始まりは洞窟の中で
涼しい風が吹き抜け、どこからか滴が落ちる音が聞こえてくる。すぅっ……と湿った空気を吸い込み、ゆっくり目を開けた。瞼が持ち上がる感覚があるって事は、普通に目がついているってことか。よし、OK。
……変な反応に見えるかもしれないけど、これ大事。だって、目を持たない何かになってるかもしれないじゃん?
一応見える範囲で辺りを確認するが、どこもかしこも暗闇に囲まれている。ぼんやりと岩のようなものは見えるけれど。
まったくさぁ、あのバカ神な~んの説明もしてくれなかったから、此処がどこなのかもわかんないし……さて、どうしよっかなぁ。
「まずは自分の身体の確認かな。さて、どうしようか……」
いや、マジで周りが暗すぎてさぁ……。しかも、手をついて起きようとしたら、なんか手の感触しなかったし。ワンチャン人外になってる?
そんな風に考えていると、何かが近づいてくる気配がした。
ぺたぺたと湿った足音が聞こえるあたり、やっぱり洞窟かなんかなんだろうなぁ、ここ。
ちょんちょん
「ん?」
暗闇の中でもぼんやりと見えるぐらい輝いている黄色い生き物。
……黄色って聞くと、某携帯獣の黄色い悪魔を思い出すけどもね。ただ足元に居る黄色い生き物は、大きさは同じくらいかそれより少し小さいくらい。あと、色がもっと淡いっぽい。レモン系の色してるし。それが僕の足をつついてきた。
「何? 僕に用事?」
《そうだよ》
「!?」
え、今、しゃべった……!? いや、しゃべったにしては口元が動く気配が無かった。という事は、思念というか、テレパシー的なやつかな。多分。
1人百面相(まで行かないけど近い事をしていた)をしていると、黄色い生き物が笑う気配がした。おいコラそこ! 笑うな!
《ボクは君の分身みたいなものだよ》
「分身? え、いつの間にそんなこと出来るようになってたの僕」
《キミが考える分身とは全く別な物だよ。ボクはキミをサポートするために生み出されたからね。……そんなことより、簡単な魔法の使い方を頭に送るよ》
「ちょっと待って、情報量がそこそこ多い。整理させて」
《ゴメンね、時間ないんだ》
僕の静止を聞かずに先に進む生き物。ちょっと待って、本当に待って? 聞き逃せない事ガッツリ言ってなかった?
そんな事を思っていると、どこからか突然、一番簡単な火属性魔法の出し方が浮かんできた。
犯人は目の前でうろちょろしている生き物だろうけどね。なんでそんなに急いでるんだか……まぁ、でもせっかくだし、やってみるか。
「身体からオーラ的なのをぶわっとだす感じで、右手を口元へ持って行って、技名を言いながら息を吹きかける……ちょっと待って、手が無い」
《要は出す場所がイメージ出来ればいいよ》
「なら、足元より少し前あたりに……"ファイアボール"」
身体から熱いオーラを出すようなイメージをしてみる。
……おぉ、なんていうか、風呂上りとかシャワーあがりの、身体がぽかぽかしてる感じがする。あと、オーラって言うのはあれか、湯気的な感じか。目で見なくても身体の周りに、こう、ふわほわとしてる感じがする。雰囲気的な。
そして、足元より何メートルか前を意識しつつ技名を言い息を吹きかけると、意識した場所に無数の火の玉が生まれた。ただ、コントロールが出来ていないせいか、すぐにどこかに飛んで行って消えてしまったけど。
「……めんどい」
《そう言われてもね……。この世界の魔法はイメージと名読みか詠唱で出来ているから……》
「詠唱は何となく分かるけど、名読みって?」
《技名を言う事だよ》
え、それ相手に自分の技ばらしてるじゃん。無詠唱とか出来ないのかな。そもそも、詠唱もだるいし技名言うのもだるい。え~っと、とりあえずイメージ出来ればなんか出せるのかな。それなら、割と簡単に出せることになるんだけども。
そう思いつつ、近くに落ちてた(さっき飛び散った火の玉が偶然照らしてくれた)木の枝を手に取り、再度イメージしてみる。
さっき身体から出していた熱を、口元に集める感じで……うん、身体の温かさが薄まって口元が熱くなった。このまま口元で着火させるイメージをして……って、あっちぃ! 素手で火を触ってるみたいだ!
「そのまま吹き出す感じで、木の枝に着火させて……おっ!」
本当に炎が出たらしく、木の枝に火がついた。うんうん、本当にイメージで出せるとは! なんか黄色い生き物がびっくりした顔をしてるけども、スルーしとこ。なんか、“え、名読み無しで出した……?”とか言ってる気がするけど、気のせい気のせい! 面倒くさそうな気配がするし!
ってなわけで、じゃじゃーん! 簡単松明の完・成☆
「あと、銀色の物体……鏡みたいなのが良いんだけど、っぽいものでいいや。それをめっちゃ磨いてピカピカにしたイメ―ジで……とりあえず鉄板みたいな感じで」
松明の近くにそれをバンっと置いて。……松明ぐらいじゃ溶けたりしないと思うけど、まぁ気を付けないとね。よし、これで準備完了!
さっそく、僕の姿を見てみようじゃないか!
「手の感覚無いし、絶対人間じゃないよなぁ……」
そう思いつつ、僕は自分の姿を見て……落ち込んだ。
うん、そりゃ覚悟はしてたよ?まぁ人じゃないだろうなぁと。手、無いし。でもさぁ……これは無いっしょ。
ばさりと羽ばたけばきらきらと輝く羽根が舞い散る金色の翼に、銀色の身体に金の脚と銀の鉤爪、濃紺のくちばし、金の尾に銀の綿毛と銀の尾に金の綿毛がついた尻尾。
……何この無駄にギラギラしてる身体。不便過ぎない??
「チェンジで」
《文句言わないでよ……仕方ないじゃん、象徴ってそういうものだし》
「は? 象徴?」
またもや僕の知らないところでなんか起こってない?象徴って何?国の象徴とかそういう象徴だよね?はっ?
元の文章を大幅に加筆修正しています。