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浅草お狐喫茶の祓い屋さん~あやかしが見えるようになったので、妖刀使いのパートナーになろうと思います~  作者: 千早 朔


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歓迎されない来訪者①

「……よろしいですか。皆さま、彩愛様」


 面の頬部分を強張らせたお葉都ちゃんが、いつもより硬い仕草ですっくと立ちあがる。

 お馴染みのお座敷に集まっているのは、私に雅弥、そしてカグラちゃんに、渉さんと勢ぞろい。

 現在の『忘れ傘』は『準備中』の札が出ていて、貸切状態になっている。


 忙しなく胸を打つ緊張に両手を握り合わせながら、注目を受けた私は「……うん。お願い、お葉都ちゃん」と頷いた。

 覚悟を決めた様子で、お葉都ちゃんも深く頷く。


「それでは……」


 片方の手で着物の袖口を抑えたお葉都ちゃんは、滑らかに後頭部へと手を伸ばし、簪の一つを引き抜いた。

 赤い玉の艶めくそれを胸前で持ち、すうと吸い込んだ息に肩が上下した刹那。


 簪が淡く光りを帯び、白い煙が全身を覆ったかと思うと、柔く揺らめぎながら少しずつ薄らいでいく。

 と、その合間から覗いたのは、見慣れた私の唇によく似た――。


「い、いかがでしょうか」


 目尻の下がった、穏やかながらも凛とした目。柳のような美しい眉。

 すっと通った鼻筋から連なる鼻先は小さく、唇は馴染みのある、中央が少しふっくらとした"私"と同じ形。


「あの……彩愛様?」


 恥じるように染まる頬。

 不安気な瞳が私に向く。


「……満点」


「はい?」


「――お葉都ちゃんっ!」


 感動に立ち上がった私は、お葉都ちゃんへと一気に駆け寄って、


「成功よ成功っ! もうかんっぺき!! 天才っ! すんごい美人さん!」


 勢いにお葉都ちゃんの両手を握りこめて、興奮に思いつく限りの言葉を並べ立てる。

 お葉都ちゃんは安堵したようにほっと息を吐きだし、


「やっとのことで、こうしてご披露できるまでになれました。まだ限られた時間のみですが、こうして望んだ以上を手に出来たのも、彩愛様のお力添えあってのことでございます。本当、なんとお礼を申したらよいか……」


「私にお礼なんて。ぜーんぶお葉都ちゃんの頑張りの賜物じゃない!」


「……いいえ。私だけでは、到底成しえなかったことです」


 お葉都ちゃんは首を振って、


「カグラ様のご指導に、渉様のご協力。そして雅弥様にも、出入りする私を咎めることなく、温かく見守って頂きました。こうして皆さまとのご縁を結べるに至ったのも、あの夜、彩愛様がこの私を救い、導いてくださったからにございます。本当に、ありがとうございます」


 深々と頭を下げるお葉都ちゃんに、私は慌てて口を開く。


「それこそ、お葉都ちゃんの人柄……あやかし柄? あっての縁じゃない。それこそお葉都ちゃんがもっと嫌な性格だったら、私だって、一緒に"顔"を作りたいだなんて思わないし。カグラちゃんや渉さんだって、手伝ってくれなかったと思うもの」


 ねえ、と二人へと視線を流すと、


「そうだねえ。いくら彩愛ちゃんの頼みでも、好きになれない子にまで手は貸さないかな」


「俺は雅弥様とカグラさんの決めたことに従うまでですが……。お葉都さんが手伝ってくださるようになったおかげで、この店もかなりスムーズに回るようになりました」


 やっと姿を見て、直接お話出来るようになりましたね。

 嬉し気に微笑む渉さんに、私はん? と首を傾げ、


「そういえば、これまで渉さんとお葉都ちゃんって、どうやってお話してたんですか? 毎回カグラちゃんを通して……?」


「はじめはそうする場が多かったのですが、その後はお葉都さんに、文字にてお話いただいてました。慣れてきてからは音をたててもらったり、揺らしてもらったり。なんにしても、お葉都さんが文字もお上手で助かりました」


