151 スヴェイズ隊
レスクヴァンのメイド長から申し込まれたのは、ちょっと特殊なクエストだった。だがせっかく出来たファンからの期待に、応えなくて何がヒーローか。当然受けるの一択だった。
シドウ隊長は眉間に皺を寄せてはいたものの、俺の選択を尊重してくれたんだろう。警戒は怠るな、と釘を刺しつつも俺の出向に了解してくれた。
そして当日。
俺は本来の申し込み先であった隊のもとへ、顔合わせするべく参じた訳なんだけども。
「えー、という訳で、レギンレイヴ隊からヒイロ・メリファーくんに来てくれました。スヴェイズ隊のみなさーん、あたたかい拍手でお迎えしようねー」
「パチパチパチ! 良く来たライバル! 歓迎するのだっ」
「「⋯⋯⋯⋯」」
「⋯⋯おう、ありがとよ」
いやなんぞこの空気。会議室の空気が、いとおかしきことカオスの如しなんですが。
ハイリ隊長のノリがおかしいというか、若干やけくそ気味というか。若干顔引きつってるし。
ウェルカム態勢なフリーゼの眼の輝きっぷりが、かえって痛いくらいなんだが。
一体どうなってるんだってばよ。ってとぼけたいのは山々だったけど悲しいかな、全く察せない訳ではなかった。
「「⋯⋯⋯⋯」」
「あえ? チャノンもナナイザもどうして拍手しないのだ? 大丈夫そ?」
だってハイリ隊長とフリーゼ以外の、残り二名から発せられる圧がやべーんだもん。明らかに歓迎してない空気が、肌にビリッビリ来てるし。
驚くべきことに、スヴェイズ隊の残り二名はどちらも美少女だった。まあ、そのヴィジュアルの良さが逆に恐さに繋がっておりますけども。
「⋯⋯歓迎しろと言われましてもね」
まず口を開いたのは、チャノンと呼ばれた方だった。
ダークブラウンのツインテールを左右それぞれ輪っかに丸め、白い花飾りで纏めてる髪型は個性的だが、それ以上にジトっとした紫色の瞳が鮮烈だった。
いわゆるジト目ってヤツなんだろうけど。敵意も込めてメンチ切られれば、流石に居心地の悪さを感じずにはいられない。
「チョロメ。来ていただきました、じゃあないんですけど? 意味がさっぱり分かりないんですけど? 寝言なら寝ていうべきですけど?」
「あの、チャノンちゃん? お、お顔がとっても恐いよ? せせせせっかくの可愛い顔が台無しですよもっと笑顔で、笑顔で! あとチョロメっていうのもそろそろ訂正して欲しいんだけど、仮にも私隊長だし⋯⋯」
「は? 何が笑顔ですかちっとも笑えませんけど? 隊長? はぁ? 少なくとも向こう千年はチョロメ呼びを変えようと思えませんけど? 余計に意思堅くなりましたけどー?」
「う、う、ううう⋯⋯」
(うっわエッグい⋯⋯)
《おお、言うねえこのジト目っ娘。いひひ》
そしてこの、凶悪をも唸らせる毒舌ですよ。
口調が敬語なのが余計に切れ味の凄さを感じさせる。
「なんでよりにもよって男なんですか! 冗談じゃありませんよ、うちの隊は男子禁制なんですけど!」
「そんな決まりないよ!?」
「チョロメは黙ってて欲しいんですけど!」
「なに!? だったら自分はどうなる?!」
「意味不明な理論でオトコになるとか抜かすポンスカは呼吸ごと止めてて欲しいんですけど!」
烈火の如く異議を唱えるチャノンの勢いたるや。フリーゼ同様の小柄とは思えないぐらいの迫力である。
理由は分からんが、どうやらかなりの男嫌いであるらしい。顔を合わせるなり露骨に敵意を示されたのは、そういう事だったのか。納得は出来ないけど、腑には落ちた。
「はぁ。チャノンちゃんはそういうと思ってたけど。でももうクエスト受領しちゃったし、ヒイロ君の参加は依頼主さんたっての希望だもん」
「だったらいっそ、レギンレイヴに丸ごとポーンと投げちゃえば良かったんですけど! どうせこのポンスカはこれっぽっちも気にしないんですけど!」
「??」
「ほら!」
「フリーゼちゃんが気にしなくても、フリーゼちゃんのお家が気にするんだってば。面子があるもん。それに、騎士が任務の選り好みなんかしちゃダメだよ⋯⋯ほら、"私達だったら尚更"ね」
「⋯⋯うぐぐぐ」
私達だったら尚更ってどういう意味だろうか。
そんな疑問が過ぎるもしかし、チャノンの勢いが怯んだのはチャンスだ。すかさず俺も、ハイリ隊長の援護射撃に出た。
