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壷中天  作者: 木の枝
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ひとり

 目を覚ますと、視界に入るのは白い天井。体を起こし、床に目を向けると、寝る前と何一つ変わらない床に散乱した本と倒れたソファ。ここには私しかいない。当然、この惨状を片付けるのも私しかいないのでそれは当然のことなのだが、溜息が出た。別にこのままでも良いのかもしれないがこのままでは歩きにくいし、やはり片付けるべきだろう。それにしても。―――――これを片付けるのか。一人で。


 寝る前よりも落ち着いて冷静さの戻った頭でそう考える。これをやったのは自分自身なので自業自得としか言いようがない。この部屋―――――おそらくは壷の中―――――には私がいくら叫んでも喚いても、「どうした。」と言ってくれる人はいない。私が暴れても、止める人はいない。私が暴れた後、その惨状を目にして怒る人はいない。私が片付けるのを手伝ってくれる人もいない。


 そこまで考えて、唐突に思い至ったこと。もしかして私は、人恋しいのだろうか。苛立ちの原因はまさか―――――それなのだろうか。






 人と関わることが苦手だった。


 ―――――はずだ。だからここで人恋しいなどと思うはずなどない。


 “私”は私に嗤われることが怖かった。そして、人と関わり、その中で激情を表せば確実に“私”は私を嘲笑する。だから一人でいたくて、叶うのであれば引き籠っていたかった。でもそれは許されなくて、それでもできるだけ人と関わらないようにしようとした。


 一方で私は誰とも関わらないことがかえって周囲の関心を集めることを知っていて、私は周囲の関心を集めることも恐れていた。私を嘲笑する“私”が見ているように、他人にも私が見えているのではないかと恐れていたから。そして可能な限り関心を集めず、人と関わらないために選んだのは普通でいること。あくまでも距離はおいたが適度に友人を作り、勉強も運動も平均的なところをキープし、周囲と話を合わせるために流行をチェックした。


 だが。確かに私は、休日などは可能な限り一人でいて、本を読むかぼんやりするかして無為に過ごした。引き籠りたいと思ったことは何度もある。しかし、そう思っただけで、実行しようとしたことは一度もないのではないだろうか。今ここにいることにしても、意図してこうなった訳ではなく、ほとんど偶然に近い。あの彼にメモを渡されていなければ、私は一人になりたいと思いながらも、これまで通り、平凡すぎるほど平凡に生き、なんだかんだと言いながらも人との接点は持ったままだっただろう。


 そして、普通に見せかけるという譲歩策を選んだ理由は、どこか言い訳じみていないだろうか。一人でいたいという私をごまかして他人と関わるための。いや、そもそも周囲の目を恐れていたといいながら、本当は孤立することを恐れていただけではないのだろうか。結局のところ、一人を望んではいても独りは求めていなかったのではないか……?


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