10_エンカウント 盗賊は害しかない?
異世界のモンスターで会いたくないのは不潔、不摂生、など病気とか体調不良になるモンスターなどが列挙される。戦闘になって勝てたとしても、傷を負ったりするとその後に引きずる事があるからだ。文明が築かれていくと何が原因でどのような結果が起きるのか、情報が共有され進化していく。
「この森、なンかおかしくないか?」
「おかしいって?」
ノインが問いかける時は決まって何かに気づいている時であり、その答えをわかっていて聞いている時だとディープは内心思っていた。村から出てから盲目のはずが目が見えているのと変わらない動きをしている。小さな段差、小石などわかっている動きをしていることから、感覚の鋭さが常人とは違うのだと認識していた。
エナが何がおかしいのか気づかないため、話の続きを早く言えとばかりな態度で返事をしていた。二人は仲が悪いのだろうか、それともこのぐらいの距離感が彼らの関係性なのだろうか、ディープは思っていた。
「虫の気配がやけに気味が悪い」
「虫系はしぶといから嫌だなぁ」
愚痴るエナを見て、ディープはため息をつきそうになっていた。腰の剣をいつでも引き抜けるように腕と手の位置を変える。
「ディープは何か感じたの?」
「警戒度を上げただけだ……って、ほらやってきた」
両刃ではなく片方だけ刃がついている訓練用を鞘から抜き、構えた。ディープが帯剣しているのは、ショートソードと呼ばれる種類の剣で、聖界では一般的な片手剣の部類に入る。訓練用として父親が買ったものであった。
「ビートル型スタッグ種だ!」
エナが少しばかり興奮して声を出す。
「見ればわかる」
目で追えない程の速さではないものの、ディープの鍛えられた動体視力でそれが何かわかった。
「ノインは見えてないからね:
「わざわざ説明ありがとう、エナのやさしさに甘えたい、ぜひお前ひとりで対処してくれ」
軽口を言いながら、手を獣の爪に見立てたような獣のような構えをノインはとっていた。
羽音が複数なり、自分たちを取り囲むように空中に停滞し、隙を伺っているようだった。明らかに誰かに使役されている動きだとわかり、どこかに隠れているのだろうと気配を探ろうとした。するとぞろぞろと身なりが汚い男たちが木々の影から姿を現した。
「おい、金目のものを置いていきな」
ディープ、エナ、ノインはすでに背中を互いに向けて互いに死角をカバーし合っていた。エナだけ何も持っておらず、構えという構えをとっていない。武器も携帯しておらず、さっきまで背負っていたみんなの荷物が入ったリュックサックを地面に降ろしていた。
ディープは彼が身に着けている装備からレーザーブレード系統の武器を使うものだと推測していた。相棒のノインの落ち着きから、構えをとらないのもそういう理由なのだと思っていた。
汚いおっさんからの一言で盗賊に身を落としたような輩だとわかり、互いに遠慮は必要ないという空気になっていた。
「やめておき――」
ボウガンを構えているのが二人、剣を持ってるのが三人で盗賊の数は六人、うち一人はすでにエナによってすでに首と胴体がおさらばされていた。
それに対してこちらは三人。ディープも即座に動き、見えている二人の内一人の懐に入り、首を撥ね、もう一人の方へと近づき、同じように首を撥ねようとしたが剣で遮られた。
「て、てめぇ」
臭い。ディープは対峙した相手の体臭、口臭から不快感をあらわにした。相手は簡単に殺せると思われていた事に対しての表情だと思ったのか、怒りの表情を浮かべていた。
矢が風を切る音と同時にそれが何か当たった音がし、地面に落ちる音がした。
「そ、そんなっ! バ――」カな、と言おうとする前に首を斬られていた。
エナの何かによって、本来だったらディープに届くかもしれない矢が防がれていた。
ディープの視界からは何が起きたのかわからなかったが、何かしたのだろうというのだけは感じていた。油断した、と思いつつも眼の前にいる盗賊に対し、対処をおこなうことにした。
