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副官の『灼炎のシュラ』原作解説VOL.2

 どうも皆様、運命の女神ノルン様のしもべ兼世話係兼保護者な気がしなくもない副官です。

 本日も原作『灼炎のシュラ』が辿ったシナリオについて紹介と解説を行っていきたいと思います。コルギ村の悲劇からのルズレーによる騙し討ちと、前章で疲弊した心を更に追い詰めてくる今章がいかなる末路を辿ったか。ヒイロ介入による現行ルートとの乖離と合わせてお楽しみ下さいませ。


 では、参ります。






◆◇◆◇◆



『灼炎のシュラ─灰、左様倣─』


【二章】


 ルズレーの謀略を乗り越え、季節は七月、夏の入口。

 晴れてブリュンヒルデ本隊所属となったシュラは新たに配属が決まった小隊レギンレイヴにて、クオリオ・ベイティガン、シャム・ネシャーナ、そしてリャム・ネシャーナの三人が同期となりました。本隊所属により寮が代わったシュラですが、元々同じ寮に住んでいただけにシャムとは顔見知り。そしてシャムから妹のリャムを紹介さら、ルズレー事変の際に聞こえた声の主がリャムであることを知りました。

 クオリオ・ベイティガンとは初対面ではありましたが、多少皮肉屋な面がありつつも読書家で大人しい彼との関係も問題はありませんでした。

 しかし、隊長として配属されたパウエル・オードブルという貴族の男が問題でした。貴族主義の塊でありながら欲望に忠実なパウエルはシュラに対し侮蔑と色情を遠慮なくぶつけるという、隊長にあるまじき男です。当然シュラは辟易とし、明確に彼を拒絶し遠ざけます。

 パウエルは憤慨してみせましたが、シュラに敵う力を持ってない事は自覚しているのか、後退り罵詈雑言を吠えるだけでした。

 パウエルも問題でしたが、更に問題だったのはリャムの持つ白魔獣『魔法のランプ』に有りました。ランプの精モクモンはリャムに対し協力的で無害な存在でしたが、魔獣に復讐を誓っているシュラからすれば、白も黒も同じ。許容出来ないと強烈な拒絶を示しました。

 結成早々に分裂の危機が訪れましたが、クオリオの論理的説得と自分を慕うシャムとの関係性もあり、一応和解となりました。



 さて、数多くの火種を抱えた小隊レギンレイヴですが、そんな事情を鑑みられる暇もなく新たな任務が下されます。その内容は大陸でも名高きワーグナー劇団への護衛任務でありました。任務が決まった数日後、彼らは劇団が開かれる街、ジオーサへと赴きます。しかし昨今の騎士界の堕落により地方国民からの信頼は冷めつつあり、このジオーサにおいても住民達からは歓迎の意は見えませんでした。

 そんな肩身の狭さを感じる中、レギンレイヴはワーグナー劇団の劇団員達と顔を合わせます。

 劇団長ドルド、二枚看板と呼ばれる名俳優マーカス・ミリオと名女優ローズ・カーマインの二人。他にも劇団員の数名とも言葉を交わしました。更にはこの街の顔役である町長ハボック、そして審問会と呼ばれるハボック含めた五人の老人達とも知り合いました。

 また護衛任務の延長として、町民達から護衛とは名ばかりの雑用の数々を押し付けられるという地方の洗礼もありましたが、特筆しておくべきはこの町特有の葬儀の方法でしょうか。

 ジオーサでは死者は地に埋めず、遺体を焼いて骨にし、町外れの渓谷にて骨を風に流すといった風習があります。故にこの町には墓地がないのだと、シュラは知りました。またその帰り道、なにやら審問会の集会所付近でこそこそと中を窺っていたマーカスと遭遇します。

 なにをやっているのかと問い詰めれば、実は集会所の中には堅牢な鍵でいくつも封された保健室が存在するのだとか。こんな辺鄙な渓谷の町に何故そんなものがあるのか、中にはいったい何があるのかが気になって仕方なかったそうです。その疑問は分からなくもないが、不審者の様な行いは慎むようにと仕事上注意したシュラに、マーカスは苦笑を浮かべると、手を煩わせたお礼にとシュラをディナーに誘います。しかしシュラは断り、そのままマーカスと別れました。

 それから町を見回っていると、以前建物が建っていた痕跡のある空き地を前に佇むローズを目にします。一体何をしているのかと疑問でしたが、そのどことなく他を寄せ付けない雰囲気に声をかけることは叶いませんでした。


