのない事を聞かれ、エナがそれに対して報告をし、何事もなく終わる。その後、ギルド建物から外に出て、数分歩いた先に直径十数メートルの球体の結界石があるところに向かった。
広場周りには、多くの冒険者や商人などがベンチに座っていたり、屋台を出していたりしていた。ディープは様々な種族がいることを改めて知り、自分がいた世界にいる種族がいないか自然に探していた。しかし、身体的特徴が額に第三の眼がある者などいなかった。
(いたとしても、それが聖界人かは別かもしれない、か……)
ディープたちは、結界石に触れこの町周辺の自身のランクを確認する。
「前回よりランク上がった」
「自分もだ」
「ランク……」
ディープは貿易待合所キングスペイの時に表示されていた数値に対して興味を持てなかった。だが、エナとノインから、少しだけ気になったのだった。
(そういえば、ボクはこの地域のランクは八十か……)
ランク、冒険者ギルドの宝玉型の端末と結界石は連動しており、その地域における貢献度からポイントが加算されていく。ポイントの査定は解明されておらず、ランクも地域によって変動していく。ディープはこの地域は八十と表記され、数値が少ないほど貢献度が高い。そのため、ディープは低い方に入る。
「エナはなんだったんだ?」
「お、聞いちゃう?」
「ちなみに自分は三なンだなぁ」
「はぁ、くそっ……オレは十だ」
ノインは口元をニヤリとし、胸を張っていた。
「ディープは、まだこの地域で活動してないし、百前後?」
「ボクは八十だったよ。ていうか二人は結構上位ランクだったのは驚きだよ。すごいな」
二人は良い笑顔をしていた。
「あ、エナさん、ノインさん。こちらに戻ってこられましたか」
ディープの後ろから声がし、振り返るとそこには耳が横に長く、眼鏡をかけている男がいた。第一印象からして、何か胡散臭く感じていた。耳が長い種族はその耳を隠すようにしているのに、堂々としている事から警戒した方がいいと感じたのもあった。
+
ディープたちはオープンカフェに入り、適当に注文をし、外の席でそれぞれが腰掛けた。
エナはその男に対して、噂があった場所に遺跡があるのか確かめた事を語り始めた。
「――というわけで、無かったんだ」
「エナさん、ノインさん、ありがとうございます。遺跡は探索し、この期間は発見できず、ですね」
「ああ、見当たらなかった。モンスターの縄張り争いの跡も警戒具合も特に変わらなかった」
遺跡が突然出現した場合、その区域に存在する動物やモンスターは過敏に反応し、普段とは違う行動に出る。そのため、エナとノインはその動向から遺跡が出現したかどうか判断し行動している。見知らぬ土地であっても、動物やモンスターの生態には一定の法則があり、その知識を二人は持ち合わせていた。
「ありがとうございます。もしかしたらまだ時期じゃないのかもしれないです、ね」
ズレていたメガネを人差し指と中指で元の位置に戻しながら、満足そうに笑みを浮かべていた。
「ところで同席してるこの方、は?」
ディープは自分へ話しかけられるとは思わなかったが、特に紹介し合ってなかった事を思い出し、自己紹介をした。
「ディープ、冒険者をしている」
「ああ、やはり君がディープ・ストライカーさん、か」
ディープにとって寒気とまではいかないが感じのいい視線ではなかった。ぼそりぼそりと興味深いと呟いているのもあり、それが余計に気持ち悪さを感じさせていた。
「はじめまして、ドクエクトル・ウッドストック、だ。情報収集ギルド、データベーサーに所属、している。よろしく」
「はじめまして、よろしく」
「なんでも聖界に通じる門、異世界の門を探してるんだって、ね」
口元に笑みを浮かべているものの、目は笑っておらず、それが値踏みするようないやらしさがあった。そのことに気づいているのは、エナとノインだったが口には出さず二人のやり取りを見守っていた。
(こいつ、知っていてそういう態度なのか)
ディープの中に不信感と不快感があった。