148 登場せし超新星
「まったく貴様というやつは。あれほど無礼を働くなと念入りしたというのに」
「あァ? しゃーねえだろ。王様直々に聞かれてだんまりって方が不敬罪ってヤツになるじゃねえか。」
「それにしては所々敬語が怪しかったけどねー」
「あたしはコイツが敬語使えた事の方にびっくりよ」
「同感だ」
「た、確かにちょっとぎこちなかったですけど⋯⋯あはは」
なんとか無事授与式を終えた俺ではあった。だがシドウ隊長からすれば、めでたしで終わる訳にもいかなかったんだろう。
王城へ続く長い階段を降りながらも、隊長のお小言は収まる気配がない。まあ分かってましたけども。謁見の間を出る時、青い顔しながら胃を擦ってたし。心労かけた自覚はあった。
「敬語に関しちゃシュラだって大概だろうがよ。王様相手だろーが関係なしにメンチ切ってる未来が見えんぜ」
「敬意を払うべき相手にはちゃんとするわよ。ま、敬意を払うべき相手ならね」
「含むような物言いをするな馬鹿者」
「まーまー、シュラ姐がちゃんとするかどうかはそのうち分かるっしょ。ヒイロンが貰えたならシュラ姐だって、すぐだよね? うん、すぐだよ!」
「どういう了見だコラ」
「お、落ち着いてくださいヒイロくんっ」
「⋯⋯はぁ。せめてバカ騒ぎは城門を出てからにしてくれよ」
俺とシュラが睨み合い、シャムが煽ってリャムが慌てて、隊長が諌め、クオリオがそっと呆れ返る。そんな、レギンレイヴの平常運転でお送りする日常の一環。
だが日常とはいつも、突然の非日常の乱入によって壊されるのが定めってやつで。
「ワーッハッハッハ!!!」
「「「「!?」」」」
長い階段を下り終わり、城門前へと迫る頃。
突如真上から響いた甲高い笑い声に、俺達は揃って見上げた。
音源は、なんと城門のさらに上。
太陽を背負った人影が、マントのような何かをはためかせながら仁王立ちしていた。
「やあやあ、澄み渡るかな蒼天! 揺らぎなきかな大地! 健やかなるかな眼下の人々よ!」
「な、なんなのよアイツは⋯⋯」
「むむむ! なんなのよ、と問われたのなら! 示すがノブリス・オブリージュ!!」
まるで我こそ唯我独尊とばかりの壮大な名乗りに、思わずこぼれたシュラの動揺。それをきっちり拾い上げた人影は、ビシッと構えを作ると──そのままの勢いで。
「はいさぁぁっ!」
「ええっ、跳んだ?!」
くるりと宙を一回転しながら、城門の真上から飛び降りたのだ。
となると当然、派手の着地音と砂煙が巻き起こり、俺達はたまらず咳き込む。だがしかし、俺は目を閉じ切りはしなかった。
砂煙の向こうに浮かぶシルエットを。日常を非日常に塗り替えてみせた闖入者の姿を、見逃すまいと見開いた。
「天よ地よ人よ、そしてレギンレイヴの騎士達よ! いざ刮目するのだっ!」
やがて現れたのは、一人の少女だった。
まず飛び込んだのは、エメラルドグリーンのミドルヘア。だがその髪型は特徴的で、頭頂部からもこりと左右に盛り上がり、垂れ下がる独特の癖があった。いわゆる犬耳髪ってやつか。
次に眼の色だ。くりくりとした大きな目は綺麗な金色に光っており、その輝きだけでも少女の天真爛漫さを感じさせた。
更には格好も派手だった。臍まで丸出しなキャミソールの上に、騎士団の制服をマントのように羽織る伊達っぷり。特に胸の主張が激しいったらない。どれくらいかというと、シュラですら対抗し得ないくらいの装甲幅。もっというと目視した瞬間凶悪の絶大な歯軋りが飛んでくるくらいだった。
ついでにスカートも改造しているのか、騎士制服とは思えないくらい短く、健康的な脚が剥き出しである。
総括して、リャムよりちょっと大きいくらいの身長を除けば、全体的にスケールの大きさを感じさせるヤツだった。
「自分こそフリーゼ・ディモンシュ! スヴェイズ隊の大リーダー、フリーゼ・ディモンシュなのだ! えっへん!」
そんなド派手な登場をかましたフリーゼ某さんに、我がレギンレイヴの反応はといえば。
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
答えは沈黙、であったとさ。
「あえ? あええー? バッチリ決まったのに、全然反応かえってこない⋯⋯大丈夫そ?」
なんか俺達のレスポンスが悪過ぎたのを不安に思ったらしい。さっきまでの堂々っぷりを引っ込めて、わたわたと慌てだした。
髪型も相まって犬っぽさ凄いなこやつめ。
だが。だがしかしである。フリーゼを見る俺の目は、負けじと輝いていただろう。
《うわぁ、これまたアクの強いのが出てきたねえ。こっちが大丈夫そ?って聞きたいくらいだよ。ねえマスター?》
(高笑いをかまして、さらには高所から跳躍。そんでシメに堂々とした名乗りムーブ⋯⋯こ、こいつ、できるっ!)