 カグラちゃんが肩をすくめて、渉さんの言葉を引き取る。


「あやかしの皆が皆、文字の読み書きが出来るってワケじゃないからねえ。明治以降の近代化で、現世うつしよから隠世かくりよに移るあやかしが多くなった影響もあって、近頃はヒト型の姿を持つあやかしも増えたようだけど……そもそも"言葉"に興味ないあやかしだっているし」


 知られざるあやかし事情。

 ふんふんと興味深々で頷いた私は、理解したと手を打って、


「つまり、こうして皆に助けてもらいながらお葉都ちゃんの"顔"が完成したのは、やっぱりお葉都ちゃんの努力あってのことってワケね!」


「うんうん、そういうことだね!」


 ね、とお葉都ちゃんに視線を戻すと、赤みがかった黒い瞳が感極まったように滲んだ。


「……皆さま……ありがとうございます。私は本当に、幸せものでございます」


「けどけどお、お葉都ちゃんにはもーっと頑張ってもらわないとだからね。次はヒトでいられる時間を伸ばす訓練しなきゃだし、ボクとの"対価"で、お店の手伝いもあるしねえ」


「はい。精一杯努めさせていただきますので、引き続きよろしくお願いいたします」


 頭を下げるお葉都ちゃんを微笑ましい気持ちで眺めていた私は、「そうだ」と思い出し、


「お葉都ちゃんに渡そうって思って、持ってきたモノがあるのだけど」


「私に、ですか?」


「ちょっと待ってね。ええと……」


 畳に膝をついて鞄を開ける。

 直後、見つけた目的の小箱を手に、私は再びお葉都ちゃんの傍へ。


「これ、良かったら貰ってくれない?」


 受け取ったお葉都ちゃんは戸惑いがちに、白いリボンを引いて蓋を持ちあげた。

 その中から更に、黒く細長い小箱を取り出し、まだわからないといった風に上部の蓋を開けて傾ける。

 ストン、と掌に現れたのは、黒いボディに金の輝く――。


「……これはっ」


 驚く声に、私はにんまりと指先を自身の唇へ。


「そ、私が今ぬってるリップと同じ色の口紅! お葉都ちゃん、前にこの色が素敵だって言ってたでしょ? だから、念願の"顔"が完成したお祝いに、私からプレゼント」


「彩愛様……本当によろしいのですか? こんなに素晴らしいべにを、私めが頂いてしまって……」


「お葉都ちゃんの為に買ってきたんだもの。嫌でなければ、使って」


 お葉都ちゃんは「……ありがとうございます、彩愛様」と口紅を胸に抱きしめてから、


「……少々、鏡をお借りしてもよろしいでしょうか」


 もちろん! と即座に鞄からハンドミラーを取り出した私に礼を告げて、膝を折り、畳に座したお葉都ちゃん。

 伏せられた瞼。

 片手で開いた鏡を覗き込みながら、ゆっくりとなぞるようにして、滑る口紅が唇に色をさす。


「……いかがでしょうか」


 恥じるような問いかけに、私は力強く頷いて、


「さいっこーに似合ってる! お葉都ちゃんは、どう? テンション上がった?」


「とても、嬉しいです……。これまではいくら美しいべにを見つけても、飾る先がありませんでしたから……」


 お葉都ちゃんは「それに」と頬を染めて、


「なによりも、彩愛様と同じ唇を同じ色で染めれたことが、一番に嬉しゅうございます。先ほどから胸の高鳴りが増すばかりで……ずっとこのままにしておきたいと、叶わぬ願いを抱いてしまうほどに」


「あ、それはダメだからね。寝る前にちゃーんと落とさないと、荒れちゃったり、色素沈着の心配があるし!」


 お手入れは美の基本なんだから! と息巻く私に、心しておきますとお葉都ちゃんが麗しく笑む。

 彼女のために選んだ品を喜んでもらえるのは、私も嬉しい。


 けど、その喜びが大きければ大きいだけ、罪悪感が増すというか……。

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