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128 誰がそのベッドを使うのか

 まあそんなこんなの擦った揉んだがあったと聞けば、一区切りついたと思うだろ?

 でも残念ながらまだターンエンドは宣告されていなかったらしい。宵も更け、他の家々の明かりも消え始める頃。流石に此処からお帰り下さいというのも何なので、泊まってけって話になるじゃない。そこでちょいと問題が起きた。


「⋯⋯そういえば、家ってベッドが二つしかなかったね」

「あァ。俺としたことがうっかりしてたぜ」

「うっかりはヒイロのお家芸じゃないか?」

「うるせえぞクオリオ」


 迂闊だった。俺とサラの二人暮らしじゃ当然ベッドは二つ。敷き布団なんて気の利いたもんがあるはずもない。しかも片方は俺の部屋だ。


「俺とクオリオはリビングで適当に雑魚寝で良いよな」

「そこまで温室育ちなつもりはないぞ。僕は構わない」


 とはいえ騎士団でしごかれた俺達である。野郎なら床で寝転ぶくらいで丁度良い。そう、野郎なら。


「ええと、私のベッドは結構大きめですから、二人なら全然大丈夫です。三人でもなんとか」

「⋯⋯問題は、残りの一枠ね」


 問題の残り一枠は、当然俺の部屋のベッドを使うしかないって事だ。つっても何ヶ月も未使用状態なんだが。とはいえそこを気にせずってのは、女の子側からすれば色んな沽券に関わるんだろう。

 話し合いの場は今、奇妙な空気に包まれていた。


「⋯⋯あの。私は別に構わないですよ。ヒイロくんが気にしないでくれるなら、はい、全然大丈夫ですけど」

「⋯⋯そ。でもリャムみたいな繊細な子にヒイロの汗臭いベッドで眠らせるなんて倫理に反するわね。リャムが気にしなくても世間が。いや世界が許さないわよきっと」

「お、大袈裟な⋯⋯」

「大袈裟なもんですか。死活問題よ。あんたにまでヒイロの脳筋がうつったら終わりよ終わり」

「なにもそこまで言わなくても⋯⋯」


 いやね、俺もリャムみたいな子に我慢させるのはいかんともしがたいと思うよ。でもそこまで言わなくたって良いじゃない。本当に気にしてない可能性だってあるし。つか自分で我慢とか言ってて辛いんだけど。なんでこんなに辛辣なの。虐め? 虐めか? フィルター突き破ってわんわん泣くぞコラ。



「⋯⋯ま。その点あたしは野宿の経験も何度かあるし、我慢が出来ない事もないから。嫌だけど。死ぬほど嫌だけど。堅い床よりはほんの僅かに豆粒ぐらいマシかも知れないし。サラのベッドで三人寝るならリャムの方が小柄だし収まりが良いし仕方ないわよね」

「⋯⋯えと。本当はヒイロくんのベッド使いたいんじゃ」

「そんな訳ないでしょ既に脳筋がうつったのかしら馬鹿な事言わないでよ寝言は寝てからいいなさい」

「ええぇ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯俺が何したっつうんだ」

「一周回ってその素直に受け止め過ぎる心に敬意を評したいね」


 素直もクソもないぐらいの嫌がられっぷりですよクオリオさんや。ええいシュラめ。この鬼畜ライバル枠、いつか実力追い越したら全力でドヤ顔してやる。高笑いしてやっかんなマジで。


「お兄ちゃん」

「なんだサラ」


 傷心にこっそり打ちひしがれていれば、何故かこそこそっと傍に来るサラ。ひょっとして俺の言われっぷりに気を遣いに来たのか。だとしたらマジで天使ですわ。

 でもなんで小声で耳打ちして来るんだろ。


「おかしい。おかしいよこれ。私てっきりシュラさんかと思ったのに、リャムさんもだなんて。なに。お兄ちゃんって前世でそんなに徳積んでたの? なんか今日一日で色々凄いよっ」

「いや何がだ。つうか何でそんなワクワクしてやがる」

「だってこんなドロドロのサーガみたいな展開初めてだもん。乙女心止まんないよお兄ちゃんっ」

「マジでなんの話だ」


 ドロドロってなんだ。サーガって物語とか御伽噺の事だよな。こんな展開の物語ってどういうジャンルだよ。

 え。俺が虐められると乙女心騒ぐってこと? 待ってくれサラよ。新しい世界を見て来い的なノリはしたけど、新しい扉まで開けとは言ってないよ勘弁して。


「つうかサラ。テメェが俺のベッド使えばハナシは終わりじゃねえのか」

「え。ダメダメ、そんなのつまんないって」

「嫌とかじゃなくつまんねえってなんだこら」


 凶悪みたいな事言い出すなよ。ニヤニヤしてるし鼻息も荒いし。この一日で君への印象コロコロ変わってお兄ちゃんちょっとついていけてませんが。


「あぁ喉かわいた。クオっちお茶いれて」

「自分でやればいいだろう」

「クオっちがいれたお茶が飲みたいなぁ」

「僕はコーヒー専門だぞまったく」

「自由かテメェら」


 こいつらはこいつらでおもっくそ蚊帳の外で傍観してるし。このまま放っといたって収集付きそうにない。ならもう強引にでも話を終わらせよう。


「あァめんどくせえ。ならもう四人でクジ引きでもして決めりゃ良いだろ」

「えー」

「なんでサラが残念がってんだ。これ以上グダついたって仕方ねえだろ。俺もうクッタクタだから寝てえんだよ」

「ウチは別にそれでいいよん⋯⋯ずずー」

「「⋯⋯」」


 一応これでも昼間にとんでもねえのと一戦交えた後だかんな。結構まぶた重い訳よ。眠いわけよ。疲れてるわけよ。

 そんな旨を視線に込めれば、シュラもまあそれで良いか、みたいな空気になってくれている。サラだけはなんか不満そうだけど。


 ともかく、この流れを逃してはならないとばかりに俺は四本の棒きれを用意し、一本だけ先端を赤く塗る。それ引いたやつが俺の部屋なと押し切り、なんかめっちゃ緊張気味なシュラとリャムにあえて触れず。

 そうして、この騒動はようやっと幕を閉じたのであった。










◆ ◆ ◆







「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯くっ。なんであたしがこんなに緊張しなきゃいけないのよ⋯⋯」




 リビングにて、疲れ切ったヒイロがとうの昔に眠りについた頃。未だにヒイロのベッドの前で立ち往生する『赤い顔の戦乙女ノンアッシュ・ヴァルキュリア』であった。


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