16_指名依頼 護衛編その4
盗賊七人をすべて倒したディープ、エナ、ノイン。
討伐後、ディープはそれぞれの耳をはぎ取ろうとするが、エナに止められる。
「それは今回はオレがやる、清浄の術を使うところは見られない方がいい」
「確かにな、見られると厄介だ」
ディープは見られた事によってどういう厄介さがあるのかは想像できなかった。だが、エナが代わりにやってくれるというので汚いのに触らなくて良いと感じ、胸をなでおろした。
エナが手際よく死体となった盗賊から耳を心創剣を手先から刃の部分だけ出し、綺麗にはぎ取っていく。その際に布ですぐに拾い上げ、手で触れないようにしていた。
ディープはその行動に手際の良さを感じていた。
「さて、問題は道に散乱してる死体をどう片付けるか……」
ノインは腕を組み、ボソリとつぶやいた。明らかにめんどくさい、という声だった。
この状態では荷車が通る時に、多少邪魔になる程度だった。
「我々がどかそう」
ジャクダを引いた荷車に乗っていたデュラアーとクアクーラが小走りで近くまで来て、死体をせっせと街道の脇に投げていった。
「いやぁ、早い早い。依頼を頼んでおいてあれだけど専属になってほしいくらい盗賊の対処が早くてびっくりだよ。この分は報酬に上乗せさせてもらうよ」
女商人エルーは上機嫌だった、フードで半分も表情は見えないがディープたちはどういう表情をしているのか予想はできていた。
「ほとんど時間かかってないし、損害もないし、今日予定していた場所に思っているよりも早く着きそうだ」
その後、盗賊たちから再度襲撃されたり待ち伏せといった事はなく、キャンプ地に到着した。
キャンプ地といっても、かなりの高さのある壁があり、門もついている。数日は立てこもれるような造りとなっている場所だ。キャンプ地の場所によって造りの形は多少の違いはあるが、中央に大きな広場があり、そこは吹き抜けとなっている。壁の周りは屋根があり、最大で五十人が悠々と入れる造りになっている。これは、商人が持つ品物、荷車を内部に置いても問題ないという広さである。
こういったキャンプ地は国が盗賊対策として設営したものであり、一部の街道沿いに設置されている。その中でもディープたちが立ち寄っている場所は、小さい場所になる。
「まだ日が高いけれど、ここで今日は休む事にし、明日の朝に出発だ。夕方になったら飯は振る舞うから、それまではゆっくりしていよう」
女商人エルーはジャクダと荷車をキャンプ地内の空いたスペースに停めていた。
「ン、どうしたディープ」
「いや、他にも人がいるんだな、って」
キャンプ地では他にも行商人、革当てをつけた冒険者など、それぞれの場所で休憩していた。簡易的なコンクリートで作られたブロックに腰掛けていた。
エナとノインと服装の違いがディープには気になっており、装備の質の差からエナとノインが初めてこの世界で会った冒険者でよかったと思うのだった。
「このキャンプ地内に盗賊が入り込もうとか、攻めようっていうのはないぜ。もしあった場合は、この国の兵士が討伐隊を率いて確実に根絶やしにするからな」
「そうそう、盗賊の拠点を探し当てて、確実にヤるンだ」
「普段から盗賊狩りしていれば、街道は安全なのにな」
ディープはこの世界の常識を知らず、治安に対しての意識など、元の世界の常識を引きずっていた。
「そうなってくると我々の仕事が無くなってしまうな」
デュラアーがディープたちの話に入ってきた。
「あー、デュラアーさんだっけか。気を悪くしたらすまない」
「いや、気にしていない。こんな見た目からか好戦的に思うヤツが多いがな」
ニコッと笑顔になるが、強面であり友好的な笑みには見えない。
「おっと、よく勘違いさせてしまうが威圧してるわけじゃないからな」
「あ、ああ」
「エルーさんが周りの知り合いらに挨拶が終わったらご飯にすると言っていたから、その時になったら来てくれ、という伝言だ。それじゃ、また後でな」
デュラアーは用件を伝えると女商人エルーの元に戻っていった。
+
夕方になり、女商人エルーの元に一同が集まる。振る舞われた飯を各々が食べていた。町の飯屋で食べたようなしっかりとしたものではなく、ピザの耳のようなパンに温めなおした肉と刻まれた野菜が挟まれたものだった。大きさは両手で持てなく、量もかなり多く、重さもしっかりとしていた。
コンクリートのブロックに腰掛け、互いに程よい距離感で円形になり、その中心には焚火があった。
雰囲気も和やかの中で、女商人エルーはデュラアーとクアクーラに何やら世間話をしていたり、エナとノインは食べながら、食べ物の話をしていた。そんな中でディープは女商人エルーに聖界へ行ける異世界の門について聞いてみる事にした。
「エルーさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「質問の内容によるが、お金はとらせてもらうよ?」
商機、と思ったのかニヤリとしていた。フードを被っていてもなんとなく仕草でディープはそう感じていた。
「守銭奴、って思われるのは嫌だが実際に守銭奴だから反論は出来ないが商人なんでね」
ディープは情報料を支払わなければならない事をあまり重要視していなかった、知っているか知らないかわかれば帰り道もわかるという考えだった。
「聖界の、異世界の門について……聞いた事はないか?」
ディープがその質問をするとバチンと焚火の薪がはじける音がした。
「うーん、聖界? 神界じゃなくて?」
女商人エルーが聖界のことをセイントと言った事でディープは言葉の意味は通じた事と「聖界」と言わなかった事に何らかの情報を持っていると確信したのだった。
異世界と異世界が通じている場合、いつからか言葉が通じるように変わった。その変わった時から言語の壁は取り払われたが言葉としての意味は通じても発音や単語は違って聞こえる事がある。それは国や民族によって言語が違うからだ。言語の壁が取り払われてから、多くの人は気にも留めていないが、ディープは違っていた。
(聖界、と呼んでいる異世界があったから、そこと少なからず繋がりがあるな)
「神界ではないですね。何か知っていたリしますか?」
ディープは焦る気持ち、期待する気持ちが入り混じり、鼓動が高鳴っていた。