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11_術、異世界によって違う

 盗賊に襲われ、対処し、初めて異世界で人型を殺した。異世界で人を殺す、という行為がはたして問題なかったのか、どうかという思考はエナの一撃によって問題ないと判断していたディープだった。だが、今までモンスターといった害を成すものの駆除はしてきたことがあったが、明確な悪意を持った相手は初めてだった。

 言葉をしゃべり惑わすモンスターもいたので、すんなりとたおせたが、何かこみ上げてくる気持ち悪さは経験がしたことがない不快さが感触に胸の内に残っていた。


 ノインが気を使って言葉をかけてくるものの、心は晴れないままだった。

「あいつら臭かったし、汚かったもンな、わかる」

「眼が見えない分、嗅覚敏感だもんな」

「全く、いやなンぜ」


 ディープは気持ちの整理がつかないが、話を合わせ同意するように頷く。


「変な気配は感じられないが、絶対じゃないから注意して進もう」

 一人盗賊を逃がしたことから、念のため警戒しながら進む事を決めるノイン。

 警戒しながら、ディープは元の世界のことを思い出し、次の町に行けば手がかりが見つかるはずだと信じ、歩みを進める。だが、かすかに耳を切り落とした時に触った手の臭いがした。かいでみると異臭がし、顔をしかめる事になった。

 

(どこかで手を洗いたい)


 ディープは清浄の術を思い出し、使用する。

 術の基礎は親から習っているのもあり、生活に役立つ術から自衛に使う術まで幅広く教え込まれた。その中の一つで清浄の術があり、不浄をなくすというシンプルな術だ。

 術とは、学べば誰でも行使できる技であり、強さでもある。

「今のなンだ?」

「浄化じゃないか? なんか汚れとか消えてる! すっげー!」

「あ、本当だ。異臭がディープからしない。何系統の魔術なんだ? すごいな」

 エナはディープの手先に顔を近づけ、クンクンと臭いを嗅いだ。

 

 ノインとエナもすごいと言い、ディープは悪くない気分だったが、ディープにとって安易に術を使用することで出生に関わる世界の情報を与えてしまう危険性に気づいた。

 聖術の基礎的の術なのでそこまですごいのか、と思うがどうやらこの異世界には、そういったのが伝わっていないと認識を改めたのだった。

「基礎的な術なんだが、知らないのか?」

 ここで嘘を言っても仕方ないので正直に伝えることにした。

「主に魔術の話ならよく聞くが、そんな術は聞かないな」

「魔術だと攻撃が主流だな」


 魔術、ディープは知識だけは知っていた。だが、堕界で異世界の術を取り入れ急速に発展していった術であるということは知らなかった。元は魔界の術であり、術としての性能は魔界と比べて劣化しているものの、それでも学べば誰でもある程度使える術であった。

 

「二人は魔術は使えるのか?」

「自分は火を起こす、水で洗い流す、くらいだな」

「オレも似た感じだな」

 冒険者として基本的な火と水の術を取得していた。一般的には生活魔術と呼ばれるようなものだった。

「攻撃系とかは?」

「「全然」」

 二人の声が重なり、笑っていた。

「ディープは何か使えるのか? 術ってどういう術があるのか知らないんだけど、自分たちでも覚えられたりするのかな」

「エナ、さすがに使えてンなら、噂に聞くだろう?」

「えー、でも聖女とかいるから術って関係してるのかな、って思ったんだけど」

「あれは、『白』魔術が使えるから聖女なンだろ」

「えっ、そういうこと? 男が白魔術使えるようになったら?」

「聖人だろ、いや……聖界の人を聖人と呼ぶから違うのか? そのあたりどうなんだ?」

 ディープは突然二人の会話を振られて、どう答えたものかと一瞬考える。

 

 聖女、堕界では宗教的な意味合いが強く、固有ジョブ名である。そのジョブの取得条件は白魔術の浄化といった術を取得していること。

「聖女は固有ジョブ名だろ、聖人は種族名。固有ジョブで聖人というのがもしかして存在するかもしれないが、ボクは聞いたことはないな。あと教えられるようなものじゃないよ」

「ディープはいろいろ知ってるンだな」

「普通だろ」

 

 普通、ディープの中では当たり前の知識であり特段自慢をするような事じゃない。今まで居た環境では当たり前にそういう認識だった。それがふと優越感が湧き上がるのと同時に早く家に帰りたいとも思っていた。突然襲われるような治安の悪さと不潔さが相まって、心地よさの真逆な環境は冷静になるには十分だった。

 

 術、体内にあるエネルギーを元に超常的な現象を引き起こす手段である。ディープは聖界出身であることから、聖界の術の使用ができる。術というのは、種族や出自に大きく左右されるものである。そのため、ディープはおいそれと明かす事はしない。

 体内のエネルギーは種族によって異なっており、堕界に住まう者たちが聖術を習った所で使用できるかは別問題となってくる。なぜなら、この堕界の法則でその術を発動させるには聖界の血をひいているか、ひいていないか等の条件が存在するからだ。

 

 ディープは歩きながら、この堕界の法則内で聖術が使えた事に安心しながらも、目が見えないノインの術を感じ取る嗅覚のようなものを警戒したのだった。

 

 術と一口に言っても世界を隔ててしまうとその世界の法則があり、その法則の中で発動する。魔術は魔界では効果、威力は堕界で使用するよりも遥かに劣る。他の異世界の術でもそういった現象が起きるのだが、実際に堕界で使用した時は基礎的な術であっても効果は思うように期待できないものが「普通」だ。

 

 だが、ディープが聖界で使うのと同じ感覚、効力を発揮し、それを何ら疑問に思っていない事にエナとノインは異常だと感じていた。それは冒険者生活で様々な異世界人と接してきて得た「常識」であった。

 

 二人は口には出さず、指摘もしなかった。お互い何か隠しているのもあり、真に信用を得る仲間になるかどうか、決め定めていたからだ。それはディープも同じであったが、いきなり転移させられた事によりそういった冷静な状況判断が出来ずにいた。



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