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158 冷たい洗礼

「ひとまず、改めて情報を整理する為にも現地で詳しい聞かなくちゃだね。確かフィジカ港の顔役さんがいるって話だから、その人に会いに行こっか」


 心労で褪せてた目の色が復活した途端、ハイリ隊長はそう言って場を仕切り直した。凹み易い分、立ち直りも案外早いのかも。

 勿論異論なんて挟むこともなく、素直にハイリ隊長の先導に従った。道中やたらと町民達からジトッとした視線を貰ったせいか、チャノンからブツブツと文句を言われはしたが。フリーゼよりも俺の方への罵詈雑言が明らかに多かった事については、言うまでもない事だろう。

 そんなこんなで辿り着いたのは、顔役のものだけあって立派だった。さてさてどんな人だろうかと、その門を潜った俺たちスヴェイズ隊だったのだが。


「は、はじめまして。この度派遣されたエインヘル騎士団所属、スヴェイズ隊隊長のハイリ・ナインブレアです。以下隊員四名ともども、事態解決にご協力致しますので、よろしくお願いしますっ」

「⋯⋯⋯⋯」

「あ、あのう⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「えう⋯⋯」


 ご覧の通り、顔役さんの圧がものすんっっごい訳よ。

 年は大体六十を過ぎた頃だろうか。皺は少ないけども、角張った堅い顔。すっかり白く染まった短い髪の毛は逆立てられていた。

 腕組みに胡座かいた姿勢もあいまって、まさに頑固親父って印象を抱かせる。現に顔役さんは無言ながらもずうっと刺々しいオーラを放っていた。


「な、なにか言っていただけると⋯⋯」

「ああん?」

「ひっ、な、なんでもないです⋯⋯」


 いやーどうしようかこれ。お呼びじゃない的な空気が半端じゃない。思想強めのラーメン屋だってもうちょい雰囲気まるいぞきっと。

 ハイリ隊長も完全に萎縮しちゃってるし。産まれたての子鹿よりもプルプル震えてるよ。


「⋯⋯」


 あと、さっきからナナイザの圧も急に凄い。初対面時をつい思い出したくらいに。でも顔役の態度を気にする様なタイプでもないし⋯⋯って事は、いやお前マジで人見知りでその圧出してたんかい。


「なにか、ねえ。俺から言う事があるとすりゃ⋯⋯どの面下げて今更来やがった、ってとこだ」

「なかなかにご挨拶ですけど。こっちはここの問題を解決しに王都からわざわざやって来た訳ですが」

「おう。遠路遥々ご苦労さん。そんじゃあ(けえ)んな」

「こ、この⋯⋯! なんて言い草ですか話にならないんですけどこれだから男はほんとやってられないんですけど──」


 萎縮した隊長に加えて人見知り全開のナナイザ、更には激怒してブツブツ文句を垂れ流すチャノン。早々に隊の半数を使い物にならなくしたこの顔役、なかなかに強敵らしい。


「喧嘩腰は結構だがよ、実際この町じゃ近海に異変が起きて、魚やら珊瑚やらが獲れにくくなってるんだろ? しかも漁師も行方不明になったらしいじゃねえか」

「⋯⋯だからどうしたってんだ」

「どうもこうもねえよ。それを解決する為に、レスクヴァン家に頼まれて俺達が来てんだ。手ぶらで帰る訳にはいかねえだろ」

「ふん、レスクヴァンねえ⋯⋯お上もけったいなこった。あの珊瑚がそんなに儲かるかい。そういや若い娘っ子に代替わりしたって話だったな。さしずめお前さん達は、その当代様の"おめかし"の為に遣わされたってとこかい」

「ど、どこまでも侮辱してくれますね⋯⋯! 貴方のお上から遣わされた私達によく聞かせられたものですけど!」

「はん、告げ口が怖くて海の漢が務まるかってんだ! 言いたきゃいくらでも言っちまえってんだ。ガキの時分から漁に出て、荒れ狂う海とだってやり合ってきたこのサングド・カイブン! てめえら騎士と違って、逃げも隠れもしやしねえ!」

