040 コルギ村のハウチ
「ご利用ありがとうございましたーだよー。シュラちゃ⋯⋯おねーさんもぉ、ヒイ⋯⋯おにーさんも、またご贔屓にねー」
「お、おう」(ひいお兄さんってなんだ⋯⋯?)
朗らかな店番の声に背を押されてショップの扉を潜れば、カランコロンと取り付けられたベルが鳴る。
遠くの方では少し茜に染まりだしたおやつ時の空は澄んでいた。
シュラが教えてくれたショップでの買い物だけど、欲しかったものはきっちり全部手に入った。入ったのは良いんだけど、ショップの店員さん、ちょっと変わった人だったな。
俺みたいな見た目でも凄いフレンドリーに話しかけてくれたし。語尾を間延びする癖もおっとりしててグッド。
なにより可愛いかった。なんかちょっと人間離れしてるレベルで。若干雰囲気がノルン様と似てる感じもしたな。
「⋯⋯口が上手ぇ店番ってのは厄介だな。あれこれと押し売りやがって」(めっちゃフレンドリーだったなあの店員。凄い可愛かったし)
「まんまと余分に買わされた奴の台詞じゃないわね」
「チッ。テメェが贔屓にしてるからって油断したぜ。騒がしいのは嫌いな性質だと思ってたんだがな」
「好きじゃないわ。けど品揃えも品質も良いから、背に腹は変えられないのよ」
けども買い物を終えた俺達の空気は、明るいものとは言えなかった。さっきまではあの店員さんがトークで場を保たせてくれたってのもあるけど。
まぁ俺達二人じゃ明るく和やかな空気って方が変だろう。雰囲気をいつも以上に重くしているのがどちらかは、言うまでもない。
「もう用事は済んだし、帰るわよ」
ぽつりと呟いて歩き出す背中を追いかけながら思うのは、あれから合流した後のこと。
ガイド役を務めてはくれたけど、シュラは露骨に口数が少なくなっていた。
多分、さっきの依頼所でのやり取りに思うところがあるんだろう。
今は口数が多少戻ったとはいえ、合流したばかりの時は返事は精々、一言二言。
まるで昔の傷を見られまいとするような、気の強い少女には似合わない、繊細な拒絶の仕方だった。
(主要キャラだし、何かしら込み入った事情なり過去なりがあるんだろうけど⋯⋯どうしたもんかね)
作られた壁を壊すのも主人公らしさというけども、如何せん踏み込んで良いものか。
下手に詮索して仲違いなんてこともありそうだし。
例えばクオリオ相手の時みたく、男同士なら遠慮なく突っ切れるんだけど。ライバルとはいえ少女のシュラ相手じゃ躊躇無しには行けなかった。
そんな風に踏ん切りつかない間に、気付けば大通りへと戻って来た頃だった。
「あの! そこのお二人、少しお待ちください!」
「⋯⋯?」
「あァ」
大通りへの入り口辺りで、俺達は急に呼び止めたられたのだ。
「ええと、貴女が⋯⋯エシュラリーゼさん、でしょうか?」
「そう、だけど⋯⋯」
呼び止めるなり、シュラの名前を縋りつくように確かめる謎の女性。
口振りからしてシュラとは顔見知りって訳じゃなさそうだし、当然俺も知らない。
けれどその女性の、切羽詰まった剣幕には見覚えがあった。
(ん? この人って、さっきの⋯⋯)
くたびれた緑の衣服。痩せこけた頬。必死な様相。
間違いない。あの時、依頼受付所で揉めてた女性だ。
「私はハウチ。ここより北東に十里ほどにあるコルギ村の村長です」
ハウチと名乗った女性は、突然のことで僅かに狼狽えるシュラの手を取り、赤く腫れた両目を潤ませながら懇願した。
「貴女は優秀な騎士の方だとお聞きしました!
お願いします、どうか、どうか私の村をっ⋯⋯コルギ村を、お救いくださいっ!」
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