 そして、次の日。

 いよいよ公演日となりましたが、劇団ワーグナーでは公演前に特製のワインを振る舞う事でもてなすのが風習だそうで、劇場となるテントにはグラスを片手に談笑する町民で溢れていました。ドルド劇団長からパウエルに諸君らも一杯どうかと呼びかけられ、パウエルは承諾。しかしパウエルはシュラ達には劇場外で警備を命じ、自分だけでワインを楽しみます。元より町民からの冷たい視線に辟易としていたシュラ達は、特に反論を挟まずにテントを出て、警備につきました。


 そして劇本番。題目は『裏切りの魔女ユリン』。

 五百年、聖欧都アスガルダムを建国した英雄王シグムント。彼の配下にありてその戴冠までの道を支えた四英雄の一角、紅焔の乙女ユリンが統一後に反旗を翻し、シグムントと対立。激しい戦いの末にユリンは敗れ、王自らに処刑されたという、史実を元にした演目でありましたが、そのクライマックスにてとてつもない惨劇が起こったのです。


 今まさに火炙りにされんとしていた魔女を演じるローズが、突如ジオーサの町民達を糾弾しました。更にそれを皮切りに、なんと町民達の半分近くが悲鳴と共に魔獣と化したのです。

 あり得ない事態にパニックになる劇場、どこから引火したのか巡り出す火の手。逃げ回る町民を惨殺する魔獣達。騒ぎを聞き駆けつけた四人の騎士の前には、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっておりました。


 炎と魔獣により被害は広がっていく一方。なんとか襲われている町民達を助けるべく動き出そうとするシュラ達の前に、魔獣と化した町民達が襲いかかって来ました。

 四人はなんとか魔獣達を退けたものの、既に町民は全滅。更にマーカスや劇団員もまた、魔獣達に殺されてしまいました。

 残るは壇上にて狂ったように笑い続けるローズ。火の手は勢いを増し、もはや生半可な青の魔術では消火も不可能。どうしてこんなことをしたのかと叫ぶシュラに対し、ローズはゾッとするほどに凄絶な笑みを浮かべて答えます。



「復讐よ」



 たった一言。

 そこから先は続くことなく、火の手によって倒壊していく景色の中に哄笑が響き渡ります。もはやどうすることも出来ずにシュラ達は劇場を脱しました。

 しかし、炎と悲劇によって心身を削られた彼らを待ち受けていたのは、火の手から逃れていた魔獣の群れと、一体の巨大な魔獣【ギガンテス】。疲弊した身体に鞭を打ちながらシュラ達は戦っていましたが、その際、クオリオがギガンテスの発する声や風貌から、あることに気付きました。

 魔獣ギガンテスの正体は、変貌したパウエルだったのです。巨大な肉の怪物と化した彼はシュラを見るなり大きな口を広げ、食いちぎらんと襲いかかってきました。

 辛うじて巨人の顎に捕まることはなかったものの、その際に巨人の腕に吹き飛ばされ、壁に激突。そこに迫る魔獣達を前に、シュラは命の危機に瀕し────その瞬間、シュラは『灯せ』と囁く内なる声を聞き、意識を委ねます。

 内なる声は幾度と囁きを繰り返し、そして。


『黄昏の火を、灯せ』


 その言葉に目を開き、シュラは新たな力に目醒めました。

 己の胸から引き抜いたのは、灼炎剣レーヴァテイン。紅蓮を纏う刀身が明らかに一線を画す存在感を示しておりましたが、目を見張るべきはその力にありました。

 シュラが振るった一閃からとてつもない規模の業火が巻き起こり、それは難敵だったギガンテスや魔獣の群れのみならず、ジオーサの街の半分をも呑み込みました。

 全てを焼き尽くすような破壊の火。それはネシャーナ姉妹から明確な恐怖を浮かばせるほどでありました。しかし、クオリオだけはその悍ましい業火に魅入られたように、焼き爛れたジオーサの街並みを、いつまでも見つめていたのでした。


 こうして事態はレギンレイヴ小隊四人を除き、生存者ゼロという最悪の結果を招きました。しかし更に追い打ちをかける物が、公演日前日にローズが佇んでいた空き地から見つかります。

 見つかったのは、空き地に埋められていた一冊の日記。それは外でもないローズ・カーマインによって記された、彼女が生きてきた軌跡でした。

 日記を見つけたシュラはこれを読み、そして⋯⋯ローズ・カーマインがいかにして魔女となったのかを知ります。



 今より二十年前に起きた『赤の魔素消失事変』によってアスガルダムでは様々な災害が発生し、多大な被害をもたらしました。当然被害のみならず、国民達を恐慌に陥らせ、やがて国民の誰かが『これは魔女ユリンによる呪いだ』という風潮が流れ出し──それは次第に『魔女狩り』と呼ばれる最悪の集団ヒステリーを生み出してしまいます。