「おお、海の漢⋯⋯! か、かっこいいのだ⋯⋯!」

「フリーゼちゃんちょっと静かに。今そういう空気じゃないから」


 啖呵を切ったサングドに漢を感じたのか、なんか感銘を受けてるらしきフリーゼはともかく。その文言の中、騎士の部分を強調していた様に聴こえた。

 ひょっとして、俺達に対して非協力的な理由も騎士である事が関係してるのか。顔に出てたのか、俺の疑問に答えるようにサングドは鼻から大きく息を吐いた。


「俺やこの町の連中はな、騎士が信用出来んのよ。ご立派な見てくれしてる癖に、我が身が可愛いさに我先と逃げ出す腰抜け連中なんぞ、誰が信じるかってんだ」

「腰抜けだと⋯⋯?」

「チッ、話はここまでだ。いいか、俺達の海の問題は俺達が片付ける。よそもんの騎士の出る幕なんぞねえ! とっとと出て行きやがれい!」





「まったく、なんなんですかあの顔役は! 取り付く島もないんですけど! 人が下手に出れば言いたい放題とぉ! ぬあーっ、トサカにバチバチ来ちゃってますけどー! けどー!」

「一瞬でも下手に出てたか?」

「うるっさいんですよバッテンがぁ! 嫌ぁーもう帰りたいー!」

「お、落ち着いてチャノンちゃん」

「そうだぞ。まだ自分船に乗ってないし、海の漢達と船乗りの唄を歌ってないぞ」

「⋯⋯馬も疲れてる。ちゃんと休ませないと」

「いやそういう事じゃなくて⋯⋯あ、ば、うう、お腹キリキリするぅ。どうして私があたる任務はいつもこんなに難しいのぉ⋯⋯」


 追い出された後、滞在先である宿屋についた途端この騒ぎっぷりだよ。いや約一名ほど早々にぶち当たった難関に、すっかりグロッキーになってしまってるみたいだが。顔色なんかもう青を通り越して白くなっちゃってるし。


「騎士が信用出来ない、か」

「そう、それですよバッテン! なんですかなんですか、過去にどんな情けない騎士が居たのか知りませんし、知ったことじゃありませんし! あんな爺さんにあんな風に言われる筋合いはないんですけどぉ!」


 よっぽど煮え滾っていたんだろうか。不満をぶち撒けながら顔がぐっと俺へと近付けられる。いや近いなほんと。男が苦手なの忘れてんのかこいつ。どんだけキレてんだよ。

 あと若干お前自身へのブーメランにもなりそうな発言だって自覚あるんだろうか。ないんだろうなぁ。

 にしても、参ったなこれ。サングドとの邂逅、ろくな収穫がないまま終わってしまった訳なんだが。ハイリ隊長もそこには当然気付いてるんだろう。チャノンを必死に宥めながらも、彼女の横顔には焦りの色が濃く出ていた。


「⋯⋯っし」


 うん。確かにサングドの態度には腹が立ったし、すげなく帰れとも言われたけども、だからってこのまますんなり帰るのは任務云々以上に気に入らない。

 それにこの街の現状を知るのが、なにも八方塞がりって訳でもない。精々あての一つが外れたってだけだ。ならこういう時はがむしゃらにでも動いて打開するのが一番だし、それこそ俺の得意分野だ。


「ヒイロ、出かけるのかー?」

「おう。あの親父に言いたい放題言われてムカつくのは俺もだがな、つってもここで腐ってても仕方ねえ」

「なら自分も行くぞ! じっとしているのは苦手なのだ!」

「好きにしろ。だがあんまちょろちょろすんなよ、テメェは目を離すと何仕出かすか分からねえ」

「⋯⋯⋯⋯??」

「自覚無えのか」

「待つですよバッテン。私も行きます。正直やってられない気持ちもありますし、男と行動を共にしなきゃなんて死んでもごめんですけど、それ以上にこのまま引き下がる方が屈辱です! 見事に解決して、あの爺さんの鼻を明かしてやるんです!」

「ああそうかい。好きにしな」

「⋯⋯⋯⋯ナナは?」

「ピーヒョロは⋯⋯そこのクソザコメンタル隊長を看ておけばいいです。どうせついて来たって人見知り全開で殺気撒き散らすのがオチですし」

「⋯⋯??」

「こっちも自覚無えのかよ」


 どうやら道連れが二人出来たらしいけど、まあ問題ないだろう。多分。

 兎にも角にもまずは情報収集だ。いつぞやのコルギ村でもそうだったように、情報は足で稼ぐべきだな。


(とりあえず、この町についてもっと知らないとだな。今のことも、過去のことも)


 気を改めて、行動開始。

 ただ、漠然と知るべきことを知るべきだと思った途端。


《⋯⋯》


 いつか見た誰かの夢が、一瞬脳裏を横切った。




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