伝説的銘酒「勝大魔王神」を思い出に…
我が大日本帝国陸軍女子特務戦隊も、遂に前線へ向かう事となった。
だが私には、内地で片付ける事が残っている。
「失礼致します!友呂岐誉理少尉以下3名、出頭致しました!」
声に応じた私は、廊下で待つ部下達を執務室へ招き入れた。
凛々しく整列した、初々しい少女士官3名。
この信太山駐屯地で苦楽を共にした腹心達だ。
「先の壮行会、貴官等は兵達と共に存分に楽しんだろう。今から二次会といこうじゃないか。」
私の持つ一升瓶に、部下達の目は釘付けだった。
「それは福島銘酒『勝大魔王神』でありますか?入手困難で半ば伝説視されていたという…」
長い髪を左側頭部で結った士官が、興味津々と覗き込んでいる。
「遠慮するな、園里香少尉。先の麻雀で貴官等から巻き上げた金で買った酒だ。」
伝手で購えた高級酒だが、若い身空で戦地へ赴く部下達の為なら安い物だ。
かくして4人だけの二次会が幕を開けたが、福島銘酒の肴には和菓子が用いられた。
「これが存外、日本酒に合うのであります。」
四方黒美衣子少尉は、愛しげに金鍔を頬張っていた。
実家の和菓子屋から送られた菓子なら、無理もない。
「戦勝凱旋の後には『ともの湯』へおいで下さい。大佐でしたら入浴料も自分が奢らせて頂きます。」
岸和田生まれの友呂岐誉理少尉は、代々続く実家の銭湯を誇りにしていた。
共に家業へ深い愛着を持つ、感心な孝行娘だ。
そんな彼女達に銃を持たす時勢が、何とも嘆かわしい。
成人して間もない身空なのに…
-果たして何人、親許へ帰してやれるか…
そんな考えが頭から離れない。
「畏れながら大佐…自分達は決して、死にに行くのではありません。」
「うっ…?」
改まった面持ちで私に意見具申したのは、園里香少尉だった。
「平和な社会の繁栄を見届けるまで、戦争は終わらない。大佐の御言葉であります。」
「然りだな、園里香少尉…」
四方黒も友呂岐も、私達の応酬を静かに見つめている。
「よし、3名とも傾聴せよ!必ず勝利し故国へ帰還しろ!再び卓を囲めるようにな。」
「はっ!承知しました、天王寺ルナ大佐!」
力強い答礼が、眩しくも美しい。
-これは別れの杯ではない。新たな固めの杯だ…
私は少女士官達の笑顔を目に焼き付けつつ、杯の銘酒を一気に飲み干した。