18_今後の事の話し合い デュラアーとクアクーラ編
貿易待合所キングスペイの内部、空き家となっている建物で三人は話をしていた。焚火に当たりながら、各々が違和感のないように装い、情報共有をしていたのだった。
デュラアーは、クアクーラと共に護衛を隠れ蓑にした諜報活動をしていた。
「死の剣のエナ、盲明のノイン……二つ名通りの強さを持ち合わせていたな」
クアクーラは無表情に頷く。
名が知れた冒険者などは二つ名がつくようになる。自ら名乗るようになったりする者もいるが大抵噂になり、その戦いぶりなどから異名がつけられる。
エナは剣を帯剣していない事から剣を出され戦闘になったら必ず死ぬと噂された事から「死の剣」と呼ばれ、ノインは当人は盲目と自称しているが見えている者と変わらない為、「盲明」と呼ばれいた。どちらもトレジャーハンターとして成功している冒険者であった。
「ディープ・ストライカー、こいつは突然現れた、そうだな?」
「ああ、仲間の何人かやられたから、どこから来たのか調査したんだがパッと現れた以外の痕跡がなかった」
腕にクワガタ型の昆虫を這わせている盗賊であるジャンは答える。彼はディープ、エナ、ノインを襲った盗賊の一人で虫をテイムして戦っていた盗賊である。苦々しい表情をし、仲間を殺された嫌な記憶が表情に浮き出ていた。
「ジャンの見立てはどうだ? 奴は異世界人か?」
「可能性はあるな、見知らぬ術を使った形跡があった。いや、形跡を消した、と言った方が正しいな」
「ほぅ?」
「仲間を殺した際に耳を剥いだんだが、どうやったのか臭いがプッツリと消えていた。虫で追おうにも臭いが残っていなかった、剣に血もついていたはずなんだが、それも消えていた」
「今はどうなんだ?」
「今は問題ないが、追跡中だ」
「そのまま追跡を続行しろ」
焚火を見ながら次第に目つきが強い憎しみを帯びたものへと変わっていく。それはデュラアーだけではなくクアクーラも同じだった。
虫使いの盗賊ジャンは身震いは二人とは違い、冷めた目をしていた。
「彼らが向かう先は東の町か……確かあの二人があの異世界人と出会う前に情報を仕入れたマザカか」
鞄から地図を取り出し、指で街道をなぞる。何も記載がない場所と印をつけている場所を指差し、確認していた。
「ジャン、途中でディープだけ浄化できるか?」
「……」
ジャンは答えられないのではなく、答えたくなかった。ディープの剣技を後ろ姿だけではあったがその太刀筋は早く、使役している虫たちがすぐに倒されてしまうのをわかっていたからだ。奇襲をするにしても、近くにいるノインにバレてしまうので別の虫を使っても失敗しか想像がつかなかった。
「フン、無理か……」
デュラアーはジャンが答えなかった事に対して気に留めず、出来ないと悟る。ジャンも無理だと言われた事に特に弁解する事も不快になっていたりはしなかった。盗賊生活が長いため、引き際を大事にしていた。
「うまく行くかわからんが、試してみるか……我がディープの情報を情報収集ギルドに売る。恐らくあの商人エルーも売っているだろうが、信ぴょう性が増すだろう。マザカの町でそのギルドが彼にその情報について探りが入るはずだ」
デュラアーが何を考えているのか、わからないがジャンは嫌な予感がしていた。
「ノインにバレても構わん、適当な虫をテイムさせて盗聴しろ。恐らくそれで情報収集ギルドにヤツがお前に接触してくるはずだ」
「どういうことです? 旦那」
「あの町のとある情報収集ギルドのメンバーはこちらと繋がってる。なに、うまくいけばディープだけがのこのことアジトまで来てくれるだろうよ」
デュラアーは地図をトントンと指で叩いた。
それを見たジャンは、ニヤリと笑った。
地図には何も描かれていないが、ジャンが根城にしている盗賊のアジトの一つだった。
「一人で無理なら数でやればいい。ここ三日一緒に行動したが彼はこの世界に来たばかりだというのがまるわかりだ。とんだ治安がいい恵まれた世界に居たんだろう、よく見かける異世界人だ」
「わ、わかった。危なくなったら逃げさせてもらうけど、いいよな?」
「ああ、問題ない。もし生き延びたりした場合は――」
デュラアーは再度、指でトントンとマザカを叩く。
「浄化作戦時に叩く」
「か、仮によぉ……あいつ以外、エナとかノインも来ちまった場合は――」
「戦うな、逃げろ。一応、あの二人が共に行動しないように手は打つ」
「わ、わかった」
ジャンは単独でディープやエナとは戦いたくはない。あの剣技では虫は一刀両断されてしまう、別の虫を使っても不利だからだ。 ノインとは相性がよかったのか足止めはできるが、決定打にはならなかったと思っていた。
数的有利な状況であれば、味方を援護し追い込める。だがエナとノインがいた場合、覆される可能性があるからだった。
「そ、それじゃこのあたりで戻らせてもらうぜ」
デュラアーとクアクーラは頷くとジャンはその場から陰に紛れるようにいなくなった。
パチパチと薪が燃える音だけがそこに残った。
二人は焚火を見つめながら静かに、火を見ていた。
「この作戦でマザカの住民の半数以上は浄化されるはずだ。その後、クレッセントアーク国の軍がこの町に派遣されるだろうがその前に脱出すれば問題ない。ディープがもしジャンたちにやられていなかったら、その時に浄化する」
デュラアーは、ディープ一人ならクアクーラと共に戦えば殺せると判断していた。
斬られた盗賊の切り口からあの剣は業物ではあるが、使い手が力任せなのがわかっていた。
「ヤれるな?」
「他の奴らがいなければ問題ない」
クアクーラは表情を変えず、冷たい声で答えた。
「浄化によって、約束の地が築かれる。祖国のために」
「浄化によって、約束の地が築かれる。祖国のために」
二人の祈りは、焚火の音よりも静かに口ずさまれた。