辺境伯令嬢 ソフィア・マクロレンス
「はて、何やら赤ん坊の声が…」
眩しいっ!
というか、何この綺麗な天井。
美術館みたいだわ。
「まぁっ!奥様!可愛い女の子ですわ!」
「えぇ、えぇっ!かわいい私のソフィー。
よく産まれてきてくれたわ!」
明るい喜びに満ちた声と、
耳元で聞こえる涙ぐんだ声。
まだ眩しくてぼんやりとしか分からないけど、
超絶美人だわ。
ハリウッド女優みたい!
「お姉さん、ここはどこ………ん?」
あれ?
この声って私?
どういうこと、頭打っておかしくなったのかしら。
まだ、夢?
夢なら、覚めて!
急がないとテストあるし、宅配来ちゃう!
「覚めろー‼︎」
「あらあら、どうしたの?」
恐らく超絶美人のお姉さんが、ジタバタ暴れる私をあやしながらオロオロと目を泳がす。
「奥様、もうこんなに元気に動かれて、お嬢様はきっと健やかに育たれますわ!」
お姉さんより、少し若い?女性が嬉しそうに、お姉さんに話しかける。
「そ、そうよね。元気な証拠だわ!
―――あぁ、かわいいソフィー。
そろそろ旦那様もお帰りになるわ!
もう少し起きていて?」
ふふっと、上品に笑うお姉さんは、声まで綺麗だ。
んんー、旦那が帰るって、
お姉さん人妻か!
というか、会話的に私が娘なの?
なかなか込んだ夢ね。
それに何か、見覚えのある顔のような…
こんな美人さん見た事あったかなぁ?
「ゔー!」
だんだん視界も晴れて来たから、
キッと目を細めて周りを見る。
視野範囲せまっ。
あれ、この部屋の装飾どっかで…
お姉さんの顔も誰かに面影が。
んー、誰だっけ。
「ねぇっ、マリー⁈」
「如何されました?」
メイド服の女性は、マリーっていうのね。
「この子ったら、"起きてて"とお願いしたら、
目をキリッとさせたのよ!
私の言葉が分かるんだわっ!」
パァッと華が咲くように笑うお姉さん。
ごめん、違うわ。
「まぁっ!それは素晴らしいですわ!
旦那様と奥様に似て、とても賢くていらっしゃいますね!」
マリーさんが、きゃっきゃとはしゃぐ。
マリーさん?
――――ダダダ ダッ!
――――バンッッ‼︎
「クリスティーヌっ!」
…びっくりしたぁ!
いきなり美青年が大声で叫んで部屋に入ってきた。
まさか旦那か?
「旦那様っ!見てくださいっ、私達のかわいいソフィーを!」
「ソフィー?そうか!女の子が産まれたんだねっ!でかしたぞっ!」
わーお、美青年のとびきりの笑顔頂きました!
何のご褒美ですか、コレ。
カメラ、誰かカメラをちょうだい!
……そういえば、グラ学の悪役令嬢の愛称はソフィーだったっけ?
結構、顔が好みだったのよねー。
それに侍女の名前も、たしかマリー。
ちょうど、こういう感じの焦げ茶の髪に、丸眼鏡で。
―――たしかソフィーの母親の名前は、、
「えぇ、旦那様。ソフィーはあなたに似て、とても賢いのよ。」
「おぉ、そうなのかい?それは将来が楽しみだ!
それにしても何て可愛いんだろうっ!
髪の色はクリスティーヌの綺麗なブロンドそっくりだ!」
そうっ!クリスティーヌ!
何だろう?
急に冷や汗が。
「あらっ?ソフィー?どうしたのっ?
こんなに震えて!」
幸せから一転、蒼白のお姉さんもとい、クリスティーヌ。
「カロン!僕のソフィーが急にっ!」
美青年もとい、マクロレンス辺境伯が慌てて
初老の男を連れて来た。
誰かしら。
もう頭がいっぱいで、倒れそう。
早く夢なら覚めてっ―――。
「ソフィー?ソフィア!しっかりして!私のソフィア!」
「奥様!落ち着いて下さい!
ここはカロン先生にお任せしましょう?」
「あぁっ、ソフィア!目を開けてちょうだい!」
王暦138年 8月 8日 18時32分
マクロレンス辺境伯令嬢、ソフィア・マクロレンス
親しい者からはソフィーと呼ばれ、後に隣国にまで名を轟かせた令嬢の誕生である。