17_指名依頼 護衛編その5
女商人エルーは聖界へ通じる異世界の門について、ディープに知っている事を話すのだった。
「天界から行ける異世界、という事しか知りませんね。どこかに聖界に通じる異世界の門がこの世界にあるか探している、というわけですね」
ディープにとって求めていた異世界の門の情報ではなく、別の異世界を経由してでのことだった。
(あの異世界を経由したくない)
「ああ、情報をありがとう」
「天界経由なら天地治安当地維持法局庁の方々が手助けしてくれるので行くのであれば、そこに所属してる騎士団の人に言えば、ですね。ここから西の方に門がありますよ」
「そうか、西か」
(天地治安当地維持法局庁、略して天法庁とは関わりたくない)
ディープは元の世界に居た頃に自宅にその関係者が何度も来ていた。来る度に家の中の空気がピりつくような不快感があった。親は特に嫌悪感を表に出していたのもあって、幼い頃から苦手意識を持っていたのだった。
「あいつら……なんか苦手なンだよな」
「あれ、ノイン苦手なの? なにかあったのか?」
盛大なため息をつきノインは肩を落としながら嫌悪感丸出しで話す。
「なに騎士かわからないけれど、あなたからは邪悪な気配がします、と絡まれたんだよ。言いがかりにも程があるだろって話が通じなかった」
「どうせ、娼館に向かうタイミングに声かけられたんだろ」
エナがノインに言うと焚火のパチパチという薪が燃える音が静かに周りへ響いた。
「……えーっと、まあ、とりあえず聖界についてはそれくらいですね」
「ありがとう」
微妙な雰囲気の中、夕食は終わり、各自明日に備えて休むことになった。キャンプ地は盗賊に襲われる危険性はない。そのため、女商人エルーは荷車の中で寝床を作り、横になった。その近くで護衛二人は毛布にくるまって座って休んだ。ディープ、エナ、ノインは荷車から少し離れた場所で壁を背にし、毛布にくるまって休んだのだった。
ディープにとって野宿は初めての経験ではなかったが、異世界の空を見上げ、見知らぬ星空と見えないもう一つの星を恋しく思うのだった。
(あの時、家に来ていた天法庁の人の名前……覚えておくんだったな……)
遠い昔の記憶から、思い出そうにも十字架の刺繍と金属レリーフが入り混じった独特な制服しか思い出せずにいた。
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翌日、盗賊にも襲われず順調に進んだ。キャンプ地に到着し、一泊し、無事に貿易待合所キングスペイに到着した。そこは今までいたキャンプ地と比べ、大きな城塞都市といっても過言ではなかった。
「依頼完遂、ありがとう。助かったよ。おかげで快適にここに戻ることができ、護衛二人だけだと舐めてくる盗賊もいるからね。さすがに、この二人だけでも労せずに到着できるだろうけど、快適具合は変わってくるしね」
女商人エルーはディープ、エナ、ノインを労い、感謝した。
「支払いは冒険者ギルドにこの依頼完了票を持っていけば支払われるから」
エナは女商人エルーから一枚の紙を受け取り、内容に問題ないか確認し、リュックサックにしまい込んだ。
「また、があるかわからねぇがその時は指名してくれ」
「こちらこそ、それじゃよい冒険を」
「よい商いを」
貿易待合所キングスペイは外側から見ると大きな壁に囲まれた所にしか見えない。しかし、中に入ると簡易テントで屋台がひしめきあっていた。壁側にはずらりと荷車が規則正しく停められており、それがほぼ一周続いている。
外周部の建物は一階は吹き抜けの二階建てが規則正しく円状に建てられていた。中央部に行くにつれて、建物が次第に大きくなり、大きくて三階建てでしっかりとした外装のものが増えていった。
中央通りを進んでいくと中央には直径八メートルほどの青い球体があり、目玉のような模様が浮き出ており、淡く光っていた。その目玉は誰に対しても目が合うようになっており、ディープは一瞬だけそれに驚いた。
「ンじゃ、ギルドに報告した後に、結界石に触れよう」
「そうだな、まずは依頼を終わらせた事を報告だな、ディープもそれでいいよな?」
「あ、ああ」
エナとノインが向かっていた先が冒険者ギルドだとわかり、青い球体を横目に冒険者ギルドの建物へ入った。
結界石と呼ばれるものは、聖界でも存在している。世界、国、地域によっては名称や見た目などが異なり、オベリスク、メンヒル、三柱鳥居、大マナの樹、マナストーン、エーテリアルストーン、セーブポイントなどと名称があるが総じて、結界石と呼ばれている。大体は出土したり、元からいつの間にか存在していてそこに人が集まり、村、町、街、都市、国といった形を成していく。立地が良いとされる場所に多く出土している。
結界石と呼ばれているが、豊穣効果があるだけであり、破壊されれば豊穣効果を失う。時間が経てば復活する。ものによっては移動させることも可能。複製および作成も可能であり、大量のクレジットが必要となっている。
ディープは聖界の結界石と見た目が全く異なる結界石に戸惑っていた。
「なンだ、見られているような感じがしたか?」
盲目のノインが肘でつつきながらディープを茶化す。
「フン、よくわかったな」
「オレもこのアレーサ半島に来た時は同じだったしな、わかる」
「誰もが通る道、みたいなものか」
エナとノインは頷きニヤニヤしていた。
ささっと受付で依頼を完遂したと書かれている紙を提出し、それぞれ冒険者カードは宝玉型の端末にかざす。クレジットの支払いがされたことを確認し、ギルド内の空いてるテーブル席に腰掛ける。
「さぁて、ディープはどこに向かう? 西の方?」
「あー、確かにあっちには異世界の門があるって言っていたな」
「目当て、ではないンだろ?」
「東のマザカっていう町に情報収集ギルドのヤツがいるんだが、そいつに聞いてみるのもありだな」
エナの言葉に他に頼るような相手や情報がない事から、そこに向かうのがいいかもしれないと思うのだった。
「それに丁度、オレたちも用があるしな」
「ああ、遺跡が無かったと報告すれば情報料の一部を返金されるからな」
「フッ、じゃあ、マザカに向かおう」
次の目的地、マザカへ向かう事になった。