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004 学園物語、開幕!

 騎士。

 この階級一つの響きで、胸を弾ませる少年少女がどれだけ居るだろうか。


『ナイト』『シュヴァリエ』『ナイトロード』

 主を護る銀の盾。敵を貫く銀の剣。

 時に身を滅ぼそうとも曲がることなき銀の意思。 

 古くから現代に至るまで様々な物語に題材とされ、その度に物語を彩ってきた人気の称号だ。


 誰もが一度は見ただろう。

 白馬に跨り、主君に仕え、譲れぬ意思で剣と盾を用いて闘う夢物語。そんな舞台に立ってみたいと。

 勿論、俺もその一人であり⋯⋯今こうして立っている。

 それも主人公として。ははん最高かよ。


(しかも、この大通りの規模。明らかに大国じゃん。なんだっけ、聖欧国アスガルダムだっけか。そんな舞台で主人公とか、やばいだろ。想像しただけでノルン様と再会出来るわ)


 アスガルダム。もう名前からして仰々しい響き。

 その上名前に負けない美しい街並みには、もう溜め息しか出ない。

 縦にも横にも広い大通り。道行く人の多さ。遠巻きに見える馬鹿でかい城。

 現代じゃお目にかかれないレトロで神秘的な風景に、テンションぶち上がりだった。 


(うへ、うへへへ。ノルン様マジでありがとう。足向けて寝れねーや。居る方角知らんけど)


 中の人ならぬ外の人フィルターでニヤケ顔になってなくて良かった。

 まさに気分は有頂天。このまま心行くまま浸っていたっていられれば、どれだけ良かったか。


「おいヒイロ、聞いているのか!」


 大通りでもお構いなしに響く怒声。

 あぁもう、またかよ。振り向けば案の定、ルズレーが俺を睨んでいた。


「なんだ」(なにー?)

「なんだよじゃない! 貴族たる僕の前を歩くなとさっきから言ってるだろう!」

「⋯⋯はぁ? 良いだろ別に」(えー。ちょっとぐらい良いじゃん)

「る、ルズレー様。ヒイロのやつ、まだ熱の名残りで調子戻って無いんすよきっと! ほらヒイロもっ、さっさと後ろ回れって!」

「チッ」


 渋々ルズレーの後ろに回れば、満足したように大股歩きで道行くルズレー・セネガル。聞かずとも何度も口にする通り貴族なんだとか。

 水と油。ハブとマングース。騎士も歩けば貴族に当たるってくらいに、貴族もまた騎士と同じくメジャーな階級だけども。

 前を歩けば怒るし、話に相槌(あいづち)打たなきゃ怒鳴るし。

 悪い意味での貴族っぷりに、せっかくの高揚感も台無しだ。

 鳴らした覚えのない舌打ちだって鳴るよねそりゃ。


「面倒かけやがって、このデクめ。ルズレー様の機嫌を悪くすんなよな」

「あ? んで俺が腰巾着みてぇ真似しなきゃいけねーんだ」(えー、流石に嫌なんだけど)

「ちょ、おま⋯⋯真似もなにも今までそうだったろ?」

「んなもん知るか」(マジかよ。勘弁してくれ)

「ひっ、至近距離で急に睨むなよ⋯⋯くっ。頼むから、歯向かったりはすんな。割を食うのは俺なんだからな」


 しかも、この絵に書いたような腰巾着のショーク。

 彼曰く、昨日までの俺も同じ立ち位置だったらしい。

 いやいや冗談じゃない。わがまま貴族の太鼓持ちって。そんな主人公像は持ち合わせてない。

 ショークにゃ悪いけど、今後も割を食って貰おう。


「おい、後ろでごちゃごちゃうるさいぞ! 僕の品位を下げるような真似をするな!」

「へ、へいっす!」

「⋯⋯⋯⋯」

「ヒイロ、分かったのか?!」

「うるせぇな。分かったから前向けや。転ぶぞ」

「ふん、僕がそんなドジを踏むとでも⋯⋯⋯⋯どわぁっ!?」


 忠告虚しく、マントを器用に踏んづけて見事にすっ転ぶ貴族様。いやほんとに転ぶんかい。

 なんだろう、この圧倒的小物感は。会って一時間も満たない内にすさまじいまでの株価暴落である。


「⋯⋯言ってる側から踏むなよ」

「う、うるさい!! さっさと起こせぇ!!」


 息をするように命令。

 慌てて引き起こすショークの背中に、なんとも言えない先行きの不安を感じる俺だった。


 

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