「そういうこった。悪ィがせっかくのご指名なんでな、俺は降りてやるつもりなんざねえぞ。貰ったばっかの勲章に傷がつく真似は御免だぜ」
「は! なにが勲章ですか。そんな事いって、本当は女所帯にいたいだけの腹積もりでしょう! いやらしい男の考えることなんて、まるまるっとお見通しなんですけど!」
「あァ?! んな訳ねえだろうが!」
「わひっ、ち、近付かないんで欲しいんですけど! 私に指一本でも触れてみなさい、即座にセクハラ受けたと上に駆け込みますからね!」
なんだその妙に時代を先取りしたアンサーは。
しかし俺の怒号に負けじと張り合うフィズの目には、少しばかり怯えた色も浮かんでいて、やはりそれ以上は憚られた。
うーん、ダメだな。ここは一度、矛先を変えるべきだろう。難敵の相手は一旦切り上げて、俺は未だに沈黙を保ったもう一人の隊員に声をかけた。
「オイ、そっちのだんまり。歓迎されてねえのは伝わってるが、テメェも男嫌いってクチか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「ガン飛ばしてるだけじゃ退屈だろ。文句があるなら聞くだけ聞いてやんよ。オラ、来い」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯あァ?」
「えっと、そのう、ヒイロ君。あの、実は、ナナイザちゃんは恥ずかしがり屋さんで⋯⋯とても口下手で、あまりお喋りとかしないタイプでしてねっ」
「⋯⋯⋯⋯」
さて、こっちもこっちで難敵であるらしい。
ナナイザ。レスポンスの乏しさとは反して、外見は個性豊かな女だった。異国の出を思わせる褐色の肌。黒をベースにした、暗いオレンジのインナーカラーのロングヘア。長い下睫毛が生えた眼は、海の様に深い青。口元を忍者の様に黒地の薄布で覆ってる辺りも、ナナイザの寡黙さに拍車をかけていた。
チャノンが毛を逆立てて唸る小型犬なら、ナナイザは静かに獲物を凝視する大型犬って感じだろうか。しかしその放たれる威圧感はチャノン以上で、恥ずかしがり屋の一言では片付かない。
「「⋯⋯」」
当初と変わらず、着席したまま不動の女とそのまましばしの睨み合い。やがて埒が明かないと察したのか、目を逸らしながらナナイザがのっそりと立ち上がると、俺の前へと歩み寄った。
「⋯⋯」
「っ」
でかい。さっきまでは座ってから気付かなかったけど、ナナイザの背丈は俺よりも少し高く、女性の平均を大きく上回っていた。そのしなやかな長身痩躯から見下ろされると、威圧感も一入だった。
「⋯⋯別に⋯⋯」
「あ?」
「⋯⋯別に⋯⋯好きにすればいい⋯⋯」
「⋯⋯好きにだと?」
「⋯⋯うん」
「ちょ、ちょっと待つんですピーヒョロ! 男相手に好きにしろだなんて言っちゃダメなんですけど! そのバッテンが意味を履き違えて襲って来たらどうするんですか!」
「襲うか! つか誰がバッテンだゴルァ!」
「バッテン以外に髪がバッテンなやつなんて居ないんですけど! 色んな意味も込めてあなたはバッテンなんですけど! はい決定!」
「この、生意気チャノすけが⋯⋯!」
なんかバッテン呼ばわりが決まっちゃったみたいなんですけど。つかピーヒョロて。フリーゼがポンスカで、ハイリがチョロメだっけか。無駄にボキャブラリー豊かだなおい。
が、要点はそこじゃない。いま大事なのはナナイザの意思の確認だ。
「チッ。んじゃ、俺が参加しても問題ねえって事で良いんだな?」
「⋯⋯ナナ、邪魔⋯⋯ならないんだったら⋯⋯」
「ハッ。言ってくれんじゃねえか」
暗に、足手まといはゴメンって事だろう。
期待なんて微塵もされてない。舐めるなよと睨み返せば、興味が失せたとばかりに目を逸らされた。
「はぁ、今回のクエスト大丈夫かな⋯⋯うう、胃が⋯⋯」
「自分の実力に刮目せよ、我がライバル!」
「ああ、最悪なんですけど⋯⋯男と任務なんて悪夢でしかないんですけど⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
胃を押さえるハイリ隊長。歓迎ムードのフリーゼ。
断固拒否のチャノンに、無関心のナナイザ。
見事にバラバラ反応を見せてくれたスヴェイズ隊との共同任務。その先行きはご覧の通り、前途多難にどんよりと曇っていた。