《あ、すんませーん。大丈夫じゃないの一人いましたー》
だって、さっきの名乗りとか凄いかっこいいじゃない。
あれは将来、是非ともやりたいね。
「むむっ、その赤い髪⋯⋯おまえ、最近活躍お目覚ましと噂の騎士ヒイロだなっ」
「ほォう、お目が高えな。いかにも、俺様がついさっき赤銅の勲章まで手にした騎士の中の騎士、ヒイロ・メリファーよォ!」
「お、おおー! その胸の勲章、本物だぁ! いいないいな、羨ましい! 羨ましいのだー!」
「ククク、そうだろうそうだろう。特別にタダで見せてやる。存分にその目に焼き付けなァ!」
「おお、ほんとか! ヒイロは太っ腹なのだ!」
俺がグッと勲章を見せびらかすように胸を張れば、フリーゼはきゃっきゃと純真な笑顔を浮かべて、俺の周りをぐるぐるとはしゃぎ回った。
やべえ、めっちゃ気分良い。
ド派手な登場シーンだったけど、フリーゼ良い子やん。人を気持ち良くさせる天才ですやん。
「あれ、なんだか光の速さで仲良くなってないか?」
「⋯⋯波長が合うんじゃない? あのバカに負けないくらいのバカっぽいし」
「あ、あんな高くから飛び降りて平気なんでしょうか⋯⋯」
「ふぅむ、あの身のこなし。なかなか出来るね、あの娘」
「⋯⋯スヴェイズ隊。ディモンシュ。もしや⋯⋯」
なんか好き勝手言われてる気もするが、確かに妙に気が合うなこの子。なんか趣味合いそうだし。戦隊アニメとか見せたらめっちゃ喜びそう。
そんな初対面にあるまじき親和性さえ感じる少女フリーゼだったけれども。
一頻りはしゃぎ終わった後、何かを思い出したかの様に、途端に緩んだ表情をキリッと引き締めた。
「ハッ。いけないいけない。自分は憧れるだけじゃないぞ、騎士ヒイロ! 今日はあくまで宣誓布告に来たのだ!」
「あァ? 宣戦布告だと?」
「そうだ!」
キッと眼つきを鋭くさせると、フリーゼはビシッと俺を指差した。どうやらこっちが本来の目的らしい。
顔立ちが甘いせいで少々迫力に欠けてはいるが、気迫の熱は本物だろう。放たれるのは、その小柄さには見合わないプレッシャー。チリチリと肌が焦げ付くような感覚は、目の前の少女の実力の高さを予感させた。
つまり、これはまさか。
「いずれ国一番の騎士として──そして! ゆくゆくは『漢』となる自分が、切磋琢磨すべき相手と見初めたのだ!」
「ほう、つまりライバル──、⋯⋯あん?」
「は?」
「えっ?」
「みゃ?」
「うん?」
「む?」
《はぁァァ?》
「⋯⋯あえー?」
すわ新たなライバル枠の登場か、と思ったのも束の間だった。
え。待って。待って。今、フリーゼさんがなんか聞き捨てならない言葉を発したような。
とんでもない爆弾発言に時が止まった俺達を、投下した御本人は不思議そうに首を傾げるだけ。
そんな奇妙な沈黙が流れること数秒。時間停止を攻略しめくれたのは、新たなる乱入者の大声だった。
「ま、ま、待ってえええ〜!!!」
「あァ?」
いつの間にか開いていた門から走り込んできたのは、切羽詰まった様子の女性騎士。肩ぐらいに切り揃えた淡藤色の髪を全力でなびかせてるその様には、余裕もへったくれも感じさせない。
「フリーゼちゃんっっ!! もー! なにしてるのもー!! また他所様に迷惑かけてー!!」
「あえ? ハイリ隊長、なんでここに?」
「フリーゼちゃんが『噂の騎士ヒイロにいっちょかましてくるのだ☆』なんて置き手紙残していったからでしょもー!
それに門の上なんかに勝手に登って! 門番さん怒ってたんだからね! うっ、けほ、こほっ」
「あらら。ハイリ隊長汗だく。大丈夫そー? 息整えてからでいいよ?」
「だ、誰のせいだと⋯⋯」
スポットライトはやいのやいのと奪われて、いつの間にか蚊帳の外。けれど、その疾走感に思わず唖然としている俺達に気付いたのだろう。はっと赤面しながら、紅茶色の目を恥ずかしげに瞬かせた。
「あ、ご、ごめんなさいお邪魔して! ええっと、レギンレイヴ隊の皆さんですよね? 申し遅れました、私はハイリ・ナインブレア。同じブリュンヒルデに属するスヴェイズ隊の隊長やってますっ。あの、よろしくお願いしますっ」