 アスガルダム王家はこの事態を重く置き、すぐさま対処すべく活動しました。これによりアスガルダム周辺の魔女狩りは鎮静していきましたが、地方までに手が及ぶのは時間がかかりました。そしてこのジオーサにも魔女狩りは巻き起こり、その風潮に否を示したローズの母『カーネ』が魔女として火炙りとされてしまいます。

 カーネによって逃された当時五歳のローズはその後、ひとりで生きていかなくてはなりませんでした。まるで地獄の様な日々を這うように生き延びたローズは、やがてドルド劇団長に見出され、幼い頃の夢であった女優として大成します。

 ですがある日、ローズはドルドよりジオーサに公演が決まったことを告げられます。

 ローズは迷いました。母親を奪ったかつての街に再び訪れ、劇をする。彼らに対する憎しみはあれども、何かをする気にもならない。むしろ、己の過去だけを浮き彫りにするあの街と、もう関わりたくなかったのだ。故にローズは今回の巡業を降りると告げたのだが、ドルドから返ってきたのは母の死の真実についてでした。


 ジオーサの審問会は、メメントモリという骨壺の白魔獣を所有しており、その効果は壺の中に入れた死者の骨をダイヤモンドにするというもの。更にそのダイヤモンドの大きさは、死者が死の間際に与えられた苦痛や苦悩の大きさに比例する。審問会の老人達はこれを審問会のみで共有し、町民が亡くなった際は遺体を回収し、骨をダイヤに変換。そして動物の骨を磨り潰したものを葬送の儀で代用していたという、恐るべき秘密。

 そして、当時のジオーサに蔓延した魔女狩りの風潮を、ダイヤモンドを得たいが為に審問会は煽り、反対したカーネを火炙りとしたのだと。


 気付いたときにはもう、復讐の魔女となる事を選んでいました。

 そしてローズは再び故郷へと降り立ち、ドルド劇団長より与えられたワイン⋯⋯人を魔獣に堕とす『神の毒』を用いて、ジオーサに死を齎しました。



 街は死に、罪には罰が与えられ。

 そして、魔女は死にました。

 呪った全てを道連れにして。





 シュラは日記を手に、あの渓谷を訪れていました。

 復讐は果たされ、そして魔女は炎の中に果てました。

 残されたのはこの日記。


 シュラは言葉もなく、手の内の日記に火を灯しました。

 日記は燃え、灰となり、渓谷に散っていきました。

 復讐の果てに、ついには何もなくなって。

 まるで自分の行き着く先のようだと、シュラは囁き、第二章の幕は降りたのでした。




◆◇◆◇◆




 いかがでしたでしょうか。

 原作では完膚なきまでのバッド展開で終わった第二章ですが、それだけに現行ルートでの被害の少なさが際立ちますね。

 乖離点をあげていくと⋯⋯


・ローズは死亡せずに生存。ヒイロに対して並々ならない執着を抱えながら、かつ自分を誑かしたドルド劇団長の正体について探る事を決意。

・審問会は全員生存。騎士団によって裁かれ、重刑に処される。

・ジオーサの町民達、全員生存。町民達は後にジオーサに墓地を作った。余談だが、墓地の場所はカーマイン家跡地。その際にローズの日記を見つけ、町民達は改めて己の過ちと向き合う事となった。

・ワーグナー劇団、ドルド劇団長を除き生存。ドルド亡き後、劇団は解散となったとか。

・パウエルは投獄されたままであり、隊長はシドウが務めている。

・シュラの覚醒具合。現行シュラはレーヴァテインの業火を使えるが、街の半分を呑み込むまでの威力ではない。

・シュラは魔獣への憎しみは捨てられずも、白魔獣への態度は原作より軟化。

・シュラの生きる目的が復讐から別のものへと変わりつつある。

・ヒイロの存在により、リャムに心の余裕が出来る。ただしその分、苦心する要素も増した模様。


 他にも細かな点は多々ありますが、特筆すべき所は以上となります。

 いやはや、こうして並べて見るともはや別のお話かというくらいに展開が違いますね。これらの乖離がこの先どれほどの影響力を持つのか。特に存命しているローズの今後の動向については、要注目なのは間違いないでしょう。


 今回はこれにて閉幕とさせていただきましょうか。

 長時間お付き合い頂きありがとうございました。


 それでは皆様、また次章にて。


 はい、さようなら。





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