126 ヒイロ死す
迂闊だった。
シュラは俺のライバルにして追い越すべき壁である。しかしそういう面から見れば、見た目は文句無しの美人だ。性格はツンツンしてて難ありに思えるが、意外と面倒見が良かったりするのはシャムとの付き合いを考えれば分かること。
先入観を捨てれば、シュラは実に魅力的な女性キャラと言えるんじゃないだろうか。んで、そういうキャラをより女性らしく演出する手法として、恋愛イベントは欠かせない。
そこで、いかにもシュラの昔を知ってます系爽やか青年の登場だ。ご丁寧にシュラのライバル枠の美女まで用意されてる。ラブコメの波動を感じざるを得ない。
(待てよ、って事はだ⋯⋯)
つまり、騎士団長から見た俺やクオリオは恋敵。気になるあの子に近しい男の影的なやつだろうか。勿論レオンハルトはそこで露骨に敵意を表すような感じじゃない。表向きは大人な対応をしつつ、内心では焦ったり寂しがったりするタイプと見た。
思えばシュラへの現状を気遣うようなあの台詞も、遠回しなアピールなんじゃなかろうか。こう、一番最初に好きになったのは俺だから的な。
うむ。完璧な推察だ。いいぞ、流石はデート経験値に偉大なる一歩を刻んだばかりの男だ。我ながら冴えてるぜ。
ヒーロー研究の為に少女漫画にまで手を出した過去も活きてるな。少女漫画にはヒーローが必ず出るって聞いたから読んだんだけど、少女漫画においてはヒーローの意味がちょっと違うんだよな。
でもつい最終巻まで読んだよね。面白かったし。だがあの経験が巡り巡って異世界で発揮されるとは。なんと壮大な伏線回収か。
(正直他人の色恋沙汰をどうこうする趣味ないんだけど、そうも言ってられないよな)
人の恋路を邪魔する云々かんぬん。邪魔も出歯亀もするつもりはないけど、微妙に渦中に居る以上は知らんぷり出来ない。それに仲間の幸福を祝うのもまた主人公の仕事。俺自身もシュラには幸せになってほしいし。
となれば問題は、俺はどう立ち回るべきかだよな。
俺とシュラはそういう関係性じゃないってレオンハルトに説き、その後は二人のフォローに徹するか。それともあえてライバル役となるか。うーん。
(悩ましい。黒子役に徹するか、障害となるか。どっちが正解なんだこれ)
《やーれやれ、これまだ頭まで血が回ってないね。マスターの残念なとこに拍車かかっちゃってまぁ》
(は? 残念?)
《なんでもなーい》
なんか凶悪がぶつくさ言ってるけど、まあいいか。シュラの恋愛模様とか興味ないんだろうし。デリケートな事だけに、余計な茶々入れられるよりは大人しい方がマシだな。
「うん。やはり変わったね、エシュラリーゼ。あの頃の険が少し取れたというか、落ち着いたね。孤立を良しとしていた君が小隊の一員になって、なにか考えを変える機会に巡り合えたかな?」
「っ。いつまで人の昔話で⋯⋯」
「にゃっはっは。そりゃあシュラ姉はウチという大陸イチ可愛い妹分を得ましたからね! えっへん!」
「姉さんったら凄い自信⋯⋯」
「まとわりついて騒ぐだけのどこに可愛げがあるんだ」
「ぶつくさ正論ばっかりなクオっちよりは全然可愛いですぅー」
「そうなのかい? 俺の目利きでは、ヒイロ君の存在が大きいと見ていたんだけどな」
「んなっ⋯⋯!」
得意ジャンルじゃない二者択一に悩んでいれば、なにやら全員からの視線が俺に集まっていた。
「あァ? 俺がどうしたって?」
「エシュラリーゼが丸くなった理由だよ。俺は君の影響かと思っているんだが、どうだろう?」
「⋯⋯⋯⋯」
