表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くだんのけん  作者: 佐倉夕日
序章
3/11

夢の話 第一夜

 ある晩、私はこんな夢を見ました。


 私は寝室の十二畳間にいて、時間は分かりませんが、どうやら夜のようです。遠くの田圃に蛙の鳴く声が、お屋敷に染み渡るように伝わってきます。


「どうして直道さんは、私のお父さまではないのですか?」


 もうお休みの時間は過ぎていましたが、私と透子さんは並んだお布団の上で膝を突き合わせ、お喋りを続けていました。直志さんは寝息をたてて、部屋の隅で丸まっています。


「父さまは久々宮家の父さまだからだよ。あんたは久々宮じゃないでしょ」

「じゃあ、私のお父さまは誰ですか? 浩助さん?」

「浩助はあんたには関係ないよ。私にも、直志にも関係ない」


 浩助さんとは真弓さんのお父さまのことです。私が唯一思い当たったのは彼だけでした。


「私は……直道さんの子供ではないのですか……?」

「違う。浩助の子供でもない」

「それなら、どうして私と透子さんたちは兄妹なのですか?」


 そこで透子さんはくつくつと、いかにも意地悪そうに笑いをこらえながら言いました。


「あんたは兄妹なんかじゃないよ。あんたなんかと同じにされちゃ、私たちの血が汚れるってものだわ」


 風と共に、新しい畳の匂いが鼻にかかりました。人の動く気配がして、同時に蒲団が翻りました。部屋の隅の方です。私が振り向いたときには、もうこちらに向かって直志さんが歩いてきていました。


「そういう事を言うものじゃないよ。血は繋がっていないけれど、今は同じ部屋で寝起きをする間柄だ。この子が勘違いするのも無理はない」


 今は? 勘違い?


 私には直志さんがいったい何を言っているのか、分かりません。ただ、ぼんやりと考えていたことは、血が繋がるとはなんだろうな、いつになったら私の血は繋がるのかな、などということでした。


「直志は平気なの? こいつのせいで父さまは私たちに辛くあたるのよ。こいつがいなければ、きっと父さまは優しくしてくれるんだわ」

「父さまが厳格なのは俺たちのためを思ってのことだよ。将来、俺たちは久々宮家を背負っていかなければならない」

「だからって、こいつがかわいがられるのは納得できないわ。私たちが武術の稽古で痛い思いをしてるとき、こいつは浩助の所で紅茶なんか飲んでるらしいじゃない」

「紅茶なら、今朝の会食で飲んだはずだけど……そんなに飲みたいの?」

「そういうことを言ってるんじゃない。あんな堅苦しい思いをして飲む紅茶が美味しいものですか! いい? 私はこいつがいい思いばっかりしてるのが気に入らないのよ!」


 透子さんがそう言うと、直志さんは少し考えるようにこめかみを押さえ、「お前は今、幸せかい?」と私に尋ねてきました。私は少し思案して、「いいえ」と答えました。


「ふざけないで! あんたはいったい自分を何だと思ってるの? 化け物の――」


 透子さんがいっそう大きな声で怒鳴ったと思うと、急に勢いをなくして、部屋の一角を見つめました。


「浩助……」


 透子さんが見つめる先には、今までに見たこともない、恐ろしい表情をした浩助さんが立っていました。


「残念です。直道さまの言い付けですので」


 浩助さんは透子さんの手首を掴むと、そのまま寝室から引きづり出して行きました。直志さんは我関せずといった表情で、黙ってお布団に潜り込みました。


 透子さんは泣いていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