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01_世界の敵、異世界の敵、君の敵。

 世界間戦争、異世界と異世界が繋がっている世界では起きないわけがない。


 突如、異世界から人がやってくる。転移だろうと転生だろうと、この世界とは異なる世界からこの世界にはない知識、見識、胆識を携えてやってくる。それは予測などできず、事によっては脅威であり秩序を恐れ、薬にもなれば毒にもなる。

 異世界からやってくるのが当たり前になって、数百年経った世界。

 

異世界人(チーター)め! 世界に不必要な混乱を招く悪め! 出てこい! 浄化してやる!」

 

 燃え盛る炎と悲鳴が入り混じる町の一角で叫ぶ兵士がいた。その兵士から隠れ、夢であってほしいと思いながら隠れている異世界人がいた。

(いざ盗賊に襲われた時も問題なく返り討ちにしたりし、生き延びてきた……大丈夫だ、大丈夫)

 だが、心の奥底では今はもうだめだと思っているように、身体は正直に震えていた。相手は訓練された兵士で、練度が違う事を正しく認識していた異世界人がいた。

 

 だが――

 

 あきらめるな、という声が異世界人の生存本能が告げるように生き延びようと思考は止めていなかった。

 最悪なせめぎあいの中、あたりは次第に業火に包まれ、もうすでに逃げ道はなかった。ついこの間までこの町は活気があった。だが、知能を持った蛮族”世界の敵”と称させる者たちの蹂躙と略奪行為によってめちゃくちゃにされていたのだった。

 

 世界の敵が何なのか、その異世界人が対峙して心に刻まれたのは恐怖だった。

 

(家に帰りたい)

 

 炎の光が世界の敵である兵士の影をゆらりと映し出していた。剣を構えるものの、戦闘を避けたいと手が震えていた。

(くそ、くそ、くそ)

 落ち着かず、落ち着かせようと、深呼吸をしていた。その呼吸が聞こえないでほしいと願いながら。

 あたりの人が焼けた臭いと腹を裂かれ死亡した時に出る臭いが不快にさせ、より恐怖を感じさせていた。

 自分もこうなってしまうのではないか、と

 

(ちくしょう、なんでこんなことになった)

 

 壁に映った影の形が次第に世界の敵との距離が縮まっている事をあらわしていた。

 行き止まりになった路地裏、隠れる場所もない、壁にびたりと張り付き、どこかいけと念じていた。それが叶わない事だとわかっていても願わずにいられなかったのだった。

 足音は次第に大きくなり、ぬるりと兵士が現れようとしていた。

 

 完全に発見される前に路地裏から飛び出し、剣を相手の上半身に攻撃を当てようとした。

 

 切り伏せ、倒す。ただそれだけの事に集中し、恐怖をねじ伏せようと行動したのだった。

 

「お前らさえ……」

 見開いた目から光りが失われ、力尽き、倒れる。

 運よく奇襲が成功し、異世界人は生き残ることができたのだった。

「この世界に好きで来たわけじゃない、望んでなんかいない、知るか……よ」

 異世界人は死んだ相手に言い訳をし、相手を殺した正当性を自分に言い聞かせていた。

 

 今しがた倒した兵士を引きずり、路地の死角へと移動させ、その兵士が装備していたものを確かめていた。黒い剣に黒い盾、鎧とは違った特殊な布地の服で行動を阻害しないような特殊な技術で作られたものだった。見た目よりも軽く、異世界人にとって馴染みのないものだった。

 

「ここから脱出しないと」

 生き延びる事を考え、倒した兵士が着ていた服を脱がし、着替えた。

 自身が着ていた装備はマジックバッグに入れていった。バッグの開閉サイズ内ならある程度入れられる魔導具だ。この世界では遺物、レリック、アーティファクトとか呼ばれている物だった。国や地域によってはチート道具と呼ばれている。

 

「くそっ」

 

 脱がし自身に装着した服の臭いに不快感が募っていた。歯を食いしばりながら不快感を我慢していた。

 

「清浄……いやこの戦場で目立つ、くそっ」

 

 清浄の術で綺麗にし、臭いや汚れなどを除去しようとしたが返って目立ち逃げれなくなる可能性に気づきやめたのだった。この世界からしてみると清浄の術といった身ぎれいにする術は存在しなかった。

 

 ガラス窓に自身の顔が写り、顔と髪にこびりついていた。血のりがべたりと顔につき、余裕がなく鋭い目つきが現れ写っていた。

 

 ここは世界間戦争をしている場であり、ガラス越しに映った異世界人は自分が居た世界から遠く離れた異世界で戦っていた事を再認識するのだった。

 この世界では、ディープ・ストライカーと名乗り、冒険者として活動をし、こんな戦争に巻き込まれるような生き方をしていなかった。異世界に転移させられ、気づいたらこの世界に飛ばされただけだったのだ。

 

 術と呼ばれる超常現象を引き起こすことを訓練すればある程度誰でもでき、モンスターという人を害する生物がいる。様々な国、ギルド、ダンジョンと呼ばれる空間があったり、遺跡と呼ばれる突如現れたり、特別な力を宿した武具などが存在する異世界だった。

 異世界からもたらされた技術力や発想によって文明は大きく進み、世界は激変していっていた。どの国も組織も異世界人を求め、利用していた。ただ、異世界人でも利用されるだけではなくこの世界の人が持ちえぬ力を活用し好き勝手する者もいた。

 

 その結果、前世の記憶を持つ者、異世界転移してきた者に対して過敏になっている国もあった。

 

「ボクは、生きて元の世界に戻る……ッ」

 

 ディープは自分自身に言い聞かせていた。好きで異世界に転移したわけでもなく、この異世界から元の世界に平和的に戻るつもりだった。


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