ボウガンの矢がディープに届かず、それを当てにしていたと思われた盗賊は、ディープの二撃目を防げるわけもなく、他の盗賊と同じように首を撥ねられていた。
「ひ――ッ」
怯えた盗賊をエナがすかさず倒し、残り一人になっていた。しかし、いつの間にか羽音もなくなり、あたりは誰もいなくなっていた。
「悪い、逃がした」
「ノインと昆虫じゃ、相性が悪いもんな」
「わかっていたなら、相手交換してくれてもよかったンじゃない?」
はぁ、とため息を漏らし、ディープは剣についた血を一振りで剥がし、刃に大まかな血がついてないか確かめ鞘に戻した。
「この死体の処理はどうする?」
ディープはこの世界のこの地域で死体の処理方法を知らなかった。
ある程度、乗り物が通れるような広さが切り開かれている道。舗装はされていないが人の往来がある程度ある地面の堅さがあり、死体をそのまま放置していいのか、ディープには判断がつかなかった。
「オレたちは冒険者だからな、次の町についたらギルドに報告して、ギルドからこの現場の調査をされる。まあ、死体の一部を持っていけば証拠になるンだけど……」
「臭うし、持ち歩きたくないな」
「ふーん、そういうものか、わかった」
二人はディープがゴネると思ったのか、少し驚いていた。
「一応、説明しておくと死体の一部を持っていくと金になる」
エナはディープの懐事情を察しているかのように告げた。その意図は、オレたちは死体の一部を持たないけど、お金が欲しいのならやったほうがいいよ。という仕事の押し付けだった。
「なるほど、な。それでどの部分を持っていけばいいんだ?」
「え、マジで持っていくのか? 臭いし、荷物になるぜ?」
エナは地面においた荷物を背負い、その場をあとする動きをした。決して手伝わないよ、という意思表示だった。
「基本は手首、耳、賞金首だった場合は頭だったりするンだが……本当に持っていくのか?」
ノインはディープの事を引きながら言ったが、そのことに特に気に留めず転がっている頭についている耳をショートソードで削いでいった。
「マジかよ」
「いいところの出だと思ったンだがちゃんとやるンだな、見直した」
まだパーティを組んでそんなに経っていない、エナとノインの関係は信頼関係は構築されているがディープとは距離があった。戦闘時には守ってくれていたものの、ボウガンの矢の軌道がわかっていたのもあり弾きながら盗賊の首を狙うつもりだったと言ったとしてもそれは言い訳になる。実際にディープは油断をしていたのもあり、胸を張れるような戦闘ではなかった。
だが、守るという行為をしてもらったのもありディープは行動で示す事にしたのだった。多少意地が悪いような物言いをされたとしても、それが冒険者であるため、いちいち気に留めているのは”上から目線”になる。
ディープはこの異世界は無知な存在だ。余計な不和の原因を作るのは悪手だと自覚はしていた。
五人分の片耳を盗賊が着ていた衣服をショートソードで切り裂き、手頃な布切れにして包んだ。
「こんなものか、さ、行こう」
「手際いいじゃん」
エナはにんまりと笑うと背負っていたリュックサックから防水性がある青い少しテカった布を取り出し、ディープが持っている片耳が入った布をよこせと手を出した。
「なんだ持ってくれるのか?」
「そりゃ荷物持ち、だからな」
「そうか、それじゃよろしく」
盗賊を一人逃したものの、ディープはこのエナの距離感は縮まったのではないかと思った。
ディープはエナがどうやって盗賊を倒し、ボウガンの矢を防いだのか、気にはなっていたものの、手の内は明かさないだろうと思い聞かなかった。レーザーブレード特有の音もなかった事と、ボウガンの矢を何かに当たって落ちた事から、レーザーブレードではない事を知れただけでいいかと思ったのだった。
(異世界人か、スキルと呼ばれる特殊な技だろうか?)