シュラが丸くなったって、魔獣に対しての態度のことだろうか。まあ確かに心当たりがない訳じゃないけど。でもなんかそう答えるには謎のプレッシャー感じる。主にシュラから。
しかも、レオンハルトもちょっと恐いんだけど。なんか一瞬、目からハイライト消えた気がするし。感情を掴ませない瞳の奥で、こいつは一体何を期待してるのか。
ハッ。そうか。これはあれか。牽制なのか。
レオンハルトからすれば、自分の好いた女が他の男の影響を受けてるのはあまり面白くないのかも知れない。だからあえてこんな質問をして、俺を試しているのだ。
このヒイロは、果たして自分の恋の障害になる男なのかと。戦うべき相手なのかと。俺を見定めようとしての問い掛け。
「ククク、まあ確かに俺のおかげで多少は丸くなった所もあるかも知れねえな。あれだな、やっと見た目相応の可愛げってのが出てきたとこか」
「⋯⋯ひぇんっ!?」
「えっ」
「か、かわいげ? ヒイロお前がそんな事言うなんてどうした急に熱でもあるのか」
「はいクオっちちょっと静かにしてようねー」
「モガモガ」
良かろう、ならば見せてやる。
この俺のパーフェクトゥなアシストを。
「ちょ、ちょっとヒイロ⋯⋯」
「だが甘え。甘えぜ騎士団長さんよお! この女はなぁ、テメェみてえな輩に御せる奴じゃねえんだよ。丸くなったっつってもまだまだじゃじゃ馬なんだよ」
「⋯⋯ん?」
「あれ、風向きが⋯⋯」
フォローに徹するか。障害として立ち塞がるか。
迷うくらいなら両方やればいい。それだけの事。ライバルっぽく振る舞いつつ、二人の進展を遠回しにサポートしてやる。完璧だ。故にパーフェクトゥ。
「いいか? この女はなぁ、口を開きゃァ目つき悪ィだの口悪ィだの悪人相だの馬鹿だのアホだの。酷いもんだぜ。テメェだって目付きだろうによォ」
「⋯⋯あ?」
「それにだ、人の事を猪扱いするくせテメェだって魔獣相手じゃ狂犬みてえに飛び付きやがって。冷静ぶってるが下手すりゃ俺より喧嘩っぱやいのによ。どんだけ棚上げすんだって話だ」
「⋯⋯ねえ、ちょっと?」
「多少つっても全然少寄りよ。まだまだ刺だらけの針千本だぜ。狂犬もびっくりの荒みっぷり。どうだ団長、テメェにこの暴れ馬の手綱握る覚悟あんのかコラァ!」
「⋯⋯おい」
どうだ、これぞ気になるあの子の悪口を言われて黙ってられ無い団長様かっけー作戦!!
こんなにもシュラの悪口並べたんだ、ヒーローならすかさず俺に拳を叩き込み、彼女は素敵な人だ!みたいな事を言うはず。そしてシュラはそんなレオンハルトにキュンとなり、二人の距離は縮むって寸法よ。
まあ俺は後が恐いが、やむを得まい。お前らの恋路の為なら拳の一発や二発貰ってやる。
ようし、歯は食いしばったぞ。いつでも来い。んな呆気に取られてないで来いよ団長!
さあ!
さあ!
真っ直ぐ右ストレートで来いよ団ちょ──
《残念、後ろから真っ直ぐでした。マスターってばほんと馬鹿だねえ》
◆
「⋯⋯はっ。此処は」
「やっと起きたか、この馬鹿」
「おはよう唐変ぼ⋯⋯ヒイロン」
「だ、大丈夫ですかヒイロくん?」
「クオリオ? リャムとシャム? あァ? なんで俺はまた医務室に居やがんだ? 団長室に居たはずじゃなかったか? なにがあった?」
「転んだんだよ。人生に」
「まあ残念ながら当然ってやつ?」
「裁きが下ったとしか⋯⋯」
「?」
「⋯⋯で、さっきからなんでシュラはずっとそっぽ向いてやがる」
「うっさいバカ死ね!」
「?」
「アンタなんかアンタなんかアンタなんか!死ね!」
「???」